CA863 – 米国連邦政府電子情報への公共アクセスの動き / 富田美樹子

カレントアウェアネス
No.163 1993.03.20

 

CA863

米国連邦政府電子情報への公共アクセスの動き

米国議会で,2つの法案(HR2772,S2813)に関する合同公聴会が開かれた(’92. 7. 23)。これはGPO(政府印刷局)がGateway/WINDOと呼ばれるサービスを通して,連邦政府に存在する電子情報に対する公共アクセスを,電話回線やコンピュータ・ネットワークを通して,安価に簡便に提供しようというものであった。これまで民間ベンダー経由で非常に高価だったり,利用が限られたりしていた連邦政府の電子情報やデータベースに対して,1400の寄託図書館を通した場合は無料で,それ以外の申請者に対しても,流通に要する付加コストだけの安価な料金で提供しようというものである。

公聴会で証言に立ったALAの前会長パトリシア・G・シューマンも「このようなゲイトウェイによって政府情報に対する公共アクセスが保証されない限り,我々は真の情報化社会に暮らしているとはいえない」と発言し,印刷局長官も「時機到来と言えよう」とこの法案を支持した。しかし一方,GPO内においてもこの法案そのものには慎重論がある。厳しい予算の中で,寄託図書館からのアクセスを無料とした場合の財政負担,自宅から自由にアクセスできるのは「壁のない図書館」へ一歩を進めるという評価がある一方で,膨大にふくれあがるであろう要求に対する財政基盤の無さなどからである。

GPOでは,寄託図書館制度の中で独自に電子情報への対応を進めており,販売部の中に電子情報サービス室を新設し,各政府機関の出版担当官と密接な連絡をとり始めている。

このような動きの背景には,政府刊行物へのアクセスが保証された米国においても,近年様々な形で情報の公開性が制限される傾向にあり,特に電子情報に対しては,現行法の下では政府刊行物の定義に電子情報が含まれるかどうかが明確でないため,GPOは各政府機関に対して電子形態の寄託資料を要求する法的権限を持っていないということがある。これまでにも法改正の動きはあったが,U. S. Code Title 44の改正を伴う今回の法案に関しては,9月に主旨を取り込んだ新法案が提出され(HR5983),会期末に下院を通過したが,会期切れで上院通過には至らなかった。法案成立のためには,新政権の下での103議会に再提出されなければならない。今後の行方が注目される。

富田美樹子(とみたみきこ)

Ref: H.R. 2772 GPO Wide Information Network for Data Online Act of 1991(WINDO)
S. 2813 GPO Gateway to Government Act of 1992
H.R. 5983 Government Printing Office Electronic Information Access Enhancement Act of 1992
American Libraries 23 (8) 617; 23 (10) 824, 1992
LC Information Bulletin 51 (16) 361-362, 1992. 8. 10
New challenges: an interview with U.S. Superintendent of Documents Wayne P. Kelley, Jr. Government Publications Review 19 (4) 321-331, 1992
長谷川俊介,森山りや子 米国連邦政府の情報普及制度と最近の動向 情報の科学と技術41 (12) 943-950, 1991