CA955 – GPO電子情報アクセス強化法が成立:政府電子情報の提供に向けて一歩 / 田中智子

カレントアウェアネス
No.180 1994.08.20


CA955

GPO電子情報アクセス強化法が成立
−政府電子情報の提供に向けて一歩−

102議会(1991-1992)に,連邦政府の電子情報に対する一般公衆からのアクセスを拡大する目的で提出された,いわゆるWINDO/Gateway 法案(H.R.2772及びS.2813)は,共和党を中心とした反対によって廃案となり,内容を大幅に改変して提出された法案(H.R.5983)も,会期切れで成立には至らなかった。そのため,この103議会(1993-1994)における動向が注目されたが,H.R.5983とほぼ同じ主旨の法案(S.564)が上下両院を通過・成立し,「政府印刷局における電子情報アクセス強化法(Government Printing Office Electronic Information Access Enhancement Act of 1993)」(P.L.103-40)として公布された。(l993.6.8)

今回の立法の背景には,第一にアクセス権の問題がある。過去20年の間に連邦の各政府機関においては情報の電子化が進行し,その動きは1980年の公文書作成事務の削減に関する法律“Paperwork Reduction Act of 1980”(P.L.96-511)によって一層推進された。その一方,政府情報に対する市民のアクセス権は,印刷された出版物に限っては1966年に制定された連邦情報自由法“Freedom of Information Act”(P.L.89-487)で保障されていたが,電子情報に関しては現行法上明確な規定はされていなかった。当初は,一般公衆の多くがデータベースを利用する習慣がないこともあり利用に積極的ではなかったが,「PC革命」の結果,コンピュータは身近なものとなり,電子情報への需要は高まってきた。しかし,政府機関のデータベースの編集・提供には民間ベンダーが携わっていることから,政府の電子情報の提供価格は非常に高額であり,入手可能な情報に較差が存在する原因となっていた。

WINDO/Gateway法案は,政府の電子情報・データベースに政府印刷局(GPO)を窓口として,Internetや米国研究教育ネットワーク(NREN)を介してアクセスすることを可能にしたものである。この場合,政府情報は寄託図書館に対しては無料で,その他の申請者に対しては安価な料金で提供される。この法案について開かれた合同公聴会において,米国図書館協会(ALA)などの図書館関係者やGPOがこの法案を支持する見解を述べたのに対し,民間の情報産業を代表する情報産業協会(IIA)や行政管理予算庁(OMB)は,様々な理由を挙げて反対した。IIAのスティーブン・メタリッツ(Steven Metalitz)は,政府情報の一元化は独占であり自由な競争を妨げると主張し,OMBはこの計画にかかるコストの問題及びNREN等の利用は現実性を欠いているなどと証言した。これらの利害関係者,特に民間の情報産業のロビイングにより,WINDO/Gateway法案は後退を余儀なくされ,不成立に終わったのである。

妥協の結果,今回成立した法律は,U.S. Code Title 44を改正するものである。しかし,WINDO/Gateway法案が政府の電子情報に対してオンラインで直接アクセスすることを規定していたのに対し,今回の法律は,GPOが連邦の各政府機関の電子情報に対するディレクトリを作成することを規定するにとどまっている。オンラインで直接アクセスできることが明確に規定されているのは,議会の議事速記録や連邦官報のみであり,初期の主旨からは大きく後退してしまった。また,アクセスの手段としてInternetやNRENの利用を検討することは全く触れられていない。この背景には,商務省技術情報サービス部(NTIS)が,200以上の政府のデータベースに対する窓口となる試験的計画,FedWorld計画を開始した事情があると考えられる。

しかし,寄託図書館が無料で,データベース・ディレクトリ及び一部の情報についてのオンラインアクセスを利用できるようになっただけでも,かなりの前進がなされたということができる。もちろん,これで問題が解決されたわけではない。政府の情報に対する便利なアクセスを要求する声はますます高まっており,その場合にはInternetやNRENを利用することが図書館員を始めとして多くの市民が求めることである。米国における国家情報政策は新たに展開し始めたばかりであり,この実現には,継続的なロビイングと一般公衆を中心とする草の根の支持が不可欠である。今回の行動が以降の政府の情報政策にどう影響していくのか,今後の動向が注目されるところである。

田中智子(たなかともこ)

Ref: McLean, C.D. Death and rebirth of a national information policy: what we had and what we need. Law Library Journal 85(713) 743-761, 1993
U.S. Code Congressional & Administrative News (5) 112-114, 1993.7
U.S. Senate,Committee on the Judiciary. The Electronic Freedom of Information Improvement Act. 102 Cong 1992. pp.180-219
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