CA956 – 図書館の技術評価 / 小寺正一

カレントアウェアネス
No.180 1994.08.20


CA956

図書館の技術評価

情報技術の変化は極めて激しい。この変化の渦中でライブラリアンは翻弄されっぱなしの感もあるが,そのペースに遅れずについていき,さらには自らのアイデアで時代を先取りすることは可能なのだろうか?

米国議会図書館(LC)のTechnology Assessment Staff Laboratory(以下,TAS)は最新の技術を評価し,LCの短期・長期的なニーズにそれぞれ最適なものを見極めることを基本的な目的として設立された。TASが評価するのは市場に未だ投入されていない技術である。製造業者がβ版(市場に出される前の試験用製品)テストのため,TASに機器を貸与するので,経済的コスト無しにこのようなことが可能なのである。また逆にβ版テストに参加することによって,LCは製品開発そのものに影響を与えうるし,ビデオディストリビューション・システム等,そのような形で成功を収めた例も少なからず出てきている。特にTASが重点をおいている複数のべンダーからの製品を有機的に統合評価するテストは,このような性格をもつ機関でなければ無し得ないことだろう。

TASが成功を収めた結果として,スタッフは現在多数のデモの要求を受け,また最新の技術動向についてアドバイスを求められる機会も増えている。さらには技術情報の提供サービスを他の図書館や政府各機関に対しても開始している。LCの長期的な政策立案上のメリットもさることながら,一般の図書館スタッフにとっては,このようなコンサルタントが身近にいて気軽にアドバイスが受けられることのメリットは計り知れないものである。

TAS以外にも同様の目的をもった機関がいくつか存在する。英国においては英国図書館研究開発部(BLRDD)などの基金によって1982年に設立されたLibrary and Information Techno1ogy Centreがその一つである。このセンターの主たる活動内容は,雑誌やレポートの発行など情報の提供と,電話による質問受付などのアドバイスサービスである。

米アリゾナ州立大図書館のStaff Creativity Lab (以下,SCL.1992年設立)も同様の機関であるが,その基本コンセプトには興味深いものがある。同図書館もほんの数年前までは貧弱なシステム環境の中で仕事をし,どうしても必要な場合にはスタッフがポケットマネーでハード・ソフトを購入する例が少なからずみられた。ユニークなのは,この環境をライブラリアンの創造性を阻害するものと捉えた点である。そして,「創造的であるためには制度的にサポートされた遊びの時間が十二分に必要である」という観点に立ち,通常のワークスペースの喧騒から離れた環境にSCLを設けたのである。以来SCL はライブラリアンの創造性の発揮に大きく寄与してきている。このような発想は,とにかく単調なまでの勤勉さをこそ徳とするわが国の図書館界においてはなかなか受け入れ難いものであろう。しかし,TASにしてもSCLにしてもその成功の基本にあるのは,新しもの好き・遊び好きの精神であり,その精神をもって仕事をするシステム担当者を許容する広い心こそが,これからの図書館システム開発を成功に導く鍵であるように思えてならない。

小寺正一(こてらしょういち)

Ref: The Technology Assessment Staff Laboratory: evaluating emerging techno1ogies for the Library. LC Inf Bull 53(10) 200-202, l994
Stuart, G. The Staff Creativity Lab: promoting creativity in the automated library. J Acad Librariansh 20(1) l9-21, l994