CA779 – CD-ROMストレスの克服法 / 高木浩子

カレントアウェアネス
No.148 1991.12.20


CA779

CD-ROMストレスの克服法

CD-ROMの導入に伴う問題点は,これまでも取り上げてきた(CA562,CA604CA750)が,以下に紹介するBungeの論文は,CD-ROMがもたらすストレスを扱ったものである。なお,図書館業務に伴うストレス一般に関するBungeの論考が,CA537で紹介されている。

一般のイメージとは異なり,図書館の仕事はストレスに満ちている。ストレス管理研究集会に参加した800人以上の図書館員に対して主宰者のBungeが行ったインタビューでは,カタロガーからレファレンススタッフまであらゆるレベルの図書館員がストレスを感じていた。従来,レファレンススタッフのストレスの原因は,様々な要求を持つ利用者の態度と行動,過重労働,自分の仕事に対するコントロール不能感であった。近年は,これにコピー機のメンテナンス等,本来のレファレンス業務以外の仕事によるストレスが加わっていた。ところが,レファレンス・トゥールとしてCD-ROM情報源が登場して以来,レファレンスライブラリアンにさらに新たなストレスが加わった。

CD-ROM情報源は,図書館員の満足度を高めるレファレンス・トゥールのはずであった。CD-ROMのスピーディで柔軟な検索可能性により,利用者は,印刷媒体では検索が難かしいかあるいは不可能な情報を発見できるようになった。この新しい電子情報源は図書館サービスのイメージを変え,新たな利用者を図書館に呼び寄せている。CD-ROMは図書館員のストレスを増やすよりは減らすはずであった。

ところが,CD-ROMの導入で,そうでなくとも労働過重の図書館員の仕事は増えた。CD-ROM用のパソコンは開館している間中,なんらかの助力を必要とする利用者でふさがっている。機器の操作方法や検索方法等の利用案内は印刷媒体の案内より時間がかかり,しかも,それに,機器のメンテナンスといった技術的仕事が加わった。おまけにCD-ROMの利用者は従来の図書館の利用者とは少し異なり,せっかちで注文が多く,しかも機械に頼る傾向がある。

図書館の管理者は,CD-ROMを利用者との関係改善に大いに寄与し図書館の良きイメージ形成に役立つ情報源と考えているが,図書館員の方はCD-ROMに関する知識や習熟度の不足もあって,CD-ROMがいったん導入されるとコントロール不能になるのではないかと不安を抱き,これがまたストレスの原因となっている。

現場の経験によると,CD-ROMによるストレスでバーンアウトの状態になった図書館員には,CD-ROMの肯定的な面を強調しこれに積極的に対処するよう助言することが有効である。

しかし,一層大切なことは,スタッフがCD-ROMに習熟し,綿密な計画をたてるなどして,状況をコントロールすることである。レファレンススタッフたちは,CD-ROMをもっとも効果的に利用する方法を考え,これを導入した場合の問題点(利用案内に要する時間や方法,ヘルプスクリーンの問題点等)を分析すべきである。それにより管理者に対しては必要な増員要求を行い,CD-ROMのプロデューサーやベンダーに対してはより使いやすいCD-ROMを作るよう要求できる。また,図書館の管理者はCD-ROMを有効に使うためには,レファレンススタッフがこれを熟知し,体制が整っていなければならないことを理解する必要がある。

最後にCD-ROMによるストレスはCD-ROMそのものによって引き起こされるストレスではなく,CD-ROM利用者の態度を否定的にみることによって引き起こされる要素が強い。例えば,利用者が利用案内を読まないとか,プリンターのインクが出ないので文句を言うといって非難していたら問題は解決しない。CD-ROMのレファレンス・トゥールとしての利点を認めた上で,そこから派生してくる問題の解決に全力で取り組めば,このトゥールはレファレンスサービスの満足度を高めるものとなるだろう。

高木浩子(たかぎひろこ)

Ref: Bunge, Chales A. CD-ROM Stress. Libr. J. 116 (7) 63-64, 1991. 4. 5