CA687 – 新技術・ニューメディアと図書館建築第9回KIT-LC国際セミナー / 村木栄四郎

カレントアウェアネス
No.132 1990.08.20


CA687

新技術・ニューメディアと図書館建築
−第9回KIT-LC国際セミナー

金沢工業大学ライブラリーセンター(KIT-LC,酒井悌館長)主催による「'90新技術・ニューメディアと図書館建築」と題する国際セミナーが,平成2年6月14日〜16日の3日間,同センターで開催された。9回目を数える今回のテーマは,特に図書館建築に重点が置かれ,ニューメディアを含む非図書資料と図書館建築,伝統的印刷体資料の増加とスペースの問題,資料保存,災害,特に地震と図書館建築,図書館建築における建築家と図書館員の責任,手狭になった大学・調査・研究図書館の拡張問題等,21世紀の図書館を考える上で誠にタイムリーなテーマであった。

参加者は主催者を含めておおよそ140名であり,その割合は図書館関係者43%,大学教授等30%,各種業界関係者20%,その他7%であった。

セミナーは,5つの講演を中心に進められ,最終日に集中して熱気にあふれた質疑討論が展開された。講演の内容を極く簡単に報告する。

1)図書館建築−変革への取り組み−(基調報告):William J. Welsh(KIT-LC名誉顧問,前米国議会図書館副館長)

米国議会図書館(LC)のコレクションに含まれている大量の非図書資料は,LCのジェファソン館とアダムス館の固定式書架では収容不能。また,新しい図書館でありながら新しいフォーマットに対する配慮が欠落している場合が多い。図書館設計者は資料の技術的変容にフレキシブルであることが必要である。

2)新しい責任に対し図書館は如何に対処すべきか:John P. McDonald(コネチカット大学図書館名誉館長)

図書館のスペースの工夫,図書館資料と資料保存の問題,CD-ROM等のニューメディアの経費とスペースの関係等について。

3)図書館建築と1989年10月のロマプリエータの地震経験:David C. Weber(スタンフォード大学図書館長)

マグニチュード7.1を記録したロマプリエータ地震は,スタンフォードの各図書館に甚大な被害を与えた。75万冊が床に落ち,金属書架は5箇所で被害を受け,金属製のファイリングキャビネットも抽出しが飛びでてゆがんでしまった。図書の修繕費は,10万ドルに達する見込みである。幸いこの地震が比較的短時間だったので,被害がこの程度だったと専門家は述べている。

カラーのスライドで生なましい被害の状況を見て,地震国に暮らすわれわれにとって示唆に富む事が多かった。

4)新しい時代を生きる図書館建築:鬼頭 梓(鬼頭建築設計事務所所長)

図書館建築は,機能上の要求とデザインが衝突あるいは矛盾することが多い。何故か?それは建築家の能力不足あるいは努力の不足によるかも知れない。と同時に建築家はクライアントの注文に応じて設計作業に取り組むので,図書館の場合は図書館長の責任が大きい。すなわち,その図書館の目的,思想,歴史,活動をはじめとし,資料の種類と量,閲覧席の種類と数,図書館員の人数,必要とするスペース,建てるべき場所,予算等,建築に関係するあらゆる事柄に精通して建築家に要求しなければならない。しかし,現状ではそうはなっていない。図書館長は非専門職の場合が多いからである。

エレクトロニクス時代,高度情報化社会における図書館建築には,カードレス,オンライン・システム等の導入の為にもフレキシビリティが必須の条件である。また,地震対策など安全面の配慮も必要。

5)大学・調査・研究図書館の拡張:Nancy R. McAdams(テキサス大学(オースチン)図書館学校教授)

図書館が発展するに従って増築し,良好なスペースを確保する必要に直面する。その際には,a.既存の図書館建築の拡張,b.現在の建物に代わる新建築,c.図書館の所蔵資料ないし図書館業務の一部を収容できるような別の建物の建設ないし改修,のどれにするか決断を迫られる。判断の材料としては,物理的,経済的,政治的要因を調査して評価することが肝要であろう。

村木栄四郎