カレントアウェアネス
No.132 1990.08.20
CA684
多民族共同体に奉仕する
−ロスアンゼルス公共図書館に新館長−
60年代の公民権運動や,その後の公平雇用政策などの後にも,黒人やラテン系などの少数民族を図書館職員に採用し,白人と同等の昇進機会を与えようとする運動は,米国で根強く続けられているが,今度は,年間総額3,500万ドルの予算と63の分館および5台の自動車図書館とをかかえるロスアンゼルス公共図書館に,ラテン系アメリカ人としては初めての館長が誕生した。彼女,マーティネス・スミス(Martinez Smith)女史は,カリフォルニア州におけるメキシコ系アメリカ人の司書の第一号であり,1960年代の中期にロスアンゼルス・カウンティ公共図書館に就職した。現在は27の分館を持つオレンジ・カウンティ公共図書館の館長である。そんな彼女の司書歴は,同時に,それまでの伝統的な「裕福な白人」を主な対象とするサービスから,もっと幅広い層に対してサービスしようとする,公共図書館の役割の変化と重なっている。だからこそ彼女は,「市の全ての多民族共同体に対する図書館サービス」を新館長としての抱負に掲げ,Los Angeles Times紙に大要以下のように語っている。
「人種差別や偏見という問題を解決するために我々は努力を続けなければなりません。それには相互理解の推進が必要と考えられますが,その点,図書館は,年齢その他の差別を行わず,全ての人々に対して奉仕する機関であり,また全ての論題,視点,主題に取り組む機関です。つまり,図書館は,人々の相互理解を擁護し促進するための良い条件を備えているのです。私は,学習機会と知識の提供という図書館の役割に,さらに文化的な相互理解も加えるつもりです。すでに利用者となっている人々に奉仕するだけでなく,例えば,児童たちのために民族舞踊グループを招待するようなことを行う。そうすれば,偏見の排除と相互理解の促進とができるはずです。」
こういった革新的なサービスの提供は,単なるアイデアではなく,具体的な経験に裏付けされている。例えば,オレンジ・カウンティ公共図書館では,共働き家庭の児童が学校帰りの放課後を図書館で過ごせるように,会議室を解放した。会議室では,静粛でいることを要求されず,子供たちは勉強をしながら友達との会話をも楽しめる。図書館員は,子供たちを監督する一方,彼らの宿題を見たりもするのである。だから,今では多くの子供たちが図書館を利用しているそうである。
多民族問題に関しては,オレンジ・カウンティ公共図書館では,専門スタッフの養成・訓練,様々な言語による図書館の行事の公告・職員用用語リストの作成等がなされ,言語問題が利用者を図書館から遠ざけることのないようにと配慮された。
彼女がロスアンゼルス公共図書館をどのような方向へ導き,米国図書館界における少数民族図書館員の地位向上に貢献するか,大いに注目される。
佐藤泰幸
Ref. Los Angeles Times 1990. 4. 26
Library Journal 115 (10) 33-34, 1990. 6. 1
Affirmative action reports. Library Journal 110 (1) 14-15, 1985. 1
Boisse, J. A., et al. Increasing minority librarians in academic research libraries. Library Journal 112 (7) 52-54, 1987. 4. 15