カレントアウェアネス
No.122 1989.10.20
CA628
《報告》
KIT-LC国際セミナー1989
去る6月,金沢工業大学ライブラリーセンター(KIT-LC)で行われたシンポジウムに主催者側も含めおよそ150人が参集した。今年のテーマは“変革が求められる研究調査図書館−経験が語る将来のマネージメント(Managing for the Future-Library in Transition)”である。
次の3氏の講演を中心に会議は進行した。
ウィリアム J.ウェルシュ(William J.Welsh) | 前アメリカ議会図書館副館長 |
ジョセフ H.ハワード(Joseph H.Howard) | アメリカ国立農業図書館長 |
パトリシア バッティン(Patricia Battin) | 保存,アクセス委員会会長 |
I)図書館と図書館職員−機会の把握とそれへの挑戦−(基調報告) W.J.ウェルシュ氏
これからの研究図書館員は,情報を管理するという段階を越えて積極的に対応すべきである。この観点から次の原則を挙げる。
1) 収集方針の確立と,その政策を実施しうる専門家の育成。2) 整備された書誌コントロールシステムが中央にあること。3) 図書館間貸借制度は不可欠である。4) 上記をふまえてのネットワーキングが重要。
これを実現するには,思考の転換が必要であり,相互依存という概念に思いを致さなくてはならない。専門図書館では,利用者との意見交流が直接かつ活発に行われている。その結果蔵書構成も容易になるだろう。一方研究図書館においては,残念ながらこのような好ましい現象はみられない。またレファレンス業務については,質の高い回答をだしているものの,あくまで受身である。今後は質問を予測し,調査結果を公表するというExpertを目指すべきである。
この“Expert”をめぐり活発な論議がひきおこされた。
II)知識のマネージメント:21世紀の問題点 P.バッティン氏
1988年の調査によると図書館資料は,まだ印刷形態が圧倒的(大学図74%,企業図89%)で,管理運営は伝統的方法で対応できた。しかしコンピュータの導入で,従来のやり方では処しきれない状況もでてきている。この新しい事態に対するには,単なる経営的変更にとどまらず政策変革も求められよう。それには次の事が必要となろう。
- 分散化アクセスを強化するための財政援助
- 予算構造に目をやる事のできる収集管理者
- 機関相互間の能力開発
自分達が経験したこのような変遷(動き)はおそらくどこの図書館でも共通経験として認識されている。アメリカでは資料保存は,緊急課題としてとらえられている。保存とアクセス委員会では300万冊を対象に,国家的プログラムを作って対応していくつもりである。LCが資金を拠出し,各地の図書館,公文書館の体制を整え,やがては各々の資料のアクセスへの道を開いていく予定。
21世紀を目前にして,新しい流に危機感を抱く図書館人に対し,過去を学ぶことによって将来を作りだしていこうという呼びかけで,しめくくられた。
III)利用者および図書館員のための新技術の使い方:我々は危機的状態におかれているのか
J.H.ハワード
検索技術の普及で利用者が文献に直接アクセスできるようになったということで,図書館員の危機感があるが,それは杞憂である。むしろ関連するサービスの需要はふえている。複雑化する検索等の仲介者として,「情報事業家」は重要である。専門図書館員として,知識を深め情報アクセスの提供にとどまらず,利用者との交流を深めることによって生き永らえることができよう。今後の専門図書館の課題は,1) 古い資料の保存,2) あらゆるニューメディアの収集,3) 上記資料群の目録作業,4) 他館との協力体制,等である。
以上は,21世紀を迎えるライブラリアンの姿を示唆したもので,図書館員の専門性という点でも論議をよんだが,アメリカの図書館教育を含めた教育制度と,日本のそれとの相違は,ここでも明らかであった。
甲斐原綾子