カレントアウェアネス
No.131 1990.07.20
CA675
アメリカ公共図書館の苦闘
来年末シカゴにアメリカ最大の公共図書館がオープンする。建設費1億7,500万ドル,ワンブロック四方,10階建てのこの本の殿堂の悩みは,資料の少ないことである。しかしそれ以上に,シカゴ市にある88の分館は,荒れ放題の小さな建物,劣化する資料,盗まれるコレクション,少なすぎる職員など深刻な問題を抱えている。解決すべき最優先課題が,蚤から鼠にわたる害虫・害獣の駆除という分館まである。
公共図書館の苦闘は,何もシカゴに限らない。ここ10年ばかりの間,州や連邦政府の財政的行き詰まりの中で,公共図書館は到る所で継子扱いされてきた。図書館の任務が,警察や消防ほどには,その必要性が明らかでないだけに,常に予算削減の格好の対象となった。本,雑誌,人件費の高騰が事態をさらに悪化させた。
“教育大統領”を自称するブッシュ大統領は,1991年度の連邦政府予算案において,これまで州や自治体を援助してきた公共図書館サービス事業費と同図書館建設費を計上せず,前年度比71パーセントの大幅カットを提案してきた。9千万の資料を抱える巨大な米国議会図書館ですら予算不足に喘いでいる。
教育が国家の最優先課題とされ,図書館が最も必要とされる今,皮肉にも図書館は,分館を閉鎖し,開館時間を短縮し,スタッフを減らし,図書や雑誌の購入部数を減らすことによって,自らの価値を失おうとしている。
しかし救いが全くないということではない。地域住民による図書館予算削減反対の運動が,小規模ながら起こりつつあり,シカゴ,ニューヨーク,ニューオーリンズ,ロサンゼルスでは好ましい結果を生んでいる。これら都市部における公共図書館は,理解あるコミュニティや私企業の寄付に支えられている。またニューオーリンズやロサンゼルスのように,図書館サービスを維持するために,住民が特別な増税を認める都市も現われている。カリフォルニアのカウンティの中には,不動産の価格上昇による税収入の増加が,図書館の再建に向けられた幸運な例もある。
しかし一般的には,アメリカの公共図書館は,生き残りをかけて資金獲得に悪戦苦闘している。図書館の存在意義を積極的に訴え続けながら。
千代正明
Ref. Los Angeles Times 1990. 3. 12; 1990. 3. 16; 1990. 4. 11