カレントアウェアネス
No.130 1990.06.20
CA671
アレクサンドリア図書館の再建計画
アレクサンドリア市は,紀元前331年にアレクサンダー大王が自らの名を冠して建設して以来,エジプト随一の貿易港として繁栄してきた。現在も,首都カイロに次ぎ230万の人口を有している。
この地には,紀元前3世紀にプトレマイオスI世によって,古代世界最大の規模を誇ったアレクサンドリア図書館が建設された。この図書館は,最盛時には,70万巻のパピルス紙の蔵書を保有していたといわれる。残念な事に,この図書館は4世紀までに破壊され,わずかに目録の断片が伝わるのみである。
1986年,エジプト政府は,プトレマイオスの宮殿の故地に,図書館を再建しようという計画を発表した。
この2000年ぶりによみがえったアレクサンドリア図書館は,古代エジプト文明,西アジア文明,ギリシア文明,コプト(キリスト教の一派)関係,イスラム教関係の文献を中心に,当面は20万冊の蔵書収集を目的としているが,最終的には,これらの領域の「知識の殿堂」となるのみならず,他分野の資料も収集し,800万冊という世界最大規模の図書館を目ざす。
これ等資料に対しては,コンピュータによるアクセスが可能になる。また古代の学術に関する各種のデータベースも作成される。図書館情報学の大学院を設置し,人材養成も行なう。
この構想実現のためには,1億6,000万ドル相当の建設費が必要であるが,このうち敷地4ヘクタール(6,000万ドル相当)と附属の国際会議場(2,000万ドル相当)はエジプト政府によってすでに提供が行なわれた。
このプランに対し,ユネスコは1986年にムボウ事務局長(当時)がエジプトを訪問して以来,全面協力を行なっており,1988年にはUNDP(国連開発計画)が50万ドルの資金を提供し,建物の国際設計コンペが行なわれ,その結果ノルウェーのスノヘッタという建築家集団の案が採用された。地中海に向ってゆるやかに傾斜した円筒形のデザインで,直径160m,高さ35m,地下19mの9階建てである。同年6月に,ムバラク大統領によって定礎式が行なわれた。
問題は,総工費及び資料購入費の捻出で,すでに,イラクが2,100万ドル,アラブ首長国連邦が2,000万ドル,サウジアラビアが2,300万ドルの資金提供を申し出ている。しかしなお9,000万ドル相当額が必要である。
本年2月12日ユネスコはアレクサンドリア図書館復興国際委員会をアスワンで開催した。ムバラク大統領夫人が議長を務め,ユネスコのマヨール事務局長,フランスのミッテラン大統領も出席し,フランス国立図書館などの技術・資料の提供を約束した。宣言が採択され,各国へ支援と広報活動,資料の寄贈を呼びかけている。
資金の送付先は,Acc. No. 11000011002,ALEXANDRIA UNIVERSITY BRANCH,NATIONAL BANK OF EGYPTである。
もし募金活動が順調に行けば,完成は1995年になる見込みである。
山口 学
Ref: 「古代アレクサンドリア図書館再建のためのアスワン宣言」 駐日エジプト大使館広報部
読売新聞2月20日夕刊「アレクサンドリア図書館古代学問の殿堂再建へ」
朝日新聞3月26日夕刊「よみがえれアレキサンドリア図書館」
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