CA647 – 公共図書館での利用者教育――カナダの調査から / 中村規子

カレントアウェアネス
No.126 1990.02.20

 

CA647

公共図書館での利用者教育−カナダの調査から−

利用者教育については,大学図書館を中心にその重要性が指摘されてきているが(Ref l),公共図書館での利用者教育や書誌利用指導がレファレンス・サービスの中で果たす役割について,カナダの図書館員を対象にしたアンケート調査が行われた。(Ref 2)調査はカナダ公共図書館協会 Canadian Association of Public Libraries加盟館から無作為抽出した310館を対象としたもので,回答率は43%であった。

この調査によれば,回答を寄せた公共図書館の90%以上が,なんらかの形で利用者教育を行っている。しかし,利用者教育について研修を受けたことがある図書館員は31%にすぎない。また,利用者教育に関する14の意見を示し,それに賛成か反対かという設問の結果は次のようになっている。

<70%以上が賛成の意見>

1.公共図書館のレファレンス・ライブラリアンの第一の仕事は,情報そのものを提供することである。

2.公共図書館の利用指導は,子供に対して行なうべきである。

3.公共図書館における利用者教育は,日常のレファレンス業務のなかで行なうべきである。

4.全ての利用者は,公共図書館の利用者教育の対象となる。

5.公共図書館の利用者教育は,学生に対して行なうべきである。

6.公共図書館のレファレンス・ライブラリアンは,利用者に対し,図書館のトゥールの正しい利用について指導する義務がある。

7.情報提供と利用者教育とを関連づけて行なうのが,理想的なレファレンス・ライブラリアンである。

<80%以上が反対の意見>

8.利用者教育は,利用者から求められたときにのみ行なうものである。

9.公共図書館における利用者教育は,個人を対象とするよりも,むしろグループを対象に行なうのが最も理想的である。

10.公共図書館の利用指導を,ビジネス情報の利用者に対して行なうのは適切でない。

<賛否が分かれるもの>

11.公共図書館の利用者に対し,過保護なまでの情報提供は避けるべきである。

12.公共図書館のレファレンス・ライブラリアンの第一の役割は,利用者が自分自身で図書館利用ができるよう,手助けすることである。

13.レファレンス・ワークにおいて指導するという仕事は,情報提供と同様に大切なことである。

14.公共図書館のレファレンス・ライブラリアンの仕事は,教師のようなものである。

このように,利用者教育については大方が肯定的であるが,レファレンス業務の第一目的を利用のための指導か,情報提供かということについて意見の対立が見られる。そしてこうした意見の対立が何に起因するのかを分析してみると,「利用者に対し,過保護なまでに情報提供することは避けるべきである。」に賛成しているのは,利用者教育の方針をもつ大規模図書館の図書館員に多く,利用者教育の研修経験のある図書館員には少ない。また,「公共図書館のレファレンス・ライブラリアンの仕事は,教師のようなものである。」という意見に賛成なのは,分館ではなく,利用者教育についての方針のある中央館の図書館員に多いという傾向がみられる。

この理由として,大規模図書館では効果的なサービスを行なわなければならないので,利用者教育を重視しており,逆に,小規模図書館においては,図書館員と利用者の関係が親密なので,制度的な利用者教育はなじまないということが考えられる。しかし,所属図書館の方針の有無,研修経験の有無だけで,賛成か反対かの態度が決まるとも考えにくく,決定的な要因とは考えがたい。

この報告では,利用者教育については公共図書館員の大半が肯定的であるという,今回の調査結果をふまえた上で,利用指導か情報提供かという意見の違いは何に起因するのかを明らかにすること,この問題をめぐり,図書館員の考えと利用者の要望をどう調整するかということを今後の課題として挙げている。

つまり,レファレンスにおいて利用指導を重視する図書館員がいる一方,情報提供を求める利用者もおり,こうしたことを明らかにすることにより,利用者教育についての意見の対立は解消されるであろうと述べている。

さて,日本の状況をみても,図書館利用は確実に増大しつつあり,また情報提供の要求に熱心にこたえる公共図書館もでてきている。大学図書館のみならず,公共図書館においての利用者教育,情報提供の問題が取り上げられてもよい時期にきているのではないだろうか。

中村規子

Ref.
1)丸本郁子ほか 大学図書館の利用者教育 日本図書館協会 1989.256p.
2)Harris, Roma M. Bibliographic instruction in public libraries:A question of philosophy.RQ 29 (1) 92-98, 1989.