CA657 – 地理情報システム研究集会――報告―― / 鈴木純子

カレントアウェアネス
No.127 1990.03.20


CA657

地理情報システム研究集会−報告−

1990年1月24日,東京の野口英世記念会館に於て,(財)日本地図センター・(財)日本建設情報総合センター後援による「地理情報システム研究集会」が開催された。1983年以来第9回を数えるもので,地方公共団体,機器・ソフト関係者,地図製作関係者など100名を優に越す参加者を集める盛況であった。

地理情報システム(Geographical Information System=GIS)とは,コンピュータと周辺機器の組合せにより,1)地図情報を数値化して入力し,2)これを登録し,高速で多様な検索・表示と必要に応じた内容の更新ができるようなデータベースとして構築,3)分析,重ね合せ,集計等の操作を多角的に実行し,4)地図や報告書として出力することを目指すシステムをいう。これに強い類縁関係を持つシステムとして,コンピュータを利用して地図を迅速かつ正確に作成したり,デジタルデータで地図を保管し更新や検索を容易にするコンピュータ支援地図作成システム(Automated Mapping=AM),道路や地下埋設物などの施設の位置,図面等の管理,検索を行う施設管理システム(Facility Management=FM),土地に関する情報を管理する土地情報システム(Land Information System=LIS)などがあるが相互に重り合う面が大きく,日本では通常GIS,地理(図)情報システムという用語はこれらを包括的に表わすものとして用いられている。

データベースを構成する数値情報は地域に均一にかけたメッシュ単位のものから出発したが,線,ポリゴンをベクトルデータとして扱う方法も加わり,公共施設の維持管理や都市計画,環境・防災計画等の場での活用の可能性を拡げてきている。近年の機器,ソフトウェアの進歩がその背景にあることはいうまでもない。現在のGISの多くは,処理能力が高く精度の高いカラーグラフィックス機能を備えたエンジニアリングワークステーション(EWS)を中心に組み立てられている。ソフトウェアも数十種が市販されているという。

今回の集会での報告は次の8件であった。日本のGISの現況をうかがう資料としてタイトルを紹介しておこう。

1)国土情報整備について
2)国土地理院における地理的数値情報の整備について
3)細密数値情報の解析結果について
4)国土基本図データベースの整備
5)神奈川県における都市情報システム
6)森林基本図を用いた治山事業管理システム(静岡県伊豆農林事務所)
7)市原市における道路管理システム
8)地理情報システムの現状と将来展望

国(国土庁調整,国土地理院・海上保安庁実施)による地理的数値情報としては,国土数値情報,沿岸域情報,細密数値情報(三大都市圏),基本図数値情報(2.5万分1地形図関連),国土基本図データベース,基準点情報,空中写真検索情報,地図・地名情報がある。国によるメッシュデータの整備はすでに1974年頃から始まっており,大量の蓄積となっているが,データの性質によりメッシュには不向きなもの,また1kmの標準メッシュでは粗過ぎるものなどの問題もあり,近年は図形データ(国土基本図DB等)やメッシュを10mにまで縮小した細密数値情報の整備が進められている。また,地図からの情報採取のみでなくリモートセンシングデータからの直接的な読み取りも課題となっている。

報告 1)2)および 4)はこれらのデータの現況,構造等に係わるもので,3)は建設省建築研究所が細密数値情報を利用して試みた首都圏の市街化区域における土地利用動向予測の事例報告である。5)〜 7)はそれぞれ独自のシステムの構築,利用の事例である。5)は5年に1回のペースが課されている都市計画基礎調査のデータと1万分1の地図データによって地区診断,土地利用分析などを多角的に行うシステム,6)は治山工事(土留,斜面排水等)の構造物,7)は市の道路台帳およびその付図のそれぞれの図面管理を中心とするパソコン利用のシステムである。

各方面のGISへの関心の高さは集会参加の状況からもうかがえるが,現状では利用者は国公立の研究施設,一部都府県や通信,ガス,電力等のユーティリティ関係機関に限られ,普及はなお今後の問題とされている。データベースの作成費用,機器の設営,維持等の経費が何といっても最大のネックであるが,利用者側の業務分析――利用目的の確立,公的(国土地理院等)な数値地図情報の整備と一般へのデータ提供(現在データベースとしての利用は公的機関のみに限定)等の環境整備も必要といえよう。

鈴木純子