カレントアウェアネス
No.368 2026年6月20日
CA2101
視聴覚ライブラリーの現在と今後への期待
元全国視聴覚教育連盟専門委員長:村上長彦(むらかみたけひこ)
1. はじめに:視聴覚ライブラリーの厳しい現状
視聴覚ライブラリーは、社会教育団体や小中学校等学校教育関係団体、地域住民の団体に映像教材等の提供や利用支援、教材制作支援、教育メディア研修、学習機会の提供等を行う機関であるが、現在の全国の視聴覚ライブラリーが置かれた状況は、端的に言って「厳しい」と言えるだろう。一般財団法人日本視聴覚教育協会では、毎年全国の視聴覚センター・ライブラリーを対象に統計調査を行い、「視聴覚センター・ライブラリー一覧」を発行しているが、令和7年度版(令和7年4月1日現在)(1) (2)を見ると、設置数は1984(昭和59)年の1,038施設をピークに減少を続け、2025年(令和7)年には444施設と半数以下となっている。
さらに、視聴覚教材の収集と貸出という視聴覚ライブラリーの根幹事業を支える教材購入予算も減少を続けているだけでなく、2025年(令和7)年の総数444施設のうち65.5%にあたる291施設で教材購入費が0円となっている。9割近い視聴覚ライブラリーで新規に視聴覚教材が購入できない状況は、厳しいというほかないだろう。
視聴覚ライブラリーが置かれたこの厳しい状況から、1953(昭和28)年に都道府県単位の視聴覚ライブラリー連絡組織を構成員として発足した全国組織である全国視聴覚教育連盟(以下「全視連」)の加盟団体も、2025(令和7)年には24団体まで減少し、運営が難しくなり、2026(令和8)年3月末をもって解散することとなった。
2. 視聴覚ライブラリーのスタートと全視連
視聴覚ライブラリーが、第二次世界大戦後に連合国最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)の民間情報教育局(CIE)が制作した教育映画(米・ナショナルカンパニー社製の16ミリ映写機(商品名・NATCO)で上映されたことから、ナトコ映画と通称される)の普及促進等を背景に、全国各地で設置が進んだということは広く知られている。
そのナトコ映画普及促進に向けて文部次官から都道府県知事宛ての詳細な指示として出されたのがいわゆる「発社103号」と呼ばれる文部次官通達である。この発社103号は1948(昭和23)年に出された後、翌1949年に改正通達として改めて出され、その際に「視聴覚ライブラリー」という言葉が生まれている(3)。
この発社103号の改正通達(4)では、視聴覚ライブラリーの組織運営から支援体制まで事細かに記載されており、実施するか否かは都道府県の判断に任せるとしながらも、文部省として実施に向けた強い意志を示していると感じることができる。また、ここから教育映画(視聴覚教材)を収集して学習用に貸し出すという視聴覚ライブラリーの基本的性格が始まっている。
我が国の視聴覚ライブラリーは都道府県単位での設置からスタートし、市区町村へと広がっていった。改正発社103号から4年後に発足した全視連(5)は、視聴覚ライブラリーの設置・充実に力を入れていった。
3. 視聴覚ライブラリーの充実に向けて
全視連では、1955(昭和30)年に視聴覚ライブラリーの設置と充実には法律の制定が不可欠として、要望書を文部省に提出するなど、法制化に向けた取り組みを進めたが、「時期尚早」や「世論の支持を受けるに至らない」といった理由で実現には至らなかった(6)。
その後、1971(昭和46)年に文部省社会教育局長通達「視聴覚ライブラリーの充実整備について」(文社教第134号)において、視聴覚ライブラリーの抜本的整備計画と機材・教材の必要基準が示された(7)。次いで1983(昭和58)年の社会教育審議会教育放送分科会視聴覚ライブラリー等のあり方に関する小委員会による「視聴覚ライブラリー及び視聴覚センターの整備充実について(中間報告)」により、教材供給、教材制作、情報、研修、研究開発、学習の6つの機能を備える地域のセンターであるべきといった充実策の提言が行われた(8)が、その後も多くの視聴覚ライブラリーでは従来の視聴覚教材の収集と貸出業務を中心としていた。
4. メディアの変遷と視聴覚ライブラリー
視聴覚ライブラリーは、扱う教材が映像メディアであることから、映像メディアの変遷に対応しなくてはならないという宿命を背負っている。
スタート時点の16ミリ映画の特性から、団体への貸出と集団視聴という視聴覚ライブラリーの基本的性格が形作られてきた。しかし、ビデオテープやDVDの普及によって、映像メディアは個人で見られる媒体となった。というより、むしろ市販のビデオテープやDVDのパッケージに「家庭内での個人使用」と書かれているように、個人で見ることが前提となっていった。
そこで、全視連が視聴覚ライブラリーを代表して、権利者団体と視聴覚ライブラリーは、1986年に集団視聴に供するための協定書や覚書を取り交わし、視聴覚ライブラリーでの映像メディアの購入価格を設定してきた(9)。なお、この協定や覚書に関しては、個人利用を前提とする図書館とは異なる対応となっている(10)(詳細は後述する)。ただ、全視連解散に伴って購入価格の設定が今後どうなるかは不明である。
現在ではデジタルデータのネット配信という時代になり、対応がさらに複雑になってきているが、冒頭で述べたように、予算がつかない視聴覚ライブラリーが大半という状況の中では、教材提供のネット対応は困難な状況にある。
5. 図書館と視聴覚ライブラリー
日本視聴覚教育協会発行のライブラリー一覧の作成のために行われた調査の設問項目に視聴覚ライブラリーがどの施設と併設されているかを問うているものがあるが、一番多いのが図書館である(11) (12)。
図書館法第3条第1項第1号において図書館が「収集し、一般公衆の利用に供すること。」とされている中に「レコード及びフィルムの収集にも十分留意して、」が含まれており、視聴覚ライブラリーが図書館に併設されるというのは自然な組み合わせと言える。
ただし、16ミリ映画に関してはそもそも集団視聴を前提とした価格で販売されているので問題ないが、ビデオソフトに関しては図書館と視聴覚ライブラリーでは扱いが異なるため注意が必要になる(13)。
その内容としては以下の通りである。一般社団法人日本映像ソフト協会と全視連との合意に基づき、視聴覚ライブラリーが、教育教養作品にはビデオソフトの小売価格の100%、娯楽作品には300%の補償金を販売価格と合わせて支払うことで集団視聴を前提とした貸出を行うことができる。それに対し、公立図書館は同協会との6年間にわたる協議で決着がつかず、各メーカーが個別に著作権処理の手続きを行って図書館に販売しており、公の上映は行えないこととなっている。
6. 視聴覚ライブラリーの今後の在り方に関する期待
今ある教材・機材を使用できる状態に保つことが重要である。16ミリフィルムもビデオテープも保管状態が悪いと劣化が進行する。再生機材に関しても生産・保守とも終了しており(14)、使用できる状態での保管が必須となっている。予算面でも人的な面でも対応が厳しいところだが、廃棄するのではなく使える状態で保存していくことを期待したい。全視連としてそのための体制作りを検討し始めていた(15)が、研究段階で解散となってしまったことが残念である。
もうひとつ期待するのは、視聴覚ライブラリーが、住民による映像制作の拠点になることである。今や誰もが映像制作できる時代であり、市販教材を収集する以上に住民による映像制作の拠点とその映像の利用促進が重要となるだろう。
(1)日本視聴覚教育協会. 視聴覚センター・ライブラリー一覧. 令和7年度版, 日本視聴覚教育協会, 2025, 73p.
(2)村上長彦. 「視聴覚センター・ライブラリー一覧〈令和7年度版〉」を読む 視聴覚センター・ライブラリーの現況と傾向. 視聴覚教育. 2026, 80(4), p. 10-17.
(3)日本視聴覚教育協会. 視聴覚センター・ライブラリー必携. 日本視聴覚教育協会, 1980, p. 25-26.
(4)東京都教育庁社会教育部視聴覚教育課. 連合軍総司令部貸与「ナトコ」十六粍発声映写機に関する発社一〇三号文部次官改正通達写.
この改正通達写に含まれる改正通達「昭和二十三年十月二十六日付発社第一〇三号通達改正について」には、「発社第一〇三号 昭和二十四年十二月二十二日 文部次官」とある。
(5)全国視聴覚教育連盟. 全国視聴覚教育連盟創立50周年記念誌. 2003, p. 4.
(6)日本視聴覚教育協会. 視聴覚センター・ライブラリー必携. 日本視聴覚教育協会, 1980, p. 32.
(7)全国視聴覚教育連盟. 全国視聴覚教育連盟創立50周年記念誌. 2003, p. 10.
(8)全国視聴覚教育連盟. 全国視聴覚教育連盟創立50周年記念誌. 2003, p. 18.
(9)全国視聴覚教育連盟. 教育メディア担当者ハンドブック2014. 2014, p. 43-48.
(10)“ビデオコピライトFAQ Q17. 公立の図書館で司書をしていますが、ビデオソフトの貸し出しを考えています。著作権処理をきちんとしたいのですが、その手続きを教えて下さい。”. 日本映像ソフト協会(JVA).
https://www.jva-net.or.jp/faq/qa_17.html, (参照 2026-03-24).
(11)日本視聴覚教育協会. 視聴覚センター・ライブラリー一覧. 令和7年度版, 日本視聴覚教育協会, 2025, 73p.
(12)村上. 前掲.
(13)“ビデオコピライトFAQ Q17. 公立の図書館で司書をしていますが、ビデオソフトの貸し出しを考えています。著作権処理をきちんとしたいのですが、その手続きを教えて下さい。”. 日本映像ソフト協会(JVA).
(14)冨田美香. 磁気テープに記録された映像や音声の長期保存の問題. カレントアウェアネス. 2025, (365), CA2091, p. 14-17.
https://doi.org/10.11501/14491366, (参照 2026-03-24).
(15)全国視聴覚教育連盟. 令和6年度全国視聴覚教育連盟調査研究プロジェクト「オンラインネットワークを利用した16ミリ活用策提言にむけた調査研究」報告書. 2025, 33p.
http://www.zenshi.jp/files/report_R6_chosa1.pdf, (参照 2026-03-24).
*全国視聴覚連盟は2026年3月末で解散するが、ウェブサイトは1年間そのまま継続予定である。
“全国視聴覚教育連盟”.
http://www.zenshi.jp/index.html, (参照 2026-03-24).
[受理:2026-05-01]
村上長彦. 視聴覚ライブラリーの現在と今後への期待. カレントアウェアネス. 2026, (368), CA2101, p. 5-6.
https://current.ndl.go.jp/ca2101
DOI:
https://doi.org/10.11501/14953686
Murakami Takehiko
Current Status of Audiovisual Libraries and Future Expectations
