CA2100 – 遠隔複写のPDFファイル提供開始後1年の振り返り / 服部菜都子

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カレントアウェアネス
No.368 2026年6月20日

 

CA2100

 

遠隔複写のPDFファイル提供開始後1年の振り返り

国立国会図書館関西館図書館協力課:服部菜都子(はっとりなつこ)*

 

1. はじめに

 2025年2月、国立国会図書館(NDL)では、PDFファイル形式の複写物を提供する遠隔複写(PDFダウンロード)サービス(以下「PDFDL」)を開始した。PDFDL開始以前から、紙の複写物を郵送する遠隔複写(以下「郵送受取」)を実施してきたため、遠隔複写に二つのメニューが存在することとなった。

 いずれも国立国会図書館サーチ(1)(NDLサーチ)を通じて国内外から申込可能であるが、PDFDLと郵送受取ではサービス対象、複写対象及び料金が異なる(2)。PDFDLは、NDLの個人の本登録利用者で、有効なメールアドレスを登録している人のみを対象としており、申込みの都度、利用規約への同意が必要である。

 本稿では、PDFDLの背景に触れつつ、東京本館で遠隔複写の実務を担う立場から開始後の1年を振り返る。

 

2. PDFDLの背景

 PDFDLは、著作権法(以下「法」)の令和3年改正(3)を受けて開始した。この改正により、図書館資料の複写物を電子メール等で送信(以下「図書館等公衆送信」)することを可能とする規定が設けられた(法第31条第2項)。

 図書館等公衆送信は、法第31条第1項第1号に基づく紙の複写物の提供に比して利便性が高いと考えられた。利用者は、デジタル形式の複写物を居場所にかかわらず入手・参照できるほか、複写物配送にかかる時間も削減できる。実際に、PDFDL開始以前から「複写物をPDFファイルで提供してほしい」と要望が寄せられることは珍しくなかった。

 

3. 図書館等公衆送信と権利者保護

 図書館等公衆送信を可能とすることで、送信データの不正拡散や既存の電子配信サービスとの競合等により、権利者の利益を不当に害することが懸念された(4)。そこで権利者保護の観点から、以下のような措置が講じられた。

 第一に、データの目的外利用を防止する体制が整えられている「特定図書館等」のみが、図書館等公衆送信を実施可能である(法第31条第3項)。

 第二に、法第31条第2項ただし書の規定を踏まえ、「図書館等における複製及び公衆送信ガイドライン(5)」(以下「ガイドライン」)では、図書館等公衆送信の対象外資料が定められている(6)

 第三に、特定図書館等は、著作権者に補償金を支払わなければならない(法第31条第5項)。ガイドラインでは、発行日が1968年以降である資料は、発行後70年が経過するまで一律に補償金の支払いが必要とされている。一方、1967年以前の資料内の主たる著作者の没年が1967年以前又は1968年以降の生存が確認できない場合は、補償金の支払いが不要である。補償金の算定式は、資料の種類によって3種類ある(7)。補償金は、一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB)を通じて権利者に支払われる(8)

 

4. 複写料金の考え方

 PDFDLの料金は、後払いである。料金は、①複写にかかる費用と、②補償金に相当する額から成るため(9)、郵送受取に比して高額になることが多い(10)

 複写物の作成や料金収受は、国立国会図書館複写受託センター(以下「受託センター」)が担う。受託センターは独立採算制であり、受託者は非営利法人である(国立国会図書館法第21条第3項及び第5項)。複写料金は「実費を勘案して定める額」であるため(国立国会図書館法第21条第2項)、①の料金単価は、実際にPDFファイルを提供するために必要な人件費等の費用を踏まえて設定している。

 こうした事情により、複写物作成以降の申込みのキャンセルは不可としている。また、PDFファイル作成以降に、作業内容や料金体系が異なる郵送受取に切り替えることもできない。

 

5. PDFDLの作業工程

 図書館等公衆送信の手順は複雑であるものの、本校執筆時点では申込みからおおむね5~10開館日程度でPDFファイルを提供できている。これは、NDL業務システム及びNDLサーチによって、次の事項を機械的に実現しているためである。

  • (1) 利用者による利用規約への同意
  • (2) 図書館等公衆送信対象外資料へのPDFDL申込不可設定(11)
  • (3) 簡易的な事前見積
    複写物作成前に全ての利用者に見積額を連絡する手順とすると、個々の連絡にかかる作業が増えるだけでなく、どの申込みが回答待ちでどの申込みが複写作業の対象かといった工程管理が複雑化し、結果としてPDFファイル提供までに長期間かかってしまう。そこで、NDLサーチの申込完了前の画面で、利用者が入力したページ数に応じて推定金額を自動表示するほか、利用者による上限金額の入力を必須とした(後述のとおり、当初、金額の入力は任意であった)。
  • (4) PDFファイルへの利用者ID、データ作成館・作成日及び透かしの付与(12)
  • (5) PDFファイル提供及び請求金額の電子メール通知
    PDFファイルは、利用者がNDLサーチにログインしてダウンロードする形式で提供している。提供と同時に、利用者に電子メールを自動送信し、その本文にダウンロード方法、請求金額及び振込先口座を記載している(以下このメールを「請求メール」という)。請求金額及びその内訳は、受託センターが業務システムに入力した数値を埋め込んだものである。紙の請求書類は発行していない。
  • (6) SARLIBへの送信実績報告
    権利者への補償金の分配のため、どの資料のどの部分を図書館等公衆送信したかSARLIBに報告する必要がある(13)。資料名やページ数(又は論文名)等を記載したtsvファイルが、複写物のPDFファイルとともに、SARLIBのサーバーに日次で自動送信される(14)

 補償金の金額は、算定式の種類や補償金対象のページ数等をSARLIBの業務システムに入力することで導かれるが、その前提として(a)主たる著作者の没年調査を含む補償金の要否、(b)使用する算定式、(c)補償金の対象となるページ数の3点を判断する必要がある。加えて、複写にかかる費用を含めた合計金額が、利用者が設定した上限金額を超えていたら、複写物作成前にキャンセル扱いとしなければならない。これらを間違えないように、職員が自作したExcel等のツールを用いながら、申込み1件ごとに複数人で確認している。

 

6. 利用者からの反響

 サービス開始から半年経過後の2025年9~11月の状況を概観すると、一日当たりの申込件数は約45件程度であり、同時期の遠隔複写全体の申込件数の約6%に相当する。PDFDLの申込件数のうち、実際に複写物の提供に至った申込みは、65%前後である(15)。東京本館からは、図書、雑誌、新聞、古典籍はじめとする各専門室資料のPDFファイルを提供しているが、相対的には雑誌の提供が多い。

 国内外から利用があるが、大部分は国内の利用者による。ただし、海外の個人からPDFファイルの入手可否の問合せを受けることは少なくない。利用案内の改善等により、海外からの需要に一層応えられる可能性がある。

 なお、PDFDLの利用を希望するものの、紙の請求書類を入手したいがためにあえて郵送受取を選択する例が散見された。作業工程や複写料金との兼ね合いで、請求書類の要望に柔軟に対応することは難しいが、紙の請求書類に一定のニーズがあるものと思われる。

 

7. PDFDL開始後の検討事項

 開始当初は、申込時に上限金額が入力されないことが多く、請求メールを受領した利用者から「料金が高すぎる」旨の意見が相次いで寄せられた。予期せぬ高額の請求が利用者の過度な負担となることを防ぐため、2025年7月末にNDLサーチを改修し、上限金額の入力を必須とした。これにより、料金への意見は大幅に減った。

 さらに、サービス開始以降継続して、小計(税抜)が請求金額(税込)であると誤認した利用者による消費税額の未入金が一定数生じたほか、「PDFファイルをどこからダウンロードするか分からない」という問合せが多く寄せられた。これらの課題は、2025年11月末に請求メール本文の内容を見直したことで解消したが、円滑なサービス提供には案内文の分かりやすさが不可欠であることに改めて注意を払いたい。なお、請求メールの変更が開始から約9か月後となったのは、業務システムの改修を要したためである。機械的な処理は業務負荷を軽減する一方、即時の修正を困難としうる点には留意すべきだろう。

 2025年10月以降、図書館等公衆送信対象外としてSARLIBが指定する資料リストが公開され、随時更新されている(16)。そのうち国内資料については、原則としてPDFDL申込不可設定によって対応している。設定対象の集合は必ずしも機械的に作れないため、書誌の検索をはじめとする人手を介した作業が生じ、労力を要する。

 

8. おわりに

 PDFDL開始後の検討事項は想定以上に多くあったが、権利者と利用者双方の理解のもと、なんとか順調にサービス提供できているといえるだろう。NDLの以上の経験が、図書館等公衆送信を実施する他の図書館の参考となれば幸いである。

 

*本稿執筆時は利用者サービス部複写課

(1)国立国会図書館サーチ.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/, (参照 2026-02-19).

(2)詳細は「遠隔複写サービス」のページを参照。
“遠隔複写サービス”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/copy/remote, (参照 2026-02-19).

(3)村井麻衣子. 令和3年著作権法改正:図書館関係の権利制限規定の見直し. カレントアウェアネス-E. 2021, (418), E2412.
https://current.ndl.go.jp/e2412, (参照 2026-02-19).

(4)著作権法の一部を改正する法律(令和3年改正)について. 文化庁. 69p.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r03_hokaisei/pdf/93627801_01.pdf, (参照 2026-02-19).

(5)図書館等公衆送信サービスに関する関係者協議会. 図書館等における複製及び公衆送信ガイドライン. 2023, 11p.
https://www.sarlib.or.jp/wp-content/uploads/2023/08/31guidelines230830.pdf, (参照 2026-02-19).

(6)図書館等公衆送信の対象外資料として、一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会が指定するもの、楽譜、地図、写真集、画集、発行後1年を経過していない定期刊行物(ただし新聞については、次号が発行されていないもの)が定められている。

(7)図書館等公衆送信補償金規程. 一般社団法人図書館等公衆送信補償金管理協会, 2023, 5p.
https://www.sarlib.or.jp/wp-content/uploads/2023/05/sarlib-hoshokinkitei.pdf, (参照 2026-02-19).

(8)SARLIBは、補償金の徴収及び権利者への分配等を担う指定管理団体として、文化庁が指定した団体である。
“改正著作権法第104条の10の2第1項の図書館等公衆送信補償金を受ける権利を行使する団体の指定について”. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/93789301.html, (参照 2026-03-07).

(9)請求金額は、①②の合計額に消費税(小数点以下は切り捨て)を加算した金額となる。なお、海外からの利用の場合には、消費税はかからない。

(10)郵送受取では、「料金単価×枚数」に、送料及び事務手数料が加算される。複写物の大きさや分量次第では、郵送受取の請求金額の方が高額となるケースもある。例えば、郵送受取でA2サイズの新聞をA3サイズの用紙2枚でカラー複写する場合の請求金額は、税込640円に送料(実費)を加えた金額となる。PDFDLの場合には、A2サイズ1コマ分の複写となり、補償金に相当する金額を含めた請求金額は、税込633円となる。複写料金の詳細は以下を参照のこと。
“複写料金表(遠隔複写)”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/copy/fee/fee1, (参照 2026-02-19).

(11)ただし、申込受付後、実際に資料を確認して初めて対象外と判明することもある。

(12)ガイドラインでは、美術・写真の著作物の上に記号等を付すよう定められているが、NDLでは全てのPDFファイルに一律に付している。

(13)図書館等公衆送信サービスに関する関係者協議会事務処理等スキーム分科会合意事項. 2022, 4p.
https://www.jla.or.jp/wp/wp-content/uploads/2025/07/20230525_02-5_kyogikai03_jimusyori.pdf, (参照 2026-03-07).
図書館等公衆送信補償金関係業務の執行に関する規程. SARLIB, 2023, 4p.
https://www.sarlib.or.jp/wp-content/uploads/2025/04/sarlib-business-kitei20230601.pdf, (参照 2026-03-07).

(14)SARLIBに送信するtsvファイル及びPDFファイルには、利用者ID等の個人情報は含まれない。

(15)残りの35%前後は、申込受付から複写作業開始までの間に利用者自身がキャンセルした件数と、上限金額超過を含め、何らかの理由で複写ができないとしてNDL側でキャンセル扱いとした件数から成る。ここでいう申込件数は、東京本館、関西館、国際子ども図書館の各館の受付件数の合計である。なお、デジタル化資料への申込みは、関西館で担っている。

(16)以下のページの「送信除外対象資料について」の箇所で、「SARLIB指定・送信除外対象リスト」が公開されている。
“特定図書館等の方へ”. SARLIB.
https://www.sarlib.or.jp/library, (参照 2026-02-19).

[受理:2026-05-13]

 


服部菜都子. 遠隔複写のPDFファイル提供開始後1年の振り返り. カレントアウェアネス. 2026, (368), CA2100, p. 2-4.
https://current.ndl.go.jp/ca2100
DOI:
https://doi.org/10.11501/14953685


Hattori Natsuko
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