カレントアウェアネス
No.332 2017年6月20日
CA1898
学校図書館の情報交流紙『ぱっちわーく』の24年
―学校図書館研究の情報源としての意義―
法政大学キャリアデザイン学部:高橋恵美子(たかはし えみこ)
はじめに
『全国の学校図書館に人を!の夢と運動をつなぐ情報交流紙 ぱっちわーく』(以下『ぱっちわーく』とする)が、2017年3月、286号をもって終刊となった。創刊は1993年5月、全国の学校図書館の充実と「人」の配置を実現する夢と運動をつなぐ情報交流紙として、国の動きや各地の運動、新聞記事などを、原資料の転載も含め、丁寧に伝えてきた。『ぱっちわーく』は、全国各地の学校図書館充実運動を支えるうえでも、また学校図書館研究のための情報源としても、大きな役割を果たしてきた。『ぱっちわーく』発行を支えたのは、事務局を担当する岡山市の小中学校司書(元学校司書を含む)であり、全国に広がる発行同人であった。当事者の視点からの記事には、発行人であった梅本による記事がある(1)が、本稿では、学校図書館研究の情報源としての『ぱっちわーく』の意義や重要性をまとめてみたい。
1.『ぱっちわーく』の創刊と活動
『ぱっちわーく』は、創刊号から3号まではこの名称だったが、4号(1993年9月8日)からは『全国の学校図書館に人を!の夢と運動をつなぐ情報交流紙 ぱっちわーく』となった。『ぱっちわーく』の名称は、兵庫県の元学校司書土居陽子が名付けたものという。発行当初は隔月刊を考えていたとのことだが、2号から月刊となった(2)。創刊時の1993年は、学校図書館に「専任の専門職員を」という運動が全国各地に広がりつつあった時期で、運動のための情報交流紙が求められていた。1990年代以降の小中学校への学校司書配置実現の背景には、全国の「学校図書館を考える会」といった市民運動の存在があった。そうした運動を結びつけ、必要な情報を提供した『ぱっちわーく』の活動の意義は大きい。
『ぱっちわーく』は情報交流紙であったが、それ自体が、学校図書館充実のための運動体の側面もあった。たとえば、1994年から95年にかけて、創刊1周年記念「全国縦断 学校図書館を考えるつどい」(富山市、鳥取市、札幌市、東京都北区、長崎県時津町、香川県丸亀市)を開催している。学校図書館に関心のある市民、PTA等の保護者、教師、司書などを集め、学校図書館に「人」がいることで何ができるかを伝え、話し合うつどいである。開催地によって内容が異なるが、ビデオ『本があって、人がいて』(1991年制作)の上映が行われたり、岡山市の小中学校の司書による実践報告が行われたりしたつどいもあった。
ビデオ『本があって、人がいて』は、学校司書がいる岡山市の小中学校の学校図書館の姿や子どもたちの様子、司書の活動を具体的に伝える内容だった。当時各地の学校図書館を考える会は、この「ビデオを見る会」から活動を始めるところが多かった。『ぱっちわーく』は1994年6月から、購読者に対してこのビデオの貸し出しを始めている。この活動もまた『ぱっちわーく』の運動体としての側面を伝えるものである。
「全国縦断 学校図書館を考えるつどい」は、2000年から2001年にかけて「Part2」(埼玉県所沢市、横浜市、札幌市)が取り組まれた。
2.学校図書館研究の情報源としての『ぱっちわーく』
『ぱっちわーく』が伝えてきた情報は、1993年以降の学校司書及び学校図書館をめぐる状況を研究するうえで欠かせない情報となっている。掲載記事の内容は、大きく三つに分けられる。(1)全国各地の運動や動向、(2)国の動向、(3)その他、である。
2.1 全国各地の運動や動向
全国各地の運動や動向を伝えることは、『ぱっちわーく』創刊の目的でもある。具体的には「わたしの街・町・まちから」、「新聞あんな記事こんな記事」「学校図書館の「人」をめぐる動き」などの記事があげられる。「わたしの街・町・まちから」は創刊号から終刊号までほぼ継続した記事で、全国各地の運動や会の活動、イベントのお知らせや報告を伝える記事である。運動を伝える記事では実際の要望書・請願書等も含めて伝えている。
「新聞あんな記事こんな記事」は、折々の学校図書館の動きをコンパクトに伝える記事とともに、通常目にすることのない全国紙の地方版や地方紙の学校図書館関係の記事がとりあげられているのが、貴重である。記事は新聞社の許可を得て転載している。
「学校図書館の「人」をめぐる動き」は、当初は自治体ごとに行われた司書配置の情報を短文で伝える記事だったが、2007年ごろから求人情報の形式に変わっていく。この記事に関して、発行同人の一員でもある大阪教育大学名誉教授の塩見昇は終刊号(286号)に「通覧すると、いまの「学校司書」がいかに多様で、雇用条件に格差が大きいかをリアルに語っており、貴重な動向記事である」(3)と書いている。
また「Piece Quilt 全国で学校図書館づくりにとりくんでいる会一覧」は、『ぱっちわーく』でなければできない記事である。「考える会」同士の情報交流のために、名称、代表者、連絡先、活動内容などをまとめている。32号(1996年1月21日)、63号(1998年8月16日)、114号(2002年11月27日)、161号(2006年10月15日)に掲載されている。掲載後に追加記事(会の追加、訂正等)がある場合もあるが、一覧掲載時の会の数は、それぞれ51(32号)、59(63号)、63(114号)、86(161号)となっている。学校図書館づくりに取り組んでいる会が年々全国に広がっていることがわかる。
各地の動きでは、1990年に全校配置された日野市(東京都)の学校司書(学校図書館事務嘱託員)について、同市の教育委員会が、1997年の学校図書館法改正後に平成15年(2003年)3月31日限りで打ち切ることを決めたことに対して、制度継続を訴えるアピール(日野市の学校図書館をよくする会)を69号(1999年2月21日)に掲載している。学校図書館法改正時の附帯決議で「現に勤務するいわゆる学校司書がその職を失う結果にならないよう配慮する」(4)とあるにもかかわらず、制度を廃止した事例があったことや、それへの反対運動があったことを知ることができる。
また2006年から毎年1回掲載された学校図書館を考える全国連絡会「東京都公立小・中学校の学校図書館職員(学校司書等)配置状況」も貴重な資料である。2006年、東京都で学校図書館職員を配置した自治体(区・市等)の数は28(掲載は158号、2006年7月16日)、2016年では47(掲載は280号、2016年9月18日)であり、職名や配置形態(専任・兼任等)、資格要件などが、表で示されている。
2.2 国の動向
国の動向についても、詳細な資料を含め充実した記事を掲載している。たとえば、学校図書館の機能を読書センター、学習情報センターと位置付けたのは、文部省(当時)が設置した児童生徒の読書に関する調査研究協力者会議が1995年に公表した「児童生徒の読書に関する調査研究協力者会議 報告」である。この報告は28号(1995年9月27日)に、その前段階の「児童生徒の読書に関する調査研究協力者会議 中間まとめ」は18号(1994年11月13日)に、それぞれ全文掲載されている。
また、1997年、2014年の学校図書館法改正の動きについても、国の動き、新聞報道、国会会議録、各関係団体の見解などを伝えている。1997年の法改正に関しては、この改正が「学校司書の制度化」を内容としていないことを説明する自由民主党「学校司書教諭に関する小委員会」調査報告、学校司書を専任の司書教諭とする「社会民主党法案」の二つが、34号(1996年3月17日)に掲載されている。2014年の法改正の際には、230号(2012年7月15日)及び号外(2012年7月16日)において、法改正の動きに関する記事や、関連資料を紹介している。
また近年の文部科学省「学校図書館担当職員の役割及びその資質能力の向上に関する調査研究協力者会議」(2013年度)「学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議」(2015~2016年度)、それぞれの報告について学校図書館関係者がどう読んだかを伝える特集も組んでいる。前者(5)については252号(2014年5月18日)、後者(6)は283号(2016年12月18日)である。
2.3 その他
その他では、折々の連載記事がある。以下にあげる。
- 日本全国学校図書館を考える会のこんなことしてます 全14回 1993年~2000年
各地の「考える会」の活動を紹介する記事。 - 学校図書館取材日記 全9回 1994年~1995年
長野県の地方紙の記者による取材日記。 - 実践から見えてくるもの 全6回 1997年~1998年
学校司書が自分の実践と実践から考えたことを伝える記事 - シリーズ 各県高等学校図書館の現状 全10回 1999年~2000年
職員問題を中心にした各県の高等学校図書館の現状を伝える記事 - シリーズ ボランティアから学校図書館を考える 全7回 2000年~2002年
文部省1999年、2000年度「学校図書館ボランティア活用研究実践指定校事業」により、小学校を中心にボランティア活用が広がったことに対し、ボランティアと学校図書館の問題を掘り下げた記事。 - シリーズ 「司書教諭養成」 全8回 2003年
司書教諭本格発令の年にあたり、大学で司書教諭養成に関わる先生に、養成カリキュラム、司書教諭、司書教諭と学校司書の関係などをテーマに執筆を依頼。 - 連載:学校図書館うおっちんぐ 全17回 2007年~2009年
市民の読者の声に応えて、日常の学校図書館での子どもたちや教師の様子を伝える記事。 - シリーズ 実践から学校図書館を考える 全5回 2011年~2012年
実践から学校図書館のあり方、学校司書の専門性を考える記事。
上記連載記事のほかには講演録、イベント案内、イベント参加報告等がある。
『ぱっちわーく』には、年1回Scrap Quiltという名称の「記事と新聞記事索引」がある。都道府県ごとにどのような記事と新聞記事があったかを示すもので、特定の地域にしぼって情報を探すことができる。
以上見てきたように、『ぱっちわーく』は、学校図書館の、特に学校司書に焦点を当てて研究する研究者には、貴重な情報源であった。2017年3月をもっての終刊は惜しまれるが、日本の学校図書館の歩みを知る上で、これからも貴重な資料である。
(1) 梅本恵. 特集, トピックスで追う図書館とその周辺: 『ぱっちわーく』終刊:学校図書館の「人」をめぐる情報交流を続けて. 図書館雑誌. 2017, 111(2), p.82-83.
(2) 梅本恵. 編集後記. ぱっちわーく. 1993, (2), p.20
(3) 塩見昇. 『ぱっち』の終刊と学校図書館運動の課題. ぱっちわーく. 2017, (286), p.3-7.
(4) 第百四十回国会衆議院会議録第四十一号. 官報(号外). 1997-06-03. p.16.
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/140/0001/14006030001041.pdf, (参照2017-04-19).
(5) 学校図書館担当職員の役割及びその資質の向上に関する調査研究協力者会議. “これからの学校図書館担当職員に求められる役割・職務及びその資質能力の向上方策等について(報告)”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/099/houkoku/1346118.htm, (参照:2017-04-19).
(6) 学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議. “これからの学校図書館の整備充実について(報告)”.
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/115/houkoku/1378458.htm, (参照:2017-04-19).
[受理:2017-05-15]
高橋恵美子. 学校図書館の情報交流紙『ぱっちわーく』の24年―学校図書館研究の情報源としての意義―. カレントアウェアネス. 2017, (332), CA1898, p. 5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1898
DOI:
http://doi.org/10.11501/10369297
Takahashi Emiko.
24 years of School Library Campaign News Letter “Pacchiwaku” and the Significance of School Library Research.