CA1614 – フランス法定納本制度改正とウェブアーカイブへの対応 / 鈴木尊紘

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カレントアウェアネス
No.290 2006年12月20日

 

CA1614

 

フランス法定納本制度改正とウェブアーカイブへの対応

 

 フランスの納本制度は,フランソワ一世のモンペリエのオルドナンス(王令)により,1537年に,図書を納本対象としたことを嚆矢とする。1993年には,パッケージ系電子出版物へと納本対象を拡大した(1)。そして2006年,フランス納本制度は,再び大きな変動期を迎えた。第一には,2006年6月13日のデクレ(法令)により,法定納入受入機関に納本するべき紙媒体出版物の冊数を減少させることが定められた(E397参照)。第二には,2006年8月1日に公布された「情報社会における著作権及び著作権隣接権に関する法律」の規定により,フランス国立図書館(BnF)及び国立情報学視聴覚研究所(INA)が,インターネット情報資源を法定納本の対象とすることが規定された。

 まず,納本冊数を減少させるという決定は,1993年の法定納本に関するデクレ(2)を,2006年6月13日のデクレ(3)のとりわけ第6条によって修正するという形でなされた。以前は,出版者は4部,印刷者は2部納本せねばならなかったが,新しいデクレのもとでは,出版者2部,印刷者1部の納本となる。今回の改定は,納本部数を削減することで,納本する側,納本される側,双方の負担を軽減し,少数の納本資料を確実に管理・提供することが目指されている。出版者からの1部目は引き続きBnFで保管・提供され,2部目は国内外への寄贈・交換に用いられる。また,印刷者からの納本分は,各地域の納本図書館において提供される。このような法改正の背景には,「ドキュメントの爆発的増加」がある(4)。実際,図書及び逐次刊行物の納本数は増えており,過去15年間において,文学領域の出版物が35%,歴史及び地理の出版物が12%増加している。また,納入者が多様化しているという背景もある。2005年には,6419の納入者が存在したが,そのうち2692が新規の納入者である。しかも,これら納入者の半分は,この1年間で1部しか納入していない。これは,個人が自分自身で少数部作成した出版物をBnFに納本するケースが増えてきていることを意味している(5)。このような現象を前にして,収蔵スペースの狭隘化が生じたため,納本冊数を減少させ,同時に,BDLI(Bibliothèques du dépô t légalimprimeur:印刷者納本図書館)等の保存パートナーに,BnFが保存できないものを分担保存してもらうという方向性を打ち立てた,というわけである。

 第二に,BnF及びINAが目指すウェブアーカイブにおいて,新局面が見られている。それは,「情報社会における著作権及び著作権隣接権に関する法律」(通称,Dadvsi法という。)(6)において,BnF及びINAが,インターネット情報資源を著作権者の許諾を得ることなく収集・保存できることが明記されたことである。この法案は,現在の情報社会と著作権法との調和をめざしEU議会が可決した指令に基づいて作成されたものであり(7),2003年10月12日,閣議了承されたが,2004年度には成立に至らなかった(E154参照)。2005年12月に再び審議されたが,結果は数々の修正を受け,この法案が本来目的としていた方向とは逆を向いてしまった。当初,この法案の焦点は,デジタルデータを提供し,流通させる商業各社のデジタル著作権管理(DRM)を解除し,「相互運用性」を高めること,及び,Peer to Peer(P2P)方式によりデジタルコンテンツを自由に交換することを法的に認めるか否かを判断すること,であった(E433参照)。しかしながら,DRMの「相互運用性」の定義が曖昧であるとの憲法院の指摘を受け,各社のDRMの解除は果たされなかった。また,原案では,P2P等によるファイル共有の刑事責任は問わないとされていたが,この条項も破棄され,違法行為であるとされた(8)。Dadvsi法が当初の目的に反した形で成立してしまった点については,社会党やオープンソース推進派から批判が相次いでいる(9)

 しかしながら,Dadvsi法は,インターネット情報資源の収集と恒久的保存に関しては,その可能性を大きく開いた法律である。特に,第39条から第47条において,BnF及びINAによるインターネット情報の法定納本制度に関する規定がなされた。以下,重要なポイントを解説する(10)

  1. 第39条は,インターネット情報が法定納本の対象であることを規定する。同条ではパッケージ系電子出版物が法定納入義務に服することが記された後に,「電子的通信により公衆に送信される対象となるあらゆる種類の記号,標識,文書,画像,音声又はメッセージも同様に,法定納入に服する。」と規定されている。このように,BnF及びINAは,事前許諾を得ることなく,インターネット情報資源を収集することができることになった。また,第50条IIIにおいて,納入義務に服さない場合に処罰を与えられることが明記されている。しかし,同法が効力を持って3年経った後に,処罰が加えられるとされており,時間的猶予が与えられている。
  2. 第41条2項では,インターネット情報資源を収集する手段について規定されている。すなわち,インターネット情報の法定納本は,収集ロボットによる「自動的手段」によってなされる。それが不可能な場合,出版者又は著作者が,BnF及びINAとの合意に基づき,電子著作物等のインターネット情報の複製及びその送信を行うという方法で収集を行うことも想定されている。
  3. 第42条は,データの複製・利用について記している。納入受入機関は,データの収集,閲覧及び保存のために,そのデータの複製を行うことが認められている。だが,収集されたデータの閲覧は,「各納入受入機関によって正式に認定された研究者が,専ら閲覧の用に充てられる個別の機器を用いて当該機関内において行う閲覧」と定義され,自由な閲覧は許可されない模様だ。つまり,研究者によるデータの館内閲覧のみが認められており,インターネットによる館外への公開は想定されていないと言える。いいかえれば,納入受入機関の収集,保存及び研究閲覧のために,著作権が制限される形となっている。
  4. 収集・保存の担当分担が,第45条に明記されている。ラジオ・テレビなどのオーディオヴィジュアルなコミュニケーションに属するドメインのサイトは特にINAが収集し,BnFはその他すべてのサイトを収集するという方針が示されている。

 このように,Dadvsi法は,BnF及びINAがインターネット情報資源を収集し,保存する法根拠となった。実際にどのように収集するのか(収集選択基準),どのように閲覧に供するのか(閲覧許可条件)等,運用細則に関しては,CNIL(Commission nationalede l’informatique et des libertés:情報処理及び自由に関する国家委員会)からの意見を聴取した後に,コンセイユ・デタ(国務院)が公布する別のデクレで明記される予定である(Dadvsi法第41条IIによって,このデクレの作成が要請されている)。現在は,Dadvsi法を運用するためのデクレが作成されている状態である(11)

 BnFは,紙媒体出版物の納入冊数減少とウェブアーカイブへの対応という異なる2つの局面において,納本制度を改正し,時代の要請に応えようとしている。デジタル情報社会における新たな機能を身に纏おうとするのみならず,古来からの物理的出版物の現状にも対応しようとしていることは,とりわけ印象深い。

総務部企画課:鈴木尊紘(すずき たかひろ)

 

 

(1) 松浦茂. フランスの納本制度. 図書館研究シリーズ. 34,1997, 128-131.

(2) 前掲 (1). 及び,松浦茂ほか(訳). 1993年12月31日の法定納本に関するデクレ第93-1429号(1994年1月3日デクレ第94-3号,1995年1月5日デクレ第95-36号により一部改正)文化及びフランス語圏省. 図書館研究シリーズ. 34, 1997, 356-372.
Le décret n° 93-1429 du 31 décembre 1993 relatifau dépôt légal. (online), available from < http://www.legifrance.gouv.fr/texteconsolide/ADHQT.htm >, (accessed 2006-10-19).

(3) Le décret n° 2006-696 du 13 juin 2006 modifiantle décret n° 93-1429 du 31 décembre 1993 relatif au dépôt légal. (online), available from < http://www.legifrance.gouv.fr/WAspad/UnTexteDeJorf?numjo=MCCB0600359D >, (accessed 2006-10-19).

(4) Daniele Heller. Le dépôt légal ou comment aimer le papier d’un amour fou!. BBF. 51(4), 2006, 5-9. (online), available from < http://bbf.enssib.fr/sdx/BBF/frontoffice/2006/04/document.xsp?id=bbf-2006-04-0005-001/2006/04/fam-dossier/dossier&statutMaitre=non&statutFils=non >, (accessed 2006-10-19).

(5) Ibid., 8.

(6) Loi n° 2006-961 du 1er août 2006 relative au droit d’auteur et aux droits voisins dans la société de l’information. (online), available from < http://www.legifrance.gouv.fr/WAspad/UnTexteDeJorf?numjo=MCCX0300082L >, (accessed 2006-10-19).

(7) Directive 2001/29/CE du Parlement européen et du Conseil du 22 mai 2001 sur l’harmonisation de certains aspects du droit d’auteur et des droits voisins dans la société de l’information. (online), available from < http://admi.net/eur/loi/leg_euro/fr_301L0029.html >, (accessed 2006-10-19).

(8) Dadvsi法の第1章 第4節「保護と情報の技術的手段」に明確に記されている。また,当法制定までの紆余曲折については,下記の論考に詳しい。
Dominique Lahary. Les bibliothèques et la loi Dadvsi: Survivre dans un débat fracassant. BBF. 51(5), 2006, 18-25. (online), available from < http://bbf.enssib.fr/sdx/BBF/frontoffice/2006/05/document.xsp?id=bbf-2006-05-0018-003/2006/05/fam-dossier/dossier&statutMaitre=non&statutFils=non >, (accessed 2006-10-19).

(9) こうした批判に関しては,社会党議員で次期大統領候補の一人と目されているセゴレーヌ・ロワイヤル(Ségolène Royal)の発言が挙げられる。例えば,次のサイトを参照せよ。
Ségolène Royal, le logiciel libre, la loi DADVSI et les licences Creative Commons. (online), available from < http://framablog.org/index.php/post/2006/10/22/Segolene-Royal-logiciel-libre-DADVSI-Creative-Commons >, (accessed 2006-11-17).

(10) この重要ポイントの整理に関しては,BnFの納本制度の説明サイトを参考にしている。
Bibliothèque nationale de France. Cinq questions sur le dépôt légal Internet. (online), available from < http://www.bnf.fr/pages/infopro/depotleg/dl-internet_quest.htm >, (accessed 2006-10-19).

(11) こうした現在のステータスに関する言明は,注(10)のBnFホームページ及び下記の論考に詳しい。
Gildas Illien et al. Le dépôt légal d’Internet à la Bibliothèque nationale de France: Cadre juridique, modèle de collecte, évolutions des métiers. BBF. 51(3), 2006, 82-85. (online), available from < http:// bbf.enssib.fr/sdx/BBF/frontoffice/2006/03/document.xsp?id=bbf-2006-03-0082-013/2006/03/fam-dossier/dossier&statutMaitre=non&statutFils=non >, (accessed2006-10-19).

 


鈴木尊紘. フランス法定納本制度改正とウェブアーカイブへの対応. カレントアウェアネス. (290), 2006, 8-10.
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