CA1840 – 読書条例制定の動きについて / 日置将之

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カレントアウェアネス
No.323 2015年3月20日

 

CA1840

 

読書条例制定の動きについて

 

大阪府立中央図書館:日置将之(ひおき まさゆき)

 

はじめに

 2001年に制定された「子どもの読書活動の推進に関する法律」(1)は、読書活動の推進を主目的にした日本では初めての法律である。その後、2005年には「文字・活字文化振興法」(2)も制定され、読書も含めた文字・活字文化という大きな枠組みの中で、その振興がうたわれている。

 このような国による法律制定の動きを受けて、地方自治体でも読書活動の推進を主目的にした条例(読書条例)が生まれてきている。これまで、宮崎県高千穂町の「高千穂町家族読書条例」(2004年)(3)を嚆矢として散発的に制定されていたが、2013年以降には複数の自治体で条例が制定され始めており、その動きがにわかに活発化している。

 そこで本稿では、読書活動推進に関わる法律の内容等を概観し、これまでに制定された読書条例について紹介する。

 

1. 読書活動推進関連の法律

(1)子どもの読書活動の推進に関する法律

 「子どもの読書活動の推進に関する法律」は、子どもが自主的に読書をすることができるように読書環境の整備を進めることを目的としており、2001年12月に公布・施行された(4)

 同法では子どもの読書活動の推進に関する基本理念を定め、国は「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」を策定・公表すること(5)、地方公共団体は国の基本計画を受けて、地域の状況に応じた推進計画を策定・公表すること(6)、4月23日を「子ども読書の日」にすること等を定めている。

 同法の成立を受けて、国や地方公共団体では子どもの読書活動の推進に関する様々な施策が進められている(7)

 

(2)文字・活字文化振興法

 「文字・活字文化振興法」は、文字・活字文化(8)の振興に関する施策の総合的な推進を図ることで、知的で心豊かな国民生活及び活力ある社会の実現に寄与することを目的とした法律で、2005年7月に公布・施行された。

 同法では、文字・活字文化の振興に関する基本理念を定めて国や地方公共団体等の責務を明らかにし、地域における文字・活字文化の振興や学校教育における言語力の涵養、財政上の措置等を求めている。また、国には文字・活字文化の国際交流や学術出版物の普及等も求めており、10月27日を「文字・活字文化の日」にすること等も定めている。

 同法の成立を受けて、国では地域における文字・活字文化の振興や学校教育における言語力の涵養等の施策を実施している(9)。また、民間レベルでも2007年に設立された「公益財団法人文字・活字文化推進機構」を中心に様々な取組みがなされている(10)

 

2. 都道府県による読書条例

 都道府県では、秋田県が2010年3月に「秋田県民の読書活動の推進に関する条例」を制定している(11)

 同条例では、すべての県民が読書活動を行えるよう環境整備を進めなければならないとし、県の責務として読書推進に関する基本計画の策定や施策実現のための予算措置のほか、学校や図書館等の関連機関や民間団体等と連携すること等を定めている(全7条)。予算措置を努力義務ではなく、義務としている点は特徴的である。

 同条例に基づき、2011年3月には「秋田県読書活動推進基本計画」が策定されているが、計画策定時の県議会では、条例制定も含めた経緯について、「子どもの読書活動の推進に関する法律」や「文字・活字文化振興法」が背景としてある旨の説明がなされている(12)

 その他、2014年には11月1日を「県民読書の日」に定める等の施策も実施されている(13)

 現在のところ、他の都道府県では読書活動の推進を中心に据えた内容の条例は確認できていない。

 

3. 市町村による読書条例

 市町村による読書条例は、2014年12月までに7市町での制定が確認できている(表参照)。

表 市町村の読書条例(制定年月順)
条例名都道府県制定年月
(施行年月)
概要(目的等)
高千穂町家族読書条例宮崎県2004年3月
(2004年4月)
読書の意義と教育的効果を再認識し、行政、学校、町内の各家庭が一体となって家族ぐるみの読書運動に取組むことで、家族間の望ましい人間関係の醸成と次代を担う子どもたちの心豊かな成長に寄与する。(全7条)
仙北市市民読書条例秋田県2011年6月
(2011年7月)
市民の読書に関する基本理念を定め、市の責務を明らかにするとともに、市民の読書を促進するための措置に関する基本的な事項を定めることで、心豊かな人々の多い元気なまちを目指している。(全5条)
恵庭市人とまちを育む読書条例北海道2012年12月
(2013年4月)
読書活動を通じて故郷を愛する人を育てるとともに、人と地域の繋がりを深め、心豊かで思いやりにあふれ、活力あるまちづくりを目指し、市民、家庭、地域、学校及び市が進めていく取組みを明らかにしている。(全10条)
横浜市民の読書活動の推進に関する条例神奈川県2013年6月
(2014年4月)
市民の読書活動推進に関する基本理念を定め、市の責務並びに家庭、学校、地域における取組み等を定めることで市民の読書活動の推進に関する施策を総合的・計画的に推進し、市民の心豊かな生活や活力ある社会の実現に資する。(全10条)
中津川市民読書基本条例岐阜県2013年9月
(2013年10月)
市民の読書推進に関する基本的な考え方を定め、各市民の心豊かな生活と活力ある社会の実現を目指すことを目的として市の役割を明示し、家庭、学校、地域等の取組みについて定めている。(全6条)
有田川町こころとまちを育む読書活動条例和歌山県2014年3月
(2014年4月)
町民の読書活動の推進に関する基本理念を定め、町の責務並びに町民、家庭、学校及び地域における取組み等を定めている。(全11条)
野木町民の読書活動の推進に関する条例栃木県2014年9月
(2014年10月)
町民の読書活動の推進に関する基本理念を定め、町の責務並びに家庭、町内の小・中学校、保育園、幼稚園及び地域における取組み等を定めている。(全9条)

 これらの条例のなかで、最も早期に制定されたのは2004年の「高千穂町家族読書条例」である。この条例では、教育委員会と学校の役割を定め、学校にはPTAや家庭との連携を図りながら家族読書計画を策定することを義務付けている。また、家庭に対しては家族読書計画に積極的に参加し、協力することを求めている。家族ぐるみの読書運動(家族読書)に焦点を当てている点は、他の条例にはない特徴である。

 2011年に策定された「仙北市市民読書条例」(14)は、高千穂町の条例とは異なり、市の責務(市立図書館等の蔵書充実、市立図書館・小中学校図書館・公民館等のネットワーク構築、児童生徒の読書の促進等)のみを定めている。また、秋田県の条例と同様、財政上の措置を義務規定として設けている。

 2012年に「恵庭市人とまちを育む読書条例」(15)を制定した恵庭市は、条例の制定以前から活発に読書活動を推進していたが、条例施行後には喫茶店や美容室等の市内各所に本を置いて小さな図書館にする「恵庭まちじゅう図書館」(CA1812参照)をはじめとした、新たな取組みを展開している(16)

 2013年には「横浜市民の読書活動の推進に関する条例」(17)と「中津川市民読書基本条例」(18)が制定されている。横浜市の条例は政令指定都市では初めてのもので、2014年3月には同条例に基づき「横浜市民読書活動推進計画」も策定されている。中津川市は図書館の新館建設が選挙の争点となり、最終的に建設中止となった自治体であるが(CA1834参照)、条例の中には市立図書館の取組みも明記されている。

 2014年にも二つの自治体で条例が制定されている。「有田川町こころとまちを育む読書活動条例」(19)と「野木町民の読書活動の推進に関する条例」(20)である。この二つの条例には、施策の実施に際して「子どもの読書活動の推進に関する法律」等に基づく計画等との整合性を求めている点や、11月を町民の読書活動推進月間に指定している点等、共通点が多い。なお、野木町では、条例と同時に家読・朝読・楽読等の様々な読書を掲げた「キラリと光る読書のまち野木宣言」(21)も議決されている。読書に関する条例と宣言の同時議決は珍しいものである。

 市町による条例の共通点としては、条文数が5条から11条程度までと少ない点が挙げられる。また、読書活動の推進に関わる基本理念や関連組織等の責務、役割等が明示されている点も共通している。

 一方、具体的な責務や役割等の内容には、各条例で異なっている部分がある。例えば、責務や役割等を定めている範囲については、学校、家庭、地域等まで含めた幅広い条例がほとんどだが、市町(行政)のみを対象としている条例もある。また、条例に基づく施策の実効性を高めると考えられる財政上の措置についても、明文化している条例(横浜市、仙北市、有田川町、野木町)と、そうでない条例がある。

 

おわりに

 読書条例を最初に制定した高千穂町には、近年でも他の自治体からの問い合わせがあるという(22)。今後も、同様の条例を制定する自治体が増えていく可能性は高いと考えられる。一方で、条例の制定までは行わず、「読書のまち」を宣言することで読書活動の推進を図る自治体も増えてきている(23)

 条例、宣言の違いはあれど、いずれの自治体もまちづくりの重要な要素として「読書」をとらえている点では共通していると考えられる。条例と宣言のどちらを選択するかによって、実際の読書活動の推進にどのような差異が生じてくるのか、気になるところである。現時点では、条例や宣言に基づいた施策の実効性や課題等を客観的にとらえた論文等は見受けられないが、今後の研究の進展に期待したい。

 

(1) 文部科学省. “子どもの読書活動の推進に関する法律”.
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/hourei/cont_001/001.htm, (参照 2015-01-07).

(2) “文字・活字文化振興法”.
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H17/H17HO091.html, (参照 2015-01-07).

(3) “高千穂町家族読書条例”.
http://www.town-takachiho.jp/administration/reiki/reiki_honbun/q643RG00000239.html,(参照 2015-01-07).

(4) 同法について論じた文献等はCA1638で多数紹介されている。

(5) 2014年までに国による「基本的な計画」は第三次まで策定されている。

文部科学省. “「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」について”.
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/05/1335078.htm, (参照 2015-01-07).

(6) 2014年3月の時点では、全ての都道府県で計画が策定されており、多くの自治体が第三次計画を策定または策定予定の状況である。市町村では、64.2%の自治体で策定済となっている。

文部科学省. “ 都道府県及び市町村における子ども読書活動推進計画の策定状況について(平成26年3月31日現在)”.
http://www.kodomodokusyo.go.jp/happyou/datas_download_data.asp?id=22, (参照 2015-01-07).

(7) 岩崎れい. “5.2.子どもの読書活動推進”. 子どもの情報行動に関する調査研究. 国立国会図書館関西館図書館協力課編. 2008, p. 121-128, (図書館調査研究リポート, 10).
http://current.ndl.go.jp/node/8478, (参照 2015-01-07).

(8) 同法の第二条では、文字・活字文化を「活字その他の文字を用いて表現されたものを読み、及び書くことを中心として行われる精神的な活動、出版活動その他の文章を人に提供するための活動並びに出版物その他のこれらの活動の文化的所産」と定義している。

(9) 文化庁ニュース:「文字・活字文化振興法」成立. 文化庁月報. 2006, 448, p. 39-41.

(10) 文字・活字文化推進機構では、「子どもの読書活動の推進に関する法律」と「文字・活字文化振興法」の具現化を目的として、様々な事業を展開している。

公益財団法人文字・活字文化推進機構. “ 事業内容”.
http://www.mojikatsuji.or.jp/jigyou.html, (参照 2015-01-07).

(11) “秋田県民の読書活動の推進に関する条例”.
http://www1.g-reiki.net/pref_akita/reiki_honbun/u600RG00001360.html, (参照 2015-01-07).

(12) 秋田県議会:会議録検索.“平成22年9月定例会 教育公安委員会 第5日(10月1日)”.
http://gikai.pref.akita.lg.jp/index2.phtml, (参照 2015-01-07).

(13) 秋田県企画振興部総合政策課県民読書推進班. “県の取り組み”. あきたブックネット.
http://common.pref.akita.lg.jp/akita-booknet/torikumi.html, (参照 2015-01-25).

(14) “仙北市市民読書条例”.
http://www.city.semboku.akita.jp/reiki/423901010021000000MH/423901010021000000MH/423901010021000000MH.html, (参照 2015-01-07).

(15) “恵庭市人とまちを育む読書条例”.
http://www1.g-reiki.net/eniwa/reiki_honbun/a032RG00000938.html, (参照 2015-01-07).

(16) 内藤和代. 報告「恵庭市人とまちを育む読書条例について」. 第55回北海道図書館大会 大会記録 2013, p. 36-41.
http://www.library.pref.hokkaido.jp/web/relation/hts/qulnh00000000ew3-att/qulnh0000000470m.pdf, (参照 2015-01-25).

(17)”横浜市民の読書活動の推進に関する条例”.
http://www.city.yokohama.jp/me/reiki/honbun/ag20218051.html, (参照 2015-01-07).

(18) “中津川市民読書基本条例”.
http://www3.e-reikinet.jp/nakatsugawa/d1w_reiki/425901010025000000MH/425901010025000000MH/425901010025000000MH.html, (参照 2015-01-07).

(19) 同条例については、インターネットで条文が公開されていないため、有田川町役場から直接入手した。なお、条例制定の情報は以下の広報で示されている。

有田川町こころとまちを育む読書活動条例が制定!. 有田川町広報. 2014, 101, p. 13.
http://www.town.aridagawa.lg.jp/wp/wp-content/uploads/2014/04/No_101-13.pdf, (参照 2015-01-07).

(20) “野木町民の読書活動の推進に関する条例”.
http://www.town.nogi.lg.jp/reiki/426901010021000000MH/426901010021000000MH/426901010021000000MH.html, (参照 2015-01-07).

(21) “キラリと光る読書のまち野木宣言”.
http://www.nogilib.jp/library/docs/kiraritohikarudokushonomachisengen.pdf, (参照 2015-01-07).

(22)以下の新聞記事には、高千穂町の担当者によるコメントが掲載されている。

読書のまちスクスク 恵庭市、道内で初の「条例」.朝日新聞. 2013-10-7. 朝刊,p. 24.

(23) 例えば、以下の自治体で宣言がなされている。これらの宣言は、自治体の目指すべき方向や重点目標等を示したもので、基本的に議会を通過していることが多いが、法的な強制力は生じないとされている。
・青森県東北町「子ども読書推進のまち宣言」(2006年)
・茨城県大子町「読書のまち宣言」(2007年)
・福島県矢祭町「読書の町矢祭宣言」(2007年)
・熊本県水俣市「日本一の読書まちづくり宣言」(2007年)
・青森県板柳町「読書のまち板柳宣言」(2008年)
・山形県村山市「読書シティむらやま宣言」(2010年)
・佐賀県伊万里市「こども読書のまち・いまり宣言」(2010年)
・高知県土佐町「読書のまち宣言」(2011年)
・埼玉県三郷市「日本一の読書のまち宣言」(2013年)
・福井県越前市「読書のまち宣言」(2013年)
・愛知県一宮市「子ども読書のまち宣言」(2013年)
・栃木県野木町「キラリと光る読書のまち野木宣言」(2014年)

[受理:2015-02-08]

 


日置将之. 読書条例制定の動きについて. カレントアウェアネス. 2015, (323), CA1840, p. 1-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1840
Hioki Masayuki.
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