E1812 – ドローンによる学校間での図書配送の実運用テスト

カレントアウェアネス-E

No.306 2016.06.30

 

 E1812

ドローンによる学校間での図書配送の実運用テスト

 

 秋田県仙北市は,角館の武家屋敷や田沢湖など,多くの名所に恵まれ,年間約600万人が訪れる県内屈指の観光拠点である。『解体新書』の図版を描いたことで有名な小田野直武や新潮社を創業した佐藤義亮,また近年は直木賞作家の千葉治平氏や西木正明氏を輩出するなど,重厚な文化と歴史にも恵まれており,2015年8月,温泉資源と医療の連携や国際交流の推進,国有林の民間利用,ドローンの活用などで,地方創生特区・近未来技術実証特区の指定自治体となった。

 2011年には県下の市町村で初めて読書条例(CA1840参照)を制定し,市立図書館,市立の公民館図書室,市立小中学校の所蔵資料を一括で検索できる「学校公共連携横断検索システム」を完成させた。この横断検索システムはA小学校の子どもがB小学校の図書室に読みたい本がある,とわかった場合,教員や学校職員の連携作業でこれを必要な学校へ配送する想定のもと構築された。しかし,現実には中山間地域をはじめ,市内に点在する小中学校12校間の図書配送は,教員らの多忙さもあり子どもの要望に即時に対応することはできていない。そこで人に代わり,ドローンがこの役割を果たせないかと考え,その実証実験(「ドローンと秘匿通信による図書輸送の実証実験」)を仙北市,国立研究開発法人情報通信研究機構,ドローンメーカーの株式会社プロドローンの共同で行った。

 事前の準備に当たっては,「事故の無い安全運行」を第一に考え,最悪の状況を想定した飛行プランを立てることを重視した。飛行コースの設定においては,地形,居住状況,風向き,風速,乱気流,電波状況,衛星状況などを十分に検討し,飛行前後の監視体制,事故発生時の連絡体制にも気を配った。

 実験は,2016年4月11日に実施した。使用したドローンは直径1.4メートル、重さ15キログラム。回転翼が6つあり,リチウムポリマー電池で駆動し,最大積載量は約5キログラムであった。当日は,本体下部に備えた専用ケースに配送先の西明寺中学校からリクエストがあった本『星の王子様』3冊(約1キログラム)を搭載。子どもたちが見守る中,仙北市立西明寺小学校から離陸した。ドローンは上空約50メートルまで飛翔し,西明寺中学校までの直線約1.2キロメートルを毎秒約5メートルで飛行した。この実験の様子はSkypeを用いて中継し,西明寺中学校の生徒たちが体育館で映像を見られるようにした。ドローンが中学校に近づくと,リクエストした生徒はグラウンドへ移動し,無事届けられた『星の王子様』3冊を受け取った。受け取った生徒からはドローンを初めて間近に見た感動がうかがえ,また図書館で借りる本とは一味違う特別感に紅潮していた。実験に立ち会った筆者をはじめ関係者一同,子どもたちの様子をみて貴重な実験が出来たことを確信するとともに,この実験の成果を将来に繋げていきたいと感じた。

 仙北市は「ドローンが図書も夢も未来も運んでくるまちづくり」に取り組んでおり,この一環として(1)教育現場に最先端技術の集積体と言えるドローンを導入することで子どもたちの科学に対する興味を引き出すこと,(2)子どもたちが多くの本と接することができる環境を整備し,読書推進をサポートする仕組みをつくること,を大きな目的として今回の実験を実施した。この実験のほかにも,仙北市は,ドローンに用いられる技術に子どもたちが親しめる機会を増やすため,プログラミング教室を開催するほか,全国規模のドローン競技会を2016年7月29日から7月31日まで開催する。ドローンは,火山活動監視や遭難者発見などの災害時の活用も期待されるなど,様々な可能性を秘めた近未来技術であり,仙北市では全国に先がけてドローン産業を育成していきたいと考えている。

仙北市総務部地方創生・総合戦略室室長・藤村幸子

Ref:
http://www.city.semboku.akita.jp/sousei/page02.html
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/kinmirai.html
https://www.prodrone.jp/archives/1558
https://www.nict.go.jp/press/2016/04/12-2.html
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