CA1636 – 中国におけるバーチャルレファレンスサービス / 清水扶美子

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カレントアウェアネス
No.293 2007年9月20日

 

CA1636

 

中国におけるバーチャルレファレンスサービス

 

 中国ではインターネットの利用者が年々増加している。中国インターネット情報センター(中国互聯網絡信息中心:CNNIC)が発表した『第20次中国互聯網絡発展状況統計報告』(2007年7月18日発表)(1)によると,中国国内のネット市民数は2007年6月末の時点でおよそ1.62億人となっている。2007年1月に発表された前回の同報告(2)では1.37億人であるから,わずか半年で2,500万人も増加していることになる。

 この流れを受けて図書館界でもインターネットを使ったバーチャルレファレンスサービス(以下VRS)を取り入れるところが増えてきている。例えば,公共図書館では,省級図書館(日本の都道府県立図書館にあたる)のうち約71%にあたる22館が,チャット,電子メールやフォーム送信によるレファレンス受付,レファレンスデータベースの作成など,なんらかの形でVRS を行っている(3)。また,大学図書館においては,約13%にあたる90館が,チャットなどによるリアルタイムレファレンスサービスを行っている(4)。本稿では,代表的なものとして,上海市中心図書館知識ナビゲーション合同ネットワークサイト(網上聯合知識導航站;CA1507参照)(5),広東省立中山図書館を中心とする総合レファレンスサービスネットワーク(聯合参考咨詢網;E424 参照)(6)および,2006年5月に立ち上がったばかりの中国国家図書館ウェブレファレンスデスク(網上咨詢台)(7)を紹介する。

 

■上海市中心図書館知識ナビゲーション合同ネットワークサイト(網上聯合知識導航站)

 上海図書館が中心となって作り上げた共同レファレンスサイトで,2001年5月28日よりサービスが開始された。上海市内の公共図書館,大学図書館や関連機関のほか,上海社会科学院,蘇州図書館,無錫図書館,嶺南大学図書館,マカオ中央図書館,シンガポール国立図書館,ニューヨーク市のクイーンズ公共図書館などと協力関係を結んでいる。レファレンスサービス(チャット,フォーム送信)は,これら国内外の図書館員および専門家によって行われ,海外からでも利用が可能である。チャットによるサービスは,9時から11時までおよび14時から16時までの1日計4時間受け付けており,それ以外の時間にレファレンスを申し込みたい場合は,指定のフォームに件名,居住地の省・市,メールアドレスとレファレンスの内容を記入して送信すればよい。回答期限の目安は1,2日となっている。回答済みのレファレンスはデータベース化されており,検索や主題でのブラウジングが可能である。

 

■総合レファレンスサービスネットワーク(聯合参考咨詢網)

 全国文化信息資源共享工程(全国文化情報資源共有プロジェクト)(CA1601参照)の一環として,国内の公共図書館間での共同レファレンスと電子資料の提供を行うサイトである。広東省立中山図書館が管理センターの役割を担っている。チャット,電子メール,携帯電話のショートメッセージサービス,電話によるレファレンスを受け付けており,利用にはあらかじめ利用登録をする必要がある。利用登録は同サイト上でできるものの,国内からのみに限られている。チャットによるレファレンスサービスは,8時から21時まで1日13時間行っており,他と比べて格段に長い。また,時間外のレファレンスには24時間以内に回答をすることになっている。サイトにはレファレンス担当者のリストがあって,誰がオンラインの状態なのかがわかるようになっており,利用者はこのリストから担当者を指名してレファレンスを申し込むこともできる。レファレンスには,電子資料を有効活用しており,参考資料としてPDFファイルを提供している例が多いように見受けられる。回答済みのレファレンスはデータベース化されており,レファレンスの標題もしくは回答館で検索が可能である。

 

■中国国家図書館ウェブレファレンスデスク(網上咨詢台)

 2006年5月に開始されたサービスで,チャットとフォーム送信によるVRS を行っている。チャットによるレファレンスサービスは毎週月曜から金曜の9時から11時までおよび14時から16時までで,図書館HPにある「網上咨詢台」のページからログインしてレファレンスを申し込むことができる。時間外のレファレンスは,登録利用者に限りホームページ上から申し込むことができ,回答期限は2業務日以内となっている。同館のホームページによると,サービスが開始された2006年5月29日から同年6月30日までの最初の1か月で,チャットによるレファレンスが919回,フォームを利用してのレファレンスが265回と好評を博している模様である(8)

 このほかにも,国家科学技術図書文献センター(科技図書文献中心:NSTL)(9),中国科学院国家科学図書館(CSDL)(10)や各大学図書館などでも,規模やレベルは様々ではあるがVRS がすでに始まっている。今後も,広範囲をカバーするVRS システムの増加,図書館等による無料パソコン教室やインターネット端末の無料提供など,よりよい環境作りを通じた利用の拡大が期待される。

 

関西館アジア情報課:清水扶美子(しみず ふみこ)

 

清水扶美子. 中国におけるバーチャルレファレンスサービス. (CA1636)注釈

 


清水扶美子. 中国におけるバーチャルレファレンスサービス. カレントアウェアネス. (293), 2007, p.6-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1636