CA1591 - 図書館のガラス建築化とその思想 / 笹本直裕

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カレントアウェアネス
No.288 2006年6月20日

 

CA1591

 

図書館のガラス建築化とその思想

 

 

 書物の価値そのものがデジタル・メディアの台頭により再考されつつある今日,大型の図書館が日本を含め世界各地につくられ,その多くがガラスに覆われている。

 「さまざまなメディアを収集・蓄積しそれらを整理・保存して利用者に提供する」,この実用的かつ明確な目的を有する図書館がガラス建築化という変化を享受し,今尚その変化の途上にあることは,この必然的に図書館に内在する目的への建築家のアプローチ,建設テクノロジーの発展,保存されるメディアの形態とそれを扱う人々(管理者と利用者)の利用形態が大きく変化している過渡期にあるからといえるだろう。

 

図書館の変遷

 歴史を振り返ると,図書館をめぐり変革が起こるという状況は今日が初めてでないことがみてとれる。

 中世(12世紀以降)には,中国からシルクロードを通してヨーロッパへと拡まった製紙技術と印刷技術の開発により,長期保存に向かない植物性繊維からつくられたパピルスや羊皮紙に写された写本に比べ,飛躍的に生産性が伸び,大量に同一の書物が作成された。利用者が一部の特権階級に限られていた時代から広く庶民にも利用される時代へと移行し,王族や貴族,聖職者や法律家のための図書館の他にも大学図書館,都市図書館,地方図書館が充実し,館内にはストールシステム(開架書架と個人閲覧席が組み合わさった形態)が設けられるようになる。

 近代,特に19世紀においては,産業革命を経て工業化や教育水準の向上による知識人の大幅な増加が近代的な図書館が形成される背景となる。当時の図書館に共通する特徴は閲覧,収蔵・保存,事務・管理の分離にあった。一方で米国では独自の図書館建築の発展が遂げられることとなる。利用者が迅速かつ簡単に必要な資料にアクセスするには機能を分離していては困難であることから,オープンプランシステムがとられるようになる。すなわち,図書はテーマごとに配列,規模が整理され複数の機能の混合が図られた。分野ごとに閲覧ゾーンが設けられていたり,書架の近くで簡単な閲覧が可能であったりすることで利用者の情報への最大限のアクセスを保障しようとするものであった。このような発展に一役を担ったのが連続する大空間をつくりだすことを可能とする柱・梁によるグリッドを用いた建設技術,コンクリート工法の発達であったといえる。米国における公共図書館建築の発展は20世紀に入りヨーロッパ諸国,世界各地で模倣されるようになるまでに至る。

 人間が知の集積,保存をはじめてから長らくの間,図書館はモノの多さを誇り,ヴォリュームを象徴としてきた。

 

開かれたメディアとして

 現代では,図書館に訪れることなくオンラインによって膨大な情報にアクセスすることが可能な環境が整ったといえるが,目を見張るような大型図書館が各地につくられてきている。

 なかでも,オランダ人建築家レム・コールハース(Rem Koolhaas)によるシアトル中央図書館(2004年)は目を奪われる存在である。地下駐車場から上るにしたがってストア,ミーティング・スペース,ブック・スパイラル(らせん状につながった4層に渡る開架書架),管理と大きく5つの機能に分けられた11層のフロアで構成されており,丸ごとガラスに包まれている。機能の間には児童図書室,図書館業務,情報伝達,イベントホール,娯楽施設などが挿入され,コミュニケーションの場が組織されている。またコンピュータが400台設置され,50種以上のデータベース等が利用できるほか,無線LANにより館内のどこからでもオンライン・アクセスできる。蔵書にはRFIDタグが貼付されており,貸出手続きの自動化,複数本の一括貸出手続き,返却資料の配架場所ごとの分別や並べ替えの自動化,資料の亡失防止等の機能を有する管理システムが導入されている(E207参照)。設計者は「私たちの野心は,新旧含めニュー・メディアのあらゆる形式が平等に分かりやすく提示されているインフォメーション・ストアとして図書館を再定義することにある」「すべてのメディアの同時性,そしてそのコンテンツの管理人の職務が図書館に活力を与えるだろう」と述べている(1)

 日本においては,伊東豊雄によるせんだいメディアテーク(2000年)に同質な部分があるといえる。芸術,図書,映像,ワークショップなどが複合された新たなプログラムを持つ提案であり,異なるメディアを積層させながらも垂直に伸びたチューブによって根茎のように相互浸透の誘発を目指し,正面をガラス張りにすることで街のシンボルであるけやき並木にも浸透している。

 これらの建築にいえることは,施設が都市から浮いて特権的かつ閉ざされた情報の蓄積になるのではなく,利用者が都市を情報探索しながら渡り歩いていくなかで,書物を含む諸々のメディアを提供する中心的な役割を果たすことを狙ってつくられているところにある。

 かつては公共性の乏しかった大学図書館ではどうであろうか。スイスの建築家ユニット,ヘルツォーク&ド・ムーロン(Herzog & de Meuron)によるブランデンブルグ工科大学情報伝達メディアセンター(2004年)とオランダ人建築家ヴィール・アレッツ(WielArets)のユトレヒト大学図書館(2005年)がガラスを用いた特徴的な外皮をもつ。前者はさまざまな言語と書体でテキストが,後者は柳の茎模様がシルクスクリーンプリント(機能的には日よけ効果をもつ)されたガラスで覆われている。建築的課題は異なるとはいえ両者は読書や学習に専心できる空間だけでなく,人と出会い,人と向き合うことを選択できる開かれた空間をもつという点で共通している。

 ガラスを用いて,読書と学習,研究に専念するための閑静な場としての演出をより強固に行っている図書館の代表例に,フランス人建築家ドミニク・ペロー(Dominique Perrault)によるフランス国立図書館(1995年),日本においては陶器二三雄の国立国会図書館関西館(2002年)が挙げられる。

 フランス国立図書館は,公共広場の上空四隅を開かれた四冊の本が囲むかのごとくガラスのタワーを配置した構成をもつ。知の量を誇り巨大な重量感が象徴であった時代から,開かれた情報と都市に残された公共性が象徴となる節目となった図書館建築であり,ガラス建築化の第一歩となった。優れた空間の質をもつ「国立」という名に恥じない図書館といえる。

 国立国会図書館関西館の根幹は静けさとシンプルさの演出にあり,文脈の薄い開発の途上にある場所にたつ。人工的なニュータウンでは巨大な施設もつくられているが,この図書館は反対に建物全体の七割にも届こうかというほどのヴォリュームを地下に隠している。建築史・建築批評家の五十嵐太郎は,これを情報化の時代においてモノが物理的な実体をもたないというデジタル・アーカイブの隠喩としても解釈している。抽象度の高い透明建築というだけではなく,緑のランドスケープや質感のあるテクスチャーの効果もあって,落ち着いた佇まいで自然豊かな周辺環境に溶け込んでいると述べている。

 かつてのマッスやヴォリュームを誇った象徴性は失われつつあり,代わって図書館は開かれた情報と物理的な実体をもたない情報の集積を象徴する場として透明化を図るようになった。書物を囲む厚いヴェールを脱ぎ捨て,都市のなかに書物を含む諸々のメディアが置かれていることを表現するのにガラス建築化は有効であるといえる。

 今まで挙げた例の他にも多くの透明化を図る新たな図書館は世界各地に次々とつくられている。かつて造本技術や写本が門外不出であり図書館に定着していた時代から,同一の本が大量に生み出され流通するようになることで書物と図書館を繋いだ鎖は断ち切られた。そして流通する量と速さは絶え間なく大きくなり続け,今日ではデジタル・メディアの普及により本と情報を繋ぐ鎖さえも解き放たれた。

 情報はオンラインによって時間と場所を超えて行き交い始める。そのなかで,誰もが利用できる公共施設としての図書館は「開く」というベクトルを持ち続けてきたように思え,それが建設技術の発達に伴い透明化という意味ではかなりの水準まできたといえるだろう。人々は都市のなかで情報探索,フィールドワークの一端を図書館で行使し必要な情報やその組み合わせ,異なるメディア間から抽出された生きた情報を求めるようになる。図書館には都市の確固たるランドマークであることと,社会に溶け込み輪郭を無くすことの両面性が必要とされるのである。このようなある種矛盾を含んだ状況下で,図書館はガラス建築化という傾向をもちつつも大きく変化している途上にあるといえる。

東北大学大学院工学研究科:笹本直裕(ささもと なおひろ)

 

(1) Ramus Joshua. “SEATTLE CENTRAL LIBRARY”. GA 現代建築シリーズ 03 LIBRARY. 東京, エーディーエー・エディタ・トーキョー, 2006, 311,313p.

 

Ref.

植松貞夫. “移り行く図書館像”. SD 本と人のための空間 図書館建築の新しい風, (別冊31), 1998, 鹿島出版会, 4-16.

特集: ライブラリー. Detail Japan. 1(2), 2005, 1-128.

 


笹本直裕. 図書館のガラス建築化とその思想. カレントアウェアネス. 2006, (288), p.2-3.
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