CA1584 – ウェブによる図書館の情報発信:コンテンツ・マネジメント・システムの活用 / 上田貴雪

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カレントアウェアネス
No.287 2006.03.20

 

CA1584

 

ウェブによる図書館の情報発信:コンテンツ・マネジメント・システムの活用

 

最近,猫も杓子もウェブですが?

 インターネットの急激な普及に伴い,情報発信の手段としてウェブサイトを活用する機関は増加する一方である。図書館の世界においては,利用案内や新着資料をRSS(CA1565参照)で発信するほか,OPACに電子資料の閲覧にレファレンスに複写申込みまで,あれもこれもウェブサイトで提供できるようになりつつある。

 ウェブサイトで情報を提供することにより,利用者は「いつでも」「図書館に出向くことなく」図書館が保有する各種情報を入手することが可能となる。従来からの来館利用サービスに加えてウェブサイトからの情報提供も今後ますます重要になることは,今さら筆者などが言うまでもないことであろう。

 

とはいえ,ウェブサイトを作るのは大変・・・

 情報提供の手段としてウェブサイトを作成する場合,まず思いつくのはHTMLでウェブページを作成する方法であるが,残念ながらHTMLだけですべて解決,というわけにはいかないのが現実である。その理由としては以下のような点が考えられる。

(1)全員がHTMLを書けるわけではない:

 HTMLは,文字・画像をどのようにブラウザ上で表示させるかをコンピュータに指示する言語である。表示のさせ方は< a >(ハイパーリンクを張る)や< table >(表を描く)といった複雑な記号の組み合わせにより表現されるため,苦手とする人も当然ながらかなり存在する。

(2)HTMLだけですべての情報を表示させるのは難しい:

 HTMLには,ウェブページで表示させたい情報をすべて書き込む必要があるが,幅広く膨大な情報を提供しようとすると,すべてをHTMLで作成していては膨大な時間と労力を費やしてしまう。テキストエディタやホームページ作成ソフトを使えばHTMLファイル自体は効率的に作成できるが,その場合でも(3)に述べる課題が残ってしまう。

 また,レファレンスや複写申込のように利用者が何らかのデータを入力・送信する必要のあるウェブページはHTMLだけでは作成できない。

(3)HTMLファイルを作れば完成,とはいかない:

 コンテンツを作成する以外にもウェブサイト管理者が行うべき作業がある。まず,複数のHTMLファイルを作成した場合,関連するファイルをハイパーリンクでつなぐ作業が(ほぼ確実に)必要である。一つひとつリンク先のURLを書き込んで,ブラウザで確認して,あ,間違えた…を何度も繰り返すのは大変な手間である。また,HTMLファイルが完成しても,最後にこれをサーバにアップロードするという作業が残っている。従って,コンテンツ作成,即ウェブサイトに反映,というわけにはいかず,情報発信の即時性にも影響しかねない。

 もしHTMLをコンピュータが自動的に作成し,登録・更新してくれる仕組みがあれば,ウェブサイト管理者は,ウェブサイトに掲載したい情報を考えてコンピュータに入力するだけでよくなる。HTML作成にかかる時間と労力は大幅に削減でき,なおかつ,HTMLを苦手とする人でも簡単に情報を掲載することができるであろう。

 HTML作成にかかる時間と労力を大幅に削減できるシステムとして最近注目されているのが,コンテンツ・マネジメント・システム(Content Management System:CMS)と呼ばれているものである。

 

CMSって何ですか?

 辞書を引くと,CMSとは「Webログ,サイトや企業情報ポータルを,手軽に構築するための総合支援ソフト」であるとされている(1)

 LAMP(2)などを用いてCMSを自作することも可能であるが,商用,フリーウェアのシステムも多数公開されており,広く使われているものには例えばXOOPS,Movable Type,Nucleusなどがある。

 CMSは,概ね以下のような機能を持っている。

  • ウェブサイトで提供したい情報をコンピュータに登録すると,コンピュータがその情報を見せるためのHTMLを自動的に作成し,ハイパーリンクの生成,サーバへのアップロードも行ってくれる。情報の登録はワープロを打つ要領で文章を入力したり,ガイダンスに従って処理を選択する程度で簡単に行える(図参照)。
  • また,登録した情報の見せ方(ウェブサイト上の表示レイアウト,デザイン)を簡単に調整できる。
  • コンピュータに登録した情報は,データベースに投入され,容易に管理することができる。(Wiki(CA1510参照)のように,コンテンツごとにファイルを作成して管理するものもある)

 

図 HTMLとCMSの情報登録作業
図 HTMLとCMSの情報登録作業

 

どんな風に使っているの?

 CMSを導入しているウェブサイトは,新聞社,オンラインストアなど大量の情報を随時発信しているところに多く見られるほか,ウェブサイト作成にあたり特別な技術や知識を必ずしも必要としないことや更新の手間が少なくて済むことから,個人が運営するブログなどにも活用されている。

 図書館について見ると,海外ではいくつもの図書館のウェブサイトで導入されているようである(3)。日本でも,例えば京都大学図書館機構(4),鹿児島大学附属図書館(5)のウェブサイトなどがCMSを利用したウェブサイトとして挙げられる。

 CMS導入の経過を文献によって知ることができる事例をひとつ挙げておくと,米国・ニューヨークのストーニー・ブルック(Stony Brook)大学の健康科学センター図書館(Health Sciences Center Library)では,健康情報をより即時的かつ的確に提供すべく(図書館が医療,健康に関する情報をウェブサイトで発信する事例はCA1536CA1587など参照),CMSを用いたウェブサービスを作成している(6)

 健康科学センター図書館では,オンラインで閲覧可能な資料(電子ジャーナルなど)のリンク集をウェブサイト上で提供しているが,従来は資料へのハイパーリンクの張り替え,サーバ管理者へのリンク許可依頼,OPACの情報の更新,といった作業が手作業で行われていたという。CMS導入後は,新たに閲覧できるようになった資料をデータベースに登録すると,自動的にプロキシサーバとOPACにデータが送られて更新されるようになり,担当者の作業量が削減された。

 また,チャットレファレンスサービス,職員向けヘルプデスクにもシステムを導入し業務の効率化を図っているほか,主題専門図書館員に管理権限を与え,図書館員が随時ウェブサイトの情報を更新できるようにしている。

 

結局,CMSは「使える」のでしょうか?

 CMSの導入の段階では,LAMP環境の各要素について幾分知識が必要となる場合もあるが,先の例からも窺えるように,導入したのちは殆どの作業がウェブブラウザ上でのテキスト入力やガイダンスに沿った選択といったウェブサイト閲覧時と同程度の操作のみで済むため,コンテンツの管理はすべてHTMLで作成する場合と比べると相当程度簡素化される。

 このようなシステムを活用する事例は国内外を問わず確実に増えつつあり,今後もますます普及していくことは確実であろう。図書館サービスにおいてウェブサイトを使用する際には,是非とも選択肢に加えておく必要があると思われる。

関西館事業部図書館協力課:上田貴雪(うえだ たかゆき)

 

(1) 2005-’06最新パソコン用語辞典. 東京, 技術評論社, 2004, 82. ; “CMS(content management system)”. @IT情報マネジメント用語辞典. (online), available from < http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/contentmanagement.html >, (accessed 2006-01-23).

(2) LAMPとは,Linux(OS),Apache(ウェブサーバ),MySQL(データベース),PHP・Python・Perl(「P」で始まるプログラミング言語)の頭文字をとった略語で,ウェブアプリケーションを構築する環境のことを指す。これらはすべてオープンソースであり,無償での利用も可能であることも注目を集める要因であろう。

(3) 特に,ウェブログ形式でニュースを発信する図書館のウェブサイトが多く見受けられる。 ”Organizational Weblogs”. Open Directory. (online), available from < http://www.dmoz.org/Reference/Libraries/Library_and_Information_Science/Weblogs/Organizational_Weblogs/ >, (accessed 2006-02-16).

(4) 京都大学図書館機構. (オンライン), 入手先< http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/ >, (参照2006-02-16).

(5) 鹿児島大学附属図書館. (オンライン), 入手先< http://www.lib.kagoshima-u.ac.jp/ >, (参照2006-02-16).

(6) Stony Brook University: Health Sciences Center Library. (online), available from < http://www.hsclib.sunysb.edu/ >, (accessed 2006-01-24).

 

Ref.

White, Andrew et al. Using LAMP applications to make our library shine. Computers in Libraries. 25(5), 2005, 6-8,53-56.

Winters, Jonah. What is A Content Management System? Bahai Library Online. (online), available from < http://bahai-library.com/?file=winters_what_is_cms >, (accessed 2006-01-25).

XOOPS Cube 公式サイト. (オンライン), 入手先< http://jp.xoops.org/ >, (参照2006-02-08).

Movable Type. (オンライン), 入手先< http://www.sixapart.jp/movabletype/index.html >, (参照2006-02-08).

Nucleus CMS Japan. (オンライン), 入手先< http://japan.nucleuscms.org/ >, (参照2006-02-08).

 


上田貴雪. ウェブによる図書館の情報発信:コンテンツ・マネジメント・システムの活用. カレントアウェアネス. (287), 2006, 6-8.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/current/no287/CA1584.html