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カレントアウェアネス
No.280 2004.06.20
CA1524
電子資料の共同購入−ニュージーランドのナショナルサイトライセンスEPIC−
ニュージーランドの図書館が共同で電子資料を購入し,すべての国民に提供する,という事業EPIC(Electronic Purchasing in Collaboration 旧称PER:NA Purchasing Electronic Resources : a National Approach)が2004年3月始まった。参加できる図書館は,大学図書館などの研究図書館だけでなく,学校図書館や公共図書館,企業図書館のほか情報関連機関など,多岐にわたる。すべての図書館に役立つ電子資料を調査の上,選定し,パッケージ化することで,参加図書館はパッケージ化された電子資料すべてを利用することができる。各図書館は,規模等を考慮して設定された価格表に基づいて,費用を分担する。内容面では,伝記や参考図書,郷土資料が充実している。
EPICは,国立図書館戦略諮問委員会(Te Puna Strategic Advisory Committee)が国立図書館の支援部門(Te Puna Support)に電子資料購入コンソーシアムを計画するよう勧告したことに端を発する。国立図書館(National Library of New Zealand:Te Puna Matauranga o Aotearoa)と各種図書館関係者で構成されるこの委員会は,国立図書館が提供するサービスの方針や基準を勧告し,また,国立図書館とニュージーランドの図書館界とをつなぐ役割を果たしてきた。当初,電子資料を目録化する際の書誌事項や所蔵に関する記述の問題について議論があったところへ,2001年ごろからは,ナショナルサイトライセンスへの関心も議題にのぼるようになった。
これを受けて,2002年,委員会は国立図書館に対して,各図書館のコンソーシアムへの関心,資金調達の可能性,必要な電子資料についてのアンケート調査を命じた。回答率は42%で,1館を除いては自己資金によるコンソーシアムへの参加に興味があることがわかった。この結果を受け,資料を選定する評価委員会と導入モデルを検討する管理委員会が立ち上げられた。
計画をすすめるため,国立図書館は,費用効果があり,信頼ができ,使いやすい電子資料を少なくとも2種類提供できる館種横断型の図書館コンソーシアムを立ち上げる6か月間のプロジェクト費用を措置することにした。
評価委員会は調査結果にもとづいて,多くの図書館の希望を満たす初期導入電子資料として,次の主題を選んだ。
- ニュージーランドの新聞
- 一般/ビジネス, 健康(消費者の側から見た)
- 一般参考図書(辞書, 百科事典など)
- 一般科学
これに基づき,EBSCOとGaleのデータベースを導入することにし,何万件もの伝記,ニュースサービス,写真,図なども含めたフルテキストが約16,000タイトル利用可能となった。ニュージーランドの郷土資料,新聞,雑誌や伝記,参考図書が豊富な点で際立っている。ほかに,参考書誌,企業情報,健康・医学雑誌,歴史,文学,論争,女性学,学術雑誌などの電子資料が用意されている。なお,EBSCOの提供する資料には利用者数の制限はない。Galeは,各データベースにつき同時アクセス20人という制限がある。ユーザー認証は,図書館またはベンダーの管理により,IPアドレス方式でもID・パスワード方式でもどちらでも良い。
費用負担の原案は,各種図書館の代表からなるPER:NA実行委員会(The PER:NA Steering Committee)のサブチームが作成した。館種や規模に応じて,公正で,受け入れ易く,小規模図書館にも魅力的で,加盟館になることによる利益があり,価格体系がわかりやすいこと,PER:NAの管理費用も含むことを原則とした。
図書館はコンソーシアムに参加しなくても,国立図書館のウェブサイトを通じて電子資料を利用できるが,コンソーシアムに参加した場合より,利用できる資料の範囲に制限がある。各図書館は,国立図書館と共同購入することにより,国民ひとりひとりにきめの細かいサービスを提供するという意義ある活動に貢献し,知的社会に役に立つ機関であることを示すことができる。コンソーシアムに参加すれば,すべての資料にアクセスでき,契約の範囲内で各図書館の利用者のニーズに応じたカスタマイズができ,カレントアウェアネスサービスに利用したり,目録に取り込んだりできる。また,ベンダーから必要な研修,技術的サポートなどを受けることができる。学校図書館については,教育省が1年目の費用負担をするため,すべての学校で費用負担なしに電子資料が利用できる。提供予定の電子資料は,パッケージとなっており,一部の資料のみの利用権利を負担する,といった形での参加はできない。ただし,利用可能な電子資料を図書館が利用者に提供しないことはできる。
国立図書館は,ベンダーやコンソーシアムに参加している図書館との契約を処理する役割を果たしている。しばらくは,EPICの運営に協力する予定である。
コンソーシアムメンバーの共同負担により,あらゆる館種の図書館が,委員会が選定した豊富な電子資料をすべて利用できる,ということにより,国民ひとりひとりの電子情報へのアクセスを確保しようというニュージーランドの取り組みは,興味深い。予備調査の段階では,学校図書館など小規模な図書館では,希望するコンテンツをアンケートに記入する以前に,電子資料に対する知識や情報が乏しいといった図書館もあった。また,電子情報を提供するためのホームページをもたない図書館もあった。そういった図書館も含めて,電子資料に関する情報の提供や紹介といった活動を行いながら,全国規模での電子資料の共同購入という事業を調査・企画し,2002年の予備調査から短期間で実現させた実行力と熱意は敬服に値する。国民の知的活動の向上に寄与したニュージーランドの国立図書館および図書館関係者の活動に学ぶべき点は多い。
この度,名称を改めて実行段階に移ったEPICのウェブサイトは,衣替えされた。各図書館が組織内やマスコミに広報するためのノウハウ,資料をダウンロードできるページが用意され,ポスター,ロゴマークなども取得できる。今後の発展および活動に注目したい。
関西館資料部文献提供課:柴田 容子(しばたようこ)
Ref.
EPIC. EPIC-Electronic Purchasing In Collaboration. (online), available from < http://www.epic.org.nz/nl/epic.html>, (accessed 2004-05-11).
PER:NA. EPIC – Electronic Purchasing In Collaboration. (online), available from < http://www.perna.org.nz/nl/perna.html>,(accessed 2004 -04-23).
Te Puna Strategic Advisory Committee. (online), available from < http://subscribers.natlib.govt.nz/contact/advisory.htm>, (accessed 2004-04-15).
National Library of New Zealand. “A digital strategy for the National Library of New Zealand (December 2003)”. (online), available from < http://www.natlib.govt.nz/en/whatsnew/4digitalstrategy.html>, (accessed 2004-04-17).
石附実ほか編. オーストラリア・ニュージーランドの教育. 東京, 東信堂, 2001, 247p.
柴田容子. 電子資料の共同購入−ニュージーランドのナショナルサイトライセンスEPIC−. カレントアウェアネス. 2004, (280), p.6-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1524