カレントアウェアネス
No.266 2001.10.20
CA1428
Webの情報を学生はどう利用しているか―学校が期待するものとのギャップ―
レポートなどのために学生がWebの情報を使うようになってきている。しかし,それは,果たして学校側が期待しているようなものだろうか。グライムズ(D.J. Grimes)氏とボーニング(C.H. Boening)氏の調査は,この問題について興味深い示唆を与えてくれる。調査が明らかにしようとしたことは,学生はWebの情報を評価したうえで利用しているか,学生は典拠不明で信頼性の低いWebの情報を利用しているか,教員が学生に期待しているものと学生が実際に行っているWeb情報の利用との間にギャップがあるか,という3点である。
米国のあるコミュニティカレッジの教員と,彼らの担当する二つの作文のクラスの学生(いずれも1年生25人)に対して面接調査が行われた。第1のクラスでは,ある人物についてのレポートが課題として出され,第2のクラスでは,現在,論争になっていること(銃規制や妊娠中絶など)についてのレポートが課題であった。提出されたレポートの引用文献も分析されている。
各クラスの教員へのインタビュー結果は,次のようなものであった。第1のクラスの教員は,学生にWeb情報の利用を認めてはいるものの,自分自身はWebについては素人であると述べている。Web情報については,その引用形式を指導するのみであった。また,学生が課題を行うにあたって,「よい」情報をWebから得ることはまったく期待していなかった。そして,提出されたレポートを見て,Web情報に従来の文献調査とは異なった著者や資料が多く含まれていることに驚いている。この教員は図書館にあるような図書や雑誌やレファレンス資料とインターネットの情報とが質的に異なることを想定していない。それどころか,キャンパスにある図書館が書誌情報のオンラインデータベースを提供していることを知らなかった。
第2のクラスの教員は,インターネットを使うことに特に熟達していないと明言するとともに,学生がレポート課題でWebの情報を使うことについては条件をつけている。この教員は,学生は図書館で利用できるデータベースを使うべきだと強調している。さらに,学生が質の高いWeb情報を使うことも期待していたが,そのための特別の指導はしていなかった。この教員は,学生のレポートの出来には不満足で,レポートにWebの情報を使うことには否定的な感触を持つようになった。
一方,学生へのインタビューによれば,第1のクラスの学生は,教員からの指示には気をつけていたものの,Webの情報については,Yahoo!などの一般的なサーチエンジンを使うに留まっていた。誰もキャンパスの図書館で書誌データベースが使えることは知らなかった。また,第2のクラスの学生は,教員によるWeb情報の利用に関する指導について,教員がヒントを与えたことは全員が認識していたが,一部の学生は,「自分の責任で,あるいは,信頼のおけるものを選ぶようにとは言われたが,特別な指導はなかった」と受けとめていた。双方のクラスとも図書館の電子情報源の利用についてガイダンスは受けていなかった。そして,質は考えずに,インターネットの情報源の方が「探しやすい」と考えている。
結局,学生はWebの情報を正しく評価できない状態に置かれ,図書館の支援も受けていない。そのため,信頼性の低いものも利用しており,教員が期待しているものからずれた利用を行っているのが実態ということになる。しかし,この調査が示している重要な課題は,教員が指導できるだけの知識を持っているか,教員と図書館とが連携できているか,ということだろう。日本の学校におけるインターネット利用の調査でも,情報受信時の問題点として,情報の取捨選択の困難さや信頼性への不安などが挙げられている。教室と図書館とが総合的に教育を行っていく必要性が見えてこないだろうか。
目黒区立大橋図書館:山重 壮一(やましげそういち)
Ref: Grimes, D.J. et al. Worries with the Web: a look at student use of Web resources. Coll Res Libr 62(1) 11-23, 2001
越桐國雄 日本のインターネット教育利用の展開 大阪教育大学紀要第V部門 49 369-380,2001