CA1426 – LIBER「ライセンス契約の原則」 / 山本健太郎

カレントアウェアネス
No.266 2001.10.20


CA1426

LIBER「ライセンス契約の原則」

学術雑誌の価格は高騰する傾向にあり,図書館では,資料費の削減もあって,雑誌の購読打切りを強いられている。購読部数が減ると,出版者は価格を引き上げざるをえず,購読がますます減る,という悪循環が生じている。電子化がこれに対する打開策として期待されたが,電子ジャーナルは冊子体より必ずしも安いわけではなく,なかには冊子体を購入した者が電子媒体も付随して利用できるという場合もあり,冊子体の代わりになるわけではない。そこで,いくつかの図書館によって構成されるコンソーシアムが,電子ジャーナルを購入し,コンソーシアム内で共同利用するという形がとられるようになった。図書館は安価に電子情報を入手し,提供でき,出版者も購読者を確保できるため,双方にメリットがあるかのように見えた。しかし実際には,課金の基準や利用者の範囲などについて問題が生じており,電子情報のライセンス契約の在り方について,模索が続いている段階である。

欧州研究図書館連合(LIBER: Ligue des Bibliotheques Europeennes de Recherche)が1999年7月に決定した「ライセンス契約の原則(Licensing Principles)」は,この課題に対するガイドラインとなるものである。もともと,1997年にオランダのUKB(オランダ大学・王立・王立科学アカデミー図書館協会)とドイツのGBV(北部・中部ドイツ研究・大学図書館協会)が電子ジャーナルへのアクセスとライセンス契約についての基本原則を決定していた。これは国際図書館コンソーシアム連合(ICOLC: International Coalition of Library Consortia)のライセンス契約の原則の基礎にもなった。LIBERの「ライセンス契約の原則」も,このオランダとドイツの原則をもとに決定されたものである。

「ライセンス契約の原則」では,現状について,雑誌数の増加と価格の上昇を「雑誌の危機」と捉える一方で,インターネットを通じて電子情報にアクセスできるようになったことは学術情報の流通にとって好ましい,という認識が示されている。問題点として,出版者が電子情報へのアクセスや利用,保存について制限を設ける場合や,図書館が紙媒体について認められていた著作権法上の権利が電子情報では認められない場合があることなどを挙げている。

そして,世界知的所有権機関(WIPO)著作権条約に謳われている「著作者の権利と,特に教育,研究,情報へのアクセスといったより大きな公共の利益との間のバランスを維持する必要性」が確認されているとともに,電子時代の学術情報の普及と電子情報の長期的な利用環境の整備のために出版者と図書館は協力すべきであると述べられている。

具体的な原則としては以下のようなことが書かれている。

  • コンソーシアムは,学術情報を電子形態で入手するためのライセンス契約を出版者と結ぶ。
  • 学生,教員,助手,その他の登録した利用者はどこからでもアクセス,利用できる。
  • 利用については,公正利用(フェアユース)が保証されるべきである。著作権法の範囲内において,商用目的ではない教育や研究のための,利用者による制限のない閲覧,ダウンロード,印刷,図書館相互貸借のための印刷,ファックス,電子メールの送信が許されるべきである。一度料金を払った情報に対しては,ファイルのコピーの保管と使用が永続的にできるようにするべきである。
  • 図書館が自館の情報システムにデータを取り込むことを制限するべきではない。
  • 冊子体を購読している場合は,電子形態は追加料金なしに提供されるべきである。電子媒体のみを購読する場合は,価格は冊子体の80%を超えてはならない。あまり使われない雑誌記事については,一定数の記事を定額で購入する方式や,閲覧した都度払う方式(ペイパービュー方式)が検討されうる。
  • 個々の図書館がコレクション改善のため,利用状況の把握と管理運営情報の入手ができるよう保証する必要がある。

この原則のもとになったオランダとドイツの原則を起案したヘレインセ(H. Geleijnse)氏は,「大学図書館は出版者とのライセンス契約の問題だけにとらわれすぎず,大学の研究者が情報の単なる消費者ではなく発信者でもあることを自覚し,その活動や国際交流を支援していくべきだ」と述べている。情報の在り方が激変するなか,図書館は期待されている役割を考えながら,電子情報の提供にあたっての様々な問題に取り組んでいく必要があろう。

なお,今年3月には国際図書館連盟(IFLA)からライセンス契約のガイドラインが発表されている(CA1416参照)。内容的には,LIBERの原則と趣旨を同じくするものである。

山本 健太郎(やまもとけんたろう)

Ref: LIBER Licensing Principles for electronic information. IFLA J 27(2) 113-115, 2001
Geleijnse, H. Licensing principles, consortia and practical experiences. LIBER Q  9(4) 402-412, 1999
尾城孝一 電子ジャーナルの導入とサービス 薬学図書館 44 217―226,1999