CA1416 – IFLAライセンス契約ガイドライン / 菅原康栄

カレントアウェアネス
No.265 2001.09.20


CA1416

IFLAライセンス契約ガイドライン

電子メディアの発展・普及にともない,図書館の資料購入方法も変わりつつある。電子メディアの資料の利用は,多くの場合,従来のような所有権の売買ではなく,アクセスについての利用許諾(ライセンス)を得ることによって可能となる。ライセンスとは,電子情報を利用者に提供しようとする図書館と,その情報についての権利を有し,それを図書館市場で利用させようとするプロバイダとによる合意である。図書館は,電子情報を提供するプロバイダ(出版者または販売者)との間でライセンス契約を締結し,情報へのアクセス権を確保する。そして利用者は,図書館のサイトではなくプロバイダのサイトを経由して電子情報へアクセスすることになる。

ライセンスの条件の決定には市場の原理が働いている。したがって,必ずしも著作権法の範囲内に限定されずに,館種や規模の異なる図書館またはコンソーシアムとプロバイダとの間の複雑な契約関係にも対応することができる。

今年3月,国際図書館連盟(IFLA)は図書館とプロバイダとの間の契約関係および書面契約についての基本的なガイドラインを示した。その内容は以下のようなものである。

まず,ライセンス契約は著作権,プライバシー,知的自由の保護といった公的な利益を肯定するものであることを要する。著作権法に包含されるような著作活動の活性化と文化的成果の享受とのバランスを保つことは,すべてのライセンス契約にも具現されていなければならないし,利用者のプライバシーはいかなる場合にも保護されなければならない。

次に,トラブルや違法行為を避けるための手段をあらかじめ準備しておくことが必要である。関係する団体双方の要求に配慮して権利と義務のバランスをとることや,重要な条件については特に明確な記述によって定義することが要求される。違法行為を未然に防止するためには,適切なアクセスについて利用者を教育することが大切である。万一トラブルが発生した場合には,それが契約の取消や訴訟に発展する前に合理的な解決方法を提示することが必要となる。

加えて,利用者がアクセスしやすい環境を整備することも不可欠である。ライセンスを得た図書館のすべての利用者に対して,図書館の敷地内でも遠隔地においてもアクセスを提供し,PDFやHTMLといった標準的なフォーマットによってダウンロードできるようにしなければならない。また,個人の私的な目的による閲覧,ダウンロードおよび印刷については制限を課さないことや,ヘルプ等のサービスとともに24時間の利用を可能とすることなどが求められる。その一方で,内容の高度な安定性が保証されていなければならない。そして,プロバイダがこれらの要求を満たせない場合にはペナルティが生じることもあり得る。

また,許諾された情報へは永続的にアクセス可能であることが必要である。図書館は,紙など伝統的なメディアの保管・保存を進めてきたのと同様に,電子メディアについても長期間利用可能な状態で保管・保存し続ける方法を見出さなければならない。ライセンス契約の締結にあたっては,電子情報への長期的なアクセスや,保管・保存の問題についても視野に入れておくべきである。

さらに,ライセンス契約には図書館の業務や費用の負担をなるべく軽減するような措置を盛り込むことが重要である。図書館にとって大きな問題となるのは,電子情報の価格である。近年,電子情報にかかる費用が図書館の予算に占める割合は増加し続けている。価格は,利用を抑制するのではなく促進させるために設定されることが望ましい。例えば,電子メディアの価格を同じ内容の紙メディアよりも低く設定したり,多様な価格モデルの選択を可能にしたりといったインセンティブの提案が期待される。他方,電子版としての独立した価格が提示されるべきである。電子メディアと紙メディアとの抱き合わせのみによる価格設定は,利用縮小の原因となる場合がある。

図書館の負担を軽減するためには,図書館間の相互貸借制度やコンソーシアム形成も有効な手段となる。ライセンス契約には,相互貸借またはこれに相当するサービスについての規定が含まれるべきである。契約を締結している図書館が,契約を締結していない別の図書館に対してライセンスによって得た情報の中から合理的な長さの抜粋を提供することは,許容されてよいだろう。

また,教育機関に対しては,特定の蓄積情報についてリンクやコピーを許可することにより,支援を行わなければならない。教育機関に所属している者に対して,許諾された情報について,どこからでも日常的にアクセスできるようにすることが必要である。

図書館は以上のような点に留意して,適切なライセンス契約の締結によって電子情報資源への効率的かつ長期的なアクセスを確保し,利用者の要求に応えていかなければならない。

ライセンス契約による情報の提供・利用は,1990年代から始まった比較的新しい方法であり,図書館にとっては従来と異なる手続や施策が必要となる面が非常に多い。今後も電子メディアを取り巻く状況は目まぐるしく変化し,アクセスを希望する利用者の数も増加していくことが予想される。図書館員には,情報環境の変化に柔軟に対応して適切なライセンス契約を結ぶための知識や技術を身につけることが求められている今,このように基本的事項を網羅したIFLAガイドラインの持つ意義は決して小さくないといえる。

菅原 康栄(すがはらやすえ)

Ref: IFLA's Committee on Copyright and other Legal Matters (CLM). Licensing principles. [http://www.ifla.org/V/ebpb/copy.htm] (last access 2001. 8. 21)