CA1417 – BLの新幹部人事体制固まる−すべて外部の専門家に!− / 柳与志夫

カレントアウェアネス
No.265 2001.09.20


CA1417

BLの新幹部人事体制固まる―すべて外部の専門家に!―

ブレア政権の教育・文化・情報政策の重視と再編成を受けて,英国図書館(BL)では機能と体制の大幅な見直し・拡充が図られていたが(CA1382参照),それを実施していくための新体制が9月から発足することになった。

まず,BLの最高意思決定機関である理事会の議長に,イートウェル卿(Lord Eatwell)が就任する。卿は世界的に著名な経済学者で,ケンブリッジ大学クィーンズコレッジの学長を勤め,著書は日本語にも翻訳されている。任期は5年である。

さらに,公募されていた4局長を含めて,全面機構改革によって改編・新設された5局長がすべて出揃った。主に従来の人文・社会科学部門と蔵書管理部門を再編した学術・コレクション総局長には,バーミンガム大学図書館長で宗教史学者のフィールド博士(Dr Clive Field)が選ばれた。博士は,1990年に同図書館副館長に任命されて以来,業務・組織の抜本的改革を行い,それが評価されて1995年に同図書館館長に就任していた。また,英国内の研究図書館の連合であるCURL(Consortium of University Research Libraries)の理事長という要職にも就いており,英国の学術図書館界を代表する人物である。なお,同局の下に改編・新設された蔵書構築部長には,BL内部からクランプ(Mike Crump)氏が就き,従来のBL自体の蔵書構築に加えて,全国的な蔵書構築計画の企画調整役を果たすことになっている。

文献供給センター(BLDSC)や本館の来館および遠隔サービスを担当する図書館サービス総局長には,世界的なコンサルティング会社マッキンゼーで主に医療部門の顧客を担当してきたシーニー(Natalie Ceeney)氏が任命された。国民保険サービス庁の管理職の経験もあり,担当したある医療関係会社では同社のシェアを2倍にするなどの実績を上げている。なお,以上の2総局は,それぞれ一千名を超す職員を擁することになる。

今回の機構改革の目玉ともいえる新設の電子戦略・プログラム局長には,電子図書館研究の権威で,ベルギー人のヴァン・ドゥ・ソンペル博士(Dr Herbert Van de Sompel)が決まった。博士は,コーネル大学,国立ロス・アラモス研究所など米国における電子図書館研究の中心的機関に在籍し,多くの成果を上げたが,特に同研究所で始めた「オープンアーカイブイニシアティブ」は有名である。博士の研究開発成果は,米国情報標準化機構(NISO)の規格化検討対象になったり,製品化されたりしたものもある。米国に多少遅れをとっていた英国全体の電子図書館構築を一気に引き上げようとする意図が示されているといえよう。

やはり世界的なコンサルティング会社アーンスト&ヤングの公共部門マーケティング局長であったフィニー(Jill Finney)氏は,戦略マーケティング・コミュニケーション局長を担当する。多くの民間会社での経歴に加え,大英博物館やテート美術館の展示会マーケティングでの業績も評価された。世界マーケティング協会(World Marketing Association)の評議員も勤めており,英国を代表するマーケターの一人といえる。

従来の管理部門のうち,特に財務部門を強化再編した財務・経営資源局長には,英国有数の保険会社ロイヤル・アンド・サンの経営担当役員を務め,1999年からBL財務・企画局長に就任していた財務専門家であるミラー(Ian Millar)氏が横滑りした。同局は,財務,人事等管理運営の他に,行政部門および政治家との連絡調整も担当する。

ブリンドリー館長およびこの新5局長で,BLの実際的な運営を行う経営委員会が構成される。ブリンドリー氏が,昨年7月の館長就任前に比較的短期(1979-85年)にBLに在籍したことを除けば,すべて外部の人材で最高幹部が占められるという,従来内部からの幹部登用が多かったBLとしては,異例のこととなった。

また,機を同じくしてBL関係で二つの重要な外部の人事があった。一つは,歴史文書の専門家で特別コレクション部長であったプラチャスカ博士(Dr Alice Prochaska)が,ハーバード大学,コロンビア大学等と並ぶ米国有数の大学であるイェール大学の図書館長に就任したこと,もう一つは,蔵書内容の豊さではドイツ随一を誇るベルリン国立図書館長にジェフコート(Graham Jefcoate)初期刊本部長が選任されたことである(就任は来年3月)。今後の米国および欧州大陸との関係強化にとって,極めて重要な「ポストを確保」(BL新聞発表)したことになる。

なお,BLが主催し,本年7月初旬にロンドンで開かれた欧州研究図書館連合(LIBER)の年次大会には,局長に就任するフィールド博士やソンペル博士も報告者として出席し,欧州図書館界へのお披露目を果たした模様である。

柳 与志夫(やなぎよしお)

Ref. British Library. Press Release 2001 [http://www.bl.uk/information/pr2001/pr2001.html] (last access 2001. 8. 2)