CA1411 – 米国最高裁,出版社に著者無許諾の電子化の特権を認めず / 越田崇夫

カレントアウェアネス
No.264 2001.08.20


CA1411

米国最高裁,出版社に著者無許諾の電子化の特権を認めず

電子化する社会に著作権制度が追いついていないとはマスコミが好んで使う表現だが,そのマスコミが訴えられて注目されたある著作権訴訟が米国でほぼ終結した。

2001年6月25日,米国の連邦最高裁は,記事の著作権者に断りなく出版物をデータベース化する特権を出版社に認めることはできないとして,ニューヨーク・タイムズ社やレクサス・ネクサス社などに対し,フリーライターへの損害賠償(額は未定)を命じる判決を下した。この訴訟は,1993年に全米著述業組合(National Writers Union : NWU)のタシーニ(Jonathan Tasini)会長らが起こしていたもので,寄稿記事の著者に無断で新聞・雑誌のCD-ROM化やオンラインデータベース化を行った出版社等の行為が著作権侵害に当たるかどうかが争われていた。

一審の連邦地裁は,記事の電子化について出版社が著者から権利移転や許諾を受けていたとは認められないとしながら,出版社等の行為は著作権侵害にはならないと判断していた。その理由は,集合著作物(Collective Works)の著作権者(出版社)に,その素材となった著作物の著作権者の許諾なしに改訂版(revision)を複製・頒布する特権を認める米国著作権法第201条の存在にあった。つまり,新聞・雑誌を電子化したCD-ROMやオンラインデータベースは,もとの新聞・雑誌の「改訂版」に当たると判断したのであった。

しかし,連邦控訴裁は,そのようなデータベースはもはや「改訂版」には当たらないとして原告勝訴の判決を下し,連邦最高裁も今回の判決で控訴裁の判断を支持した。判決は,データベースは利用者に個々の記事を提供しているともいえるし,データベースがその構成要素の「改訂版」でないのはソネット(十四行詩)を引用する400ページの小説がその詩の「改訂版」でないのと同じであって,データベース化をマイクロ化のような単なるメディア変換と同視することはできない,と述べている。

わが国など,同様の特権規定を持たない他の著作権先進国にとってみれば,本判決の結論は著作権関係の原則の再確認とでもいうべきものであるが,しかし,著作物の電子化をめぐって大がかりな訴訟が行われたことの社会的意義は小さくない。本訴訟の提起以来,米国では多くの出版社がフリーライターとの契約に電子出版に関する事項を明示的に盛り込むようになったとのことである。

気がかりなのは,敗訴した出版社の多くが,フリーライターとの使用料交渉に応じるよりは該当記事をデータベースから削除する方針をとっている,と伝えられていることである。出版社にしてみれば,電子出版事業の採算がなお見えにくい状況にあって追加報酬を払う余裕などとてもないということらしい。対象となる記事は,ニューヨーク・タイムズ社の分だけでも20万点以上に上るという。削除が行われれば,仮に記事のタイトル程度はデータベースに残るとしても,それらの記事を見落とす恐れは高まるだろうし,見つけられたとしてもマイクロフィルムや原紙への逆戻りを強いられかねない。また,自館で記事データベースを作成している図書館からも,悲鳴に近い声があがっているとのことである。米国図書館協会と研究図書館協会は,本判決に関して,裁判所が記事の削除以外にも道があると述べていることを強調するコメントを発している。

このように,本判決は大量の著作物の電子化を維持するための著作権処理という問題をクローズアップすることになった。NWUが著作権の集中管理への取組みをアピールする一方で,出版社側には立法による解決を模索する動きもあるという。米国がどのようなルールによってこの問題の解決を図るのか,今後の展開が注目される。

越田 崇夫(こしだたかお)

Ref: New York Times Co. v. Tasini,533 U.S.(2001.6.25) [http://www.supremecourtus.gov/opinions/00pdf/00-201.pdf] (last access 2001. 7. 11)
'Revision' privilege for collective works does not cover republication in databeses. Pat Trademark Copyr J 62 (1530) 186-188, 2001
ALA. ARL and ALA commend the Supreme Court's decision in The New York Times v. Tasini. [http://www.ala.org/news/v7n8/tasini_decision.html] (last access 2001. 7. 11)
梅谷真人 Tasini v. The New York Times, 972 F. Supp. 804 (S.D.N.Y. 1997) アメリカ法 1999 (2) 333-338, 1999
フリーライターに「電子著作権」はないのか 季刊・本とコンピュータ 54-55,1997