カレントアウェアネス
No.237 1999.05.20
CA1253
サイバーモビルとモバイルブックモビル
1998年夏のアメリカ図書館協会年次大会の開催中に,国会議事堂前(Capitol Hill)で,一台のバスが披露され多くの人々の関心を集めた。このバスは端末として7台のコンピュータを積載し,モデムと衛星を利用した通信システムにより,出先のいかなる地点からでもインターネットを利用することができる。称して“サイバーモビル”。インディアナ州のマンシー公共図書館が従来の自動車図書館(BM)を改造して製作したもので,1998年の図書館サービス及び技術法(LSTA)による資金援助と,コンパックやマイクロソフト,Network Solutions Inc.,Ohio Bus Sales等の民間企業の協力を得て実現した。ちなみに,漫画プロダクションPAWS Companyの協力も得られ,バスのボディには猫の人気キャラクター(ガーフィールド)が描かれている。同図書館ではこのサイバーモビルの機動力を活かして要望のある場所に出向き,インターネットを利用する機会の乏しい状況にある人々(子ども,高齢者,少数民族,その他)を対象としたコンピュータやインターネットの学習クラスを開講する予定である。
アメリカでは現在60〜70%の公共図書館が情報サービスの一環として,誰でも利用できるインターネット接続用端末を館内に設置し,インターネット利用の普及を図る一役を担っている。サイバーモビルは主にこうした館内設備を容易に利用できない人々の利用を意図しており,その発想はBMの本来的な使命と合致する。従ってサイバーモビルは,BMから派生したBMの一つの新しい形態ととらえることができよう。
アメリカではすでに,BM業務に衛星や携帯電話,無線等を利用した通信技術が徐々に導入されてきている。オハイオ州のニュアーク公共図書館では,2年前からBMのパソコンと本館のコンピュータシステムをオンライン接続し,貸出・返却業務を行っている。サンフランシスコ公共図書館では2台のBMを本館のシステムと接続しており,予約処理や利用者のためのWeb検索サービスを実施している。時間が許す範囲で利用者自身がネットサーフィンを楽しむこともできる。ニュージャージー州のバーリントンカウンティ公共図書館のBMでも利用者自身によるWeb検索は可能だが,同図書館のサラ・トンプソン(Sarah C. Thompson)は,BMでは時間的制約が大きくなかなか十分な検索はできないとコメントしている。オーストラリアでもクイーンズランド州ヌーサシェアカウンシル公共図書館のBMは,1996年10月からインターネットに接続し,本館や州立図書館の所蔵検索,相互貸借処理,CD-ROMへのリモートアクセスによるレファレンスサービス等を実施している。さらにこうした業務のかたわら,1998年には何か所かのステーションで“beyond the mobile”と称するインターネットリテラシーのためのセッションを実施した。
BMに通信機能を備えることにより,利用者に対して図書館資料の状態(貸出中か否かなど)の照会や,幅広い情報源からの情報サービスが,“その場で即座に”行うことが可能になる。長らく図書(特に“読み物”)の貸出しが主体であったBMのサービスだが,徐々にその姿が変わりつつあるといえよう。この背景には,もちろん通信技術の進歩がある。しかし,数々の制約の中で可能な限り固定施設と同程度のサービスを提供することを志向し,新しい技術があればこれを積極的に導入して一層のサービス拡大を図ろうとする,各図書館のBMに対する積極的な取り組みなくしては実現しえないことである。
アメリカでは現在約900の図書館システムでBMを運行している。本館のシステムやインターネットとオンライン接続しているBMはまだ100程度であるが,図書館員の関心は極めて高い。毎年開催される“Great American Bookmobile Conference”をはじめBMに関する各地の会議で,オンライン化に関する話題が上がっている。オーストラリアでも,昨年3月に“Bookmobiles to Cybermobiles”と題する会議が開催され,前述のヌーサシェアカウンシル公共図書館の事例などが発表された。また昨年のIFLA大会におけるBMのセッションでは“The Electronic Bookmobile and the Internet”と題する発表があり,全てのBMがインターネット等の電子情報にアクセスできるようにすることを目指す特別委員会の設置や行動計画の策定が提言された。さらに,ペンシルベニア州クラリオン大学のCenter for the Study of Rural Librarianshipが主催するBMに関するメーリングリスト“BKMOL-L”には,多数のBM担当者から通信技術等に関する投稿が相次いで寄せられている。今後,サイバーモビルやオンライン業務が可能ないわゆる“モバイルBM”の数は確実に増加することであろう。
BMもその利用者に対して,情報化社会の図書館としての責任や役割を果たしていかなければならないことが改めて実感される。
専修大学経営学部:荻原 幸子(おぎわらさちこ)
Ref: Schneider, Karen G. Internet librarian: the cybermobile: a groovy set of wheels. Am Libr 29 (8) 76, 1998 [http://www.ala.org/alonline/netlib/il998.html] (last access 1999.3.23)
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