カレントアウェアネス
No.250 2000.06.20
CA1328
スイス連邦工業大学図書館の電子図書館プロジェクト
スイス連邦の図書館ネットワークとETHZ
スイス連邦には,各州の大学図書館などを中心とするネットワークシステムが併存するが,1997年に,その中でドイツ語圏に属する五つが「ドイツ語圏スイス情報ネットワーク(Informationsverbund Deutschschweiz: IDS)」を構築した。そして,共同目録作業のためのフォーマットや目録規則などを定め,さらに,共通の図書館システムとして,イスラエルのエクス・リブリス社の開発したALEPH500を各館が採用した。こうして,約200館,計2,000万冊の図書の利用が容易になり,将来は,総合目録事業が展開される計画である。
従来のネットワークは,改称した上でIDSのローカルネットワークとして存続している。その中の一つETHICSはNEBISと改称した。NEBISの中央館の一つが,スイス連邦工業大学チューリッヒ校(ETHZ)図書館である
ETHZ図書館はスイス最大の科学技術系の図書館で,次の二つの機能を担っている。一つは,ローカルな機能,すなわち大学中央図書館として11,700人の学生と約90の付属機関に対し,サービスを提供することである。もう一つは,科学技術系のナショナルセンターとして,他の大学,民間企業や官庁,および一般利用者へのサービスを提供することである。
ETHZ図書館における電子情報関連プロジェクト
ETHZ図書館は,ALEPH500の導入に伴い,NEBISの中央館として,新規プロジェクトNBS(Neues Bibliotheks‐System)を推進し,参加館が統一された画面で複数の目録を同時に検索できるWebOPACを開発した。その他にも,例えば,デジタル図書館プロジェクトは,ETHZ図書館の特殊なコレクション(地図,史料,映像資料など)のデジタル化により,誰もがWeb上で閲覧できることを目指している。さらに,雑誌の目次や抄録,図書の目次や表紙,ETHZの博士論文のデジタル化も進められている。
また,図書館財政の逼迫と雑誌価格の上昇に伴い,電子ジャーナルのサービスが本格的に導入された。ETHZ図書館が中心の「スイス大学図書館コンソーシアム(Konsortium der Schweizer Hochschulbibliotheken)」内では,スプリンガー出版社との契約により,同社提供の約400タイトルのフルテキストが,1999年から自由に利用できるようになった。
「ヴァーチャル図書館(Virtuelle Bibliothek)」では,人文・社会系も含めた各専門分野の様々な情報源が主題別に整理されて,1997年からWeb上で提供されている。有用リンク集や新規購入資料一覧は誰でもアクセスできるが,電子ジャーナルやCD-ROMデータベースなどは関係者のみである。図書館で各主題を担当する主題専門員の連絡先も掲載されている。
ドキュメントデリバリーは,現在は試行段階のようであるが,デルフト工業大学図書館とKNミノルタ社が開発したDocUTransというシステムを導入し,雑誌論文などをスキャナーで読み取り,画像処理システムに一時的に蓄積し,EメールかFAXで送信するというものである。
電子情報関連サービスおよびプロジェクトに関する利用者調査
こうした電子的サービスやプロジェクトについて,最近2種類の利用者調査が行われたので,その結果を簡単に紹介する。
1.学内利用者に対する調査
1998年11月,ETHZの研究者1,000人を対象に質問紙による調査が行われた(回答率44%)。
1)各種電子的情報手段の重要性
ネットサーフィン,サーチエンジンによる検索,主題別検索(「ヴァーチャル図書館」など),Eメールのうちどれを重視するか質問したところ,一番多かった回答はEメール,次いでサーチエンジンによる検索であった。
2)ETHZ図書館の電子的サービスの利用状況
書誌データベース,「ヴァーチャル図書館」,電子ジャーナルの利用について質問したところ,書誌データベースが最も多く利用されていた。また「ヴァーチャル図書館」も一般的に利用されていることがわかった。他方,電子ジャーナルの利用は少なかったが,これは調査の時点でタイトルが限定されていたことが理由として考えられる。しかし,それでも1996-97年の調査と比較すると,電子ジャーナルを頻繁に利用する利用者の割合は10倍に上昇している。
3)紙媒体の雑誌の利用の必要性
「大学全体で,電子ジャーナルが自由に利用できるようになった場合,紙媒体の雑誌は不必要になるか」という質問に対して,回答者の半分以上が,「不必要になる」と答えている。反対は11%であった。
全体として,研究者が電子的サービスを一般的なものとして受けとめており,研究の重要な手段としていることが明らかになった。
2.外部利用者(民間企業)に対する調査
従来,ETHZ図書館は,企業などの外部利用者に対してそれほど積極的にサービスを提供してこなかった。しかし,企業内図書館は廃止・縮小される傾向にあるため,外部利用者サービスのあり方について再検討する必要が生じた。1998年春,スイス全土の民間企業,団体など8,736社を対象に郵送調査が行われた(回答率21.4%)。
1)科学技術情報・文献の必要性
92.2%が必要であるとし,紙媒体については,87.1%が図書,86.7%が雑誌を必要と答え,電子的情報については,48.2%がパッケージ系,45.6%がオンライン系を必要としていると答えた。
2)ETHZ図書館の平均的利用状況
52%が「利用なし」であった。これは,ETHZ図書館が外部利用者サービスについて十分に広報していないことに問題がある。「少なくとも年に1回」が22.8%,「少なくとも月に1回」が15.4%,「週に1回以上」が5.8%であった。大多数の外部利用者は利用頻度が低いので,ETHZ図書館は目録検索などのより適切な援助により,サービスを充実させる必要がある。
3)これまでにETHZ図書館のどのサービスを利用したか
33%は図書・雑誌の郵送利用,22.2%は複写物の郵送利用であった。その他,19.8%はWeb上で公開している電子目録の検索相談であった。
4)ETHZ図書館のサービスに対する満足度
マーケティングの専門書によると,こうした設問では「中位の満足」が選択される傾向にあると指摘されているが,この調査でも8割が「満足」と答えた。
5)ETHZ図書館の電子的サービスへの関心
選択肢に挙げられたプロジェクトは,(1)「ヴァーチャル図書館」(既に実施),(2)ドキュメントデリバリー(試行中),(3)デジタル図書館(一部実施)である。こうした設問には,すべてに関心があるという回答が大奮発されやすいが,3つのプロジェクトに関心があるのは,56-60%にとどまった。セキュリティの問題が解決し,新サービスが完全に導入された場合には,関心がさらに高まると考えられている。
6)ETHZ図書館においてなくては困るサービスはあるか
肯定は9.1%で,なくても困らないとしたのは44.9%,46%は具体的な回答がなかった。
多くの企業はETHZ図書館とそのサービスについてほとんど知らないことが浮き彫りになっている。しかし,このアンケートをきっかけに,数多くの企業が新規登録を行った。ETHZ図書館は,コメントを分析してさらなるサービス改善に役立たせることにしている。
河合 美穂(かわいみほ)
Ref: Keller, Alice et al. Hochschulbibliotheken der Schweiz. Bibliothek Forschung und Praxis 23 (2) 133-143, 1999
Der glaserne Elfenbeinturm. Neue Zuricher Zeitung 1999.11.5
Schwarz, Hanspeter. Die privatwirtschaftlichen Kunden der ETH-Bibliothek Zurich. Bibliotheksdienst 33 (4) 581-591, 1999
Keller, Alice et al. Dienstleistungsangebote von Bibliotheken in elektronischer Form. NFD Information-Wissenschaft und Praxis 50 (7) 407-412, 1999
ETH-Bibliothek [http://www.ethbib.ethz.ch/](last access 2000.2.28)
Informationsverbund Deutschschweiz (IDS) [http://www.ub.unibas.ch/ids/](last access 2000.2.28)