CA1228 – 電子ジャーナルの価格 / 小笠原綾

カレントアウェアネス
No.232 1998.12.20


CA1228

電子ジャーナルの価格

多くの出版社が,雑誌の発行形態を冊子体からオンラインに切り替えようとしている。その数は爆発的に増えており,1997年夏には4,000タイトルにも及んだ。しかし,電子ジャーナルは将来の可能性を探ってまだ手探りの状態である。

電子ジャーナルは,雑誌価格高騰の問題を解決する,万能薬のように思われてきた。しかし,冊子体の刊行を完全に中止しない限り出版コストの削減は難しい。冊子体と電子版の二重出版は,ファイルをオンラインによる配布に適したフォーマットに変換する費用が従来の印刷コストに上乗せされるので,冊子体のみの出版よりも割高になる。たとえ冊子体が中止になっても,グラフィックや編集のためのコストがかかる。また,バックナンバーの売り上げや広告収入がなくなることで,多少の経費削減も帳消しである。つまり,電子ジャーナルは出版コストの削減につながるとは限らないのである。

しかし,価格設定の実際はほとんど混沌状態である。冊子体と抱き合わせか,電子ジャーナルのみか,利用者が個人か団体かで,出版社は異なる価格を設定している。一方,SWETSやFaxonなどの取次業者は,インターネットに散在する電子ジャーナルへのゲートウェイサービスを提供しているが,ここでの価格設定も,雑誌単位,記事単位とさまざまである。さらに,図書館はコンソーシアムを組んで出版社との交渉を行っており,結果として契約価格はコンソーシアムごとに異なるものとなっている。ロブネット(Bill Robnett)がジャーナルの種類ごとに大よその価格傾向を整理しているので,以下に紹介する。

抄録・索引ジャーナル これは書誌データベースのことである。スタンドアロンで契約するか,ネットワークで利用するかで価格が違っており,ネットワークの場合はスタンドアロンの場合の1.2〜1.5倍の価格である。ネットワークでは,取次業者は同時にアクセス可能なユーザの数によってランク分けし,それに応じて価格を定めている。しかし,その区分が業者によってまちまちなため,同じジャーナルに同じ人数でアクセスしても価格が違う,という事態が生じている。

学協会誌 この種類のジャーナルの価格システムには幾つかのパターンがある。一般的なのは,冊子体の定期購読者は電子版にも無料でアクセスできるという方式である。その他には,電子版のみの購読料を冊子体の90%程度に設定し,二重購読の場合は冊子体より15%前後高く設定する方式もある。また,電子版への全面移行を見越して,ネットワークによる多人数の利用を前提とした高額の料金体系に変えた団体もある。

商業出版社のジャーナル エルゼビアやアカデミック・プレスなど大半の出版社は冊子体の購読料に数%上乗せして価格を定め,3年間契約としている。上乗せの金額は一定ではなく,年毎に調整される。3年後に市場を再評価してその後の価格を決めるのである。Neuroscience-Netはユーザによる論文へのアクセスを,著者が抜刷を配布することに相当するとみなして,著者に料金を課している。

大学出版会のジャーナル オンライン化はまだあまり進んでいない。そのなかでジョンズホプキンス大学はリーダー的存在で,電子ジャーナルの利用者を4種に分類しそれぞれに合わせた料金設定を行っている。その4種とは,(1)単独のキャンパス・図書館・施設,(2)複数のキャンパスに渡る利用・コンソーシアムによる利用,(3)公共図書館システム,(4)高等学校システムである。

価格に影響を与えるものとしては,まず世界の経済状況が挙げられる。インフレに合わせて価格が上がり,定期購読がキャンセルされるという悪循環が起こっている。また,今年は,アジアが通貨危機に陥り,この地域の図書館は多くのジャーナルの購読をやめざるを得なくなった。そのため出版社はその他の地域で利益を確保しようと料金を値上げした。それから通貨の問題もある。自国の通貨が弱ければ,外国のジャーナルの価格は割高になる。

出版社の間では,ネットワークでの提携の可能性を探って合併が進んでいる。このことは,ライバルの減少につながり,価格競争を妨げている。提携は,特にSTM(科学技術,数学)の分野で進んでいる。

電子ジャーナルの市場が広がるにつれて,価格の問題はますます複雑化していくことが予想される。価格は電子ジャーナルの行末を大きく左右し,ひいては学問研究の世界を変えてゆくことになる。図書館としては,財政難の中いかに効率的に資料を収集するか,そして電子ジャーナルの発展をいかに支援していくかが問われている。

小笠原 綾(おがさわらあや)

Ref: Ketcham, Lee et al. E-journals come of age. Libr J 123 (7) 40-45, 1998
Robnett, Bill. Online journal pricing. Ser Libr 33 (12) 55-69, 1998
中川真紀ほか オンラインジャーナルの利用と問題 情報の科学と技術 47(2)81-85,1998
Woodward, H. et al. 電子ジャーナル:神話と真実 情報の科学と技術 48(5)303-311,1998