CA1227 – SUBITO−ドイツのドキュメント・デリバリーサービス− / 山岡規雄

カレントアウェアネス
No.232 1998.12.20


CA1227

SUBITO−ドイツのドキュメント・デリバリー・サービス−

1997年11月,ドイツの新しい文献提供サービスであるSUBITOのパイロットプロジェクトが開始された。SUBITOとは,自宅や職場に居ながらにして,必要な文献をインターネットを通して注文し,手元のパソコンに電子的なテキストとして受け取ることを可能とするシステムであり,ドイツにおける学術情報の流通の発展にとって重要な役割を果たす画期的なサービスであると期待されている。

文献提供の申し込みから入手までの手続きを具体的に説明すると,以下のようになる。まず,利用者は,SUBITOのホームページ(http://www.subito-doc.de)からZugangsystemeという箇所をクリックして,データベース検索サービスを選択する。STN,BVB(バイエルン図書館連盟),BSZ(バーデン・ヴュルテンベルク図書館サービスセンター)など7機関の提供する検索サービスが用意されている。これらのサービスの中心にはZDB(雑誌の総合目録データベース)をはじめとするさまざまな目録データベースがあり,抄録・索引データベースもZDBとリンクされているため,検索画面から資料の注文へとスムーズに移行することができる。図書の場合には,検索の後所蔵館に現物の送付を依頼する。雑誌論文を複写依頼する場合には,表示された所蔵館の中から適当な機関を選んで申し込む。依頼を受けた図書館は,通常サービスでは3日以内に,至急サービスの場合は,1日以内にその依頼を処理することになっている。受け付ける図書館によって条件は異なるが,文献は電子メール,FTP,FAX,郵便など,様々な方法によって受け取ることができる。料金体系は,利用者の資格によって2つのグループに分かれる。国内の研究者,学生,一般人などグループ1に入る利用者は,通常サービスで最低料金(コピー20枚まで)が,電子メール,FTPでの提供で5マルクとなっている。ちなみに,郵便では8マルク,FAXでは10マルクとなっている。一方至急サービスとしては,電子メール,FTPでの提供が15マルク,またグループ2(営利目的の利用者,外国の利用者など)の場合は通常サービスで18マルク,至急サービスは36マルクと,利用者および提供方法により価格には大きな差がある。料金の支払いは,銀行口座からの引き落とし,クレジット,振り込みなど複数の方法から選択することができる。

冒頭にも述べたとおり,SUBITOは,まだ試行サービスの段階であり,1998年6月現在の参加館は,アウグスブルク大学図書館,ベルリン国立図書館など18館に限られている。今後,利用者にどの程度受け入れられているのか,料金設定は適当であるか,使い易いシステムとして機能しているかといった諸点について評価が行われる予定である。サービス開始1ヶ月後の統計によれば,1,185人が利用のための登録を申請し,70,554件の検索が行われ,4,520件の依頼があったとのことで,順調な滑り出しを見せていると評価できる。

ところで,文献の電子的な提供といったサービスを行う際,著作権の問題が関わってくるのが常であるが,SUBITOの場合は,この問題をどのように処理しているのであろうか。著作権問題をめぐる出版者側と図書館側の意見は以下のようになっている。まず,出版者側としては,図書館間貸出の範囲を超えてエンドユーザーに直接コピーを送付する行為は,著作権法違反であり,図書館がコピーした文献のデータを電子的機器に一時的に保存してFTPで送付するような行為は,なおさらのこと認められないとの立場をとっている。したがって,SUBITOのようなサービスは当然違法と見なされることになる。これに対して,図書館側は,それらの行為は著作権法53条(私的その他の使用のための複製)の認める範囲内であるとの立場をとっている。しかし,さらに進んで,現在のSUBITO(正確に言うとSUBITO. 1となる)がバージョンアップした段階のSUBITO. 2が想定しているような事態,すなわち,送付したファイルを電子的な形態のまま保存したり,依頼のないうちに予め電子的な複製物を用意しておくことについては,出版者側も,図書館側も一致してその違法性を認めている。こうした両者の見解の相違を認めた上で,ドイツ書籍出版販売取引業者組合とドイツ連邦図書館連盟との間で,SUBITOに関する共同声明が発表されている。出版者側としては,前述のように原則として著作権法を厳格に適用する見解をとっているが,試行段階としてはSUBITO. 1の試行運用を認める,試行運用の間,図書館側は,出版者側に利用者の人数,構成について統計資料を提供する,というのがその共同声明の内容である。要するに,著作権問題については,とりあえず試行サービスを開始してみて,まずは様子をうかがおうというスタンスでプロジェクトを進めている状態なのであろう。SUBITOの試行段階は,1998年12月末に終了する予定であり,来年にはシステムの評価に加えて,こうした問題点について何らかの結論が出されるものと思われる。

山岡 規雄(やまおかのりお)

Ref: Braun-Gordon, Traute. SUBITO – der kooperative Dokumentlieferdienst der deutschen Bibliotheken. Bibliotheksdienst 32 (1) 33-44, 1998
Gemeinsame Erklarung des Borsenvereins des Deutschen Buchhandels und der Bundesvereinigung Deutscher Bibliotheksverbande zu den urheberrechtlichen Fragen im Zusammenhang mit der Bund-Lander-Initiative zur Beschleunigung der Literatur- und Informationsversorgung. Bibliotheksdienst 31 (6) 1029-1033, 1997