カレントアウェアネス
No.232 1998.12.20
CA1226
国際標準番号制度
−ISSN,ISBN,ISMN,ISRC,ISAN,ISWC−(1)
1 情報とドキュメンテーションを対象とした識別
ISO(国際標準化機構)には約200の専門委員会があるが,その第46専門委員会(TC46)が「情報とドキュメンテーション」を担当し,さらにその第9分科委員会(SC9)(注1)が文献の表記,識別,記述に関連する規格の審議を担当している。そこでは文献の識別に関連して文献ごとに番号を付与するための国際標準番号制度に関する規格が審議されている。現在この活動において大きな課題となっているのが,電子化である。番号付与の対象となる文献の範囲が印刷媒体に加えて電子媒体にも広がり,この番号制度にも大きな影響を与えている。また,電子媒体となった文献では,物理的単位を基礎とする識別番号が意味を持たなくなるため,異なる単位に基づく番号付与が検討され始めている。
2 国際標準番号制度に関する規格の現状
今回取り上げる番号制度のうち,すでに制定されたものは以下の(1)から(4)の4件である(注2)。今後制定されるであろう番号制度として(5)から(6)の2件がある。
(1) 国際標準逐次刊行物番号(ISSN)ISO3297: 1986 Information and Documentation-International Standard Serial Number (ISSN) ISO/FDIS3297 Information and Documentation-International Standard Serial Number (ISSN)
1986年に制定されたISSN(第2版)は,現在改訂作業中である。第3版制定のための最終原案(FDIS)も並記した。
(2) 国際標準図書番号(ISBN)ISO21O8: 1992 Information and Documentation-International Standard Book Number (ISBN)
(3) 国際標準楽譜番号(ISMN)ISO10957: 1993 Information and Documentation-International Standard Music Number (ISMN)
(4) 国際標準レコーディングコード(ISRC)ISO3901: 1986 Information and Documentation-International Standard Recording Code (ISRC)
(5) 国際標準視聴覚資料番号(ISAN)ISO/NP 15706 Information and Documentation-International Standard Audiovisual Number (ISAN)
(6) 国際標準著作物コード(ISWC)ISO/NP 15707 Information and Documentation-International Standard Working Code (ISWC)
以上の6つの番号制度における番号やコードの構成要素と事例を示したものが次の表である。
表 国際標準番号の構成要素
番号名 | 桁数 | 構成要素(事例) |
ISSN | 8 | 連番+検査数字*(ISSN 0251-1479) |
ISBN | 10 | 地域+出版者+連番+検査数字(ISBN 0 571 08989 5) |
ISMN | 10 | 記号M+出版者+連番+検査数字(ISMN M 571 10051 3) |
ISRC | 12 | 地域+第一著作権所有者+記録した年+連番(ISRC NL-C01-84-1326-1) |
ISAN | 16 | 地域+連番+検査数字 |
ISWC | 11 | “T”+連番+検査数字 |
*検査数字とは,検査数字を除く数字の並びや数値に誤りがないかを
検証するためのものである。
3 番号制度関連規格における文献の捉え方
番号制度に関連する規格の内容とその規格制定過程における議論(注3)を分析し,その中で扱われている文献の範囲をまとめる。
(1) ISSN ISSNという名称中での逐次刊行物(serial)は,刊行終了を意図しない継続刊行物で通常通し番号や年代表示があるものと定義され,現在ではあらゆる媒体が対象とされている。したがって,印刷媒体の逐次刊行物の他に,電子媒体の逐次刊行物も対象とされ,そのタイトル頁に番号付与を行うように指示されている。最新の規格案での媒体に関する表現は「あらゆる媒体(in any medium)」という語句が用いられているが,この段階に至るまでにはいくつかの議論があった。1990年に開かれた専門部会では“different physical version(異なる物質上に記録されたもの)”という語を用いて,CD-ROMを具体的な対象として電子媒体の扱いについて議論が始められた。1992年には,オンラインデータベースを対象に議論が続行され,1993年には“electronic information products”といった語も提案された。
こうして改訂作業が長期化するうちに,新たにネットワーク情報資源が対象に加わることとなった。その際,番号付与の位置としてメインメニューや初期画面を追加することが認められたと同時に,オンラインデータベースやネットワーク情報資源とCD-ROM等のパッケージ系電子資料とを区別するために,“electronic serials that have no physical carrier(容器となるものを持たない電子逐次刊行物)”と,“electronic serials that are available on a physical electronic medium(物理的実体を持つ電子媒体上で利用可能な電子逐次刊行物)”という表現で区別されることになった。この内容は規格編集上の訂正として扱われ,近く刊行されるはずのISO3297の第3版に盛り込まれることになる。
(2) ISBN ISBNという名称中での図書(book)は図書あるいはその他の単行書を指している。しかしISBNは単行で出版されるものを識別するためだけでなく,出版者ごとに出版物を識別するために作成されている。そのため,ISBNはタイトルや版ごとに異なる番号が付与される。それだけでなく,タイトルが同じでも異なる出版社から発行されていれば異なる番号が付与される。さらに,1992年に制定された第3版から対象となった「その他の単行書」と定義されているものの中には,教育用の映画/ビデオ/スライド,カセットテープ,コンピュータソフトウエア,電子文献,マイクロ資料,点字資料,地図が含まれる。最初に冊子体で出版していた辞典を,CD-ROMとしても出版すれば,そのCD-ROMにも新たにISBNが付与されることになる。実際にISBNの付与対象となるのは,ISBN登録管理機関である国際ISBN機関が認めた各国ISBN機関に登録している出版者から発行されているものに限られている。つまり,ISBNは出版業界の意向を反映し,出版業界が扱う出版物の範囲の中で図書という文献を定義している。
(3) ISMN ISMNという名称中での“Music”は,印刷媒体で出版されている楽譜を意味している。楽譜もISBNで扱う単行書と同類の文献であるが,番号の10桁のうち最初の1桁は「M」という記号を用いてISBNが扱う出版物と番号上で区別されている。残りの番号は,ISBNと同様に出版者と楽譜の識別に当てられている。番号制度としては,ISBNに追随するものであるが,文献識別の観点からいえば,以下に取り上げるISRC, ISAN, ISWCという音楽関連の番号制度との関連性が問題となる。
(4) ISRC ISRCの名称中にあるレコーディング(recording)は音声記録内容,画像記録内容あるいは音声画像同時記録内容そのものを指しており,記録したものを収録する容器(carrier)を指してはいない。コードの構成は記録内容の最初の版権所有者の所在地,版権所有者,記録年,記録内容番号からなっている。最初の版権所有者が識別要素となっているのは,テープやCDのように記録内容が複数の容器に収録されることが多く,容器による識別よりも最初の版権所有者や最初の記録年の方が識別性が高いためである。さらに,例えば,楽曲は演奏される度に異なるものとなり,決して同じ内容が継続されることはない。このために,記録内容が識別の観点となっている。
(5) ISAN ISANは,映像コンテンツ(audiovisual work)を識別する番号である。次の項で述べるISWCでの著作物(work)が映像化された場合に,その内容を識別するのがISANである。その内容が次に別の製品となっても同じISANが付与される。ISANは,市場に出回る“physical work(発行されたもの)”を識別し,次に述べるISWCはそれに対して“intellectual work(もとの著作物)”を識別するといった明確な区別が可能となるかは今後の審議による。
(6) ISWC 1997年5月のISO/TC46/SC9総会で新たに作業部会が設けられた案件として,ISWC(国際標準著作物コード)がある。この番号制度は著作ごとに番号を付与し,その著作がどんな資料中に表われたとしても,その版権所有者が識別できるように,著作権管理機関が提案したものである。提案当初はテキストからなる著作物と楽曲が対象であったが,作業部会において楽曲のみに限定することが決まった。これは音楽以外の著作物に関する活動を行っている関連機関の参加がなく,実質上音楽著作物関係者による運営の可能性が高くなったためである。今後の審議は,この番号制度によって特定の楽曲がCD,映画,インターネットのホームページ上などで使用された場合に,その版権を管理することが果たして可能であるのか,といった根本的な問題に当てられる。
以上のような議論を引き起こすような提案がなされたことは,SC9の活動範囲を見直す機会となった点では評価するが,“music work(音楽著作物)”の定義を始め課題は多い。新業務項目として提案された時点から具体性に欠ける番号制度であったが,この点は音楽著作物に限定することになっても同様であり,まずどのように楽曲を特定化するかから始めることになろう。〔以下次号〕
愛知淑徳大学文学部:菅野 育子(すがのいくこ)
(注)
(1) ISO/TC46/SC9については以下のものを参照。
[http://www.nlc-bnc.ca/iso/tc46sc9/]
(2) なおこれ以外にも制定された規格として国際標準技術報告書番号があるが,今回は電子化による変化を直接うけていない点から対象としていない。
(3) 規格制定の過程における議論については以下の議事録及びワーキンググループでの討議内容を参照した。
ISO/TC46/SC9 Report of the Meeting, Ottawa, 1995-05-10/11.
ISO/TC46/SC9 Report of the Meeting, Oslo, 1996-05-08/09.
ISO/TC46/SC9 Report of the Meeting, London, 1997-05-13/14.
ISO/TC46/SC9/WG1 (ISO Project 15706: ISAN), London, 1997-05-14.
ISO/TC46/SC9/WG2 (ISO Project 15707: ISWC), London, 1997-05-14.