CA1130 – ドイツにおける著作権法改正 / 渡辺富久子

カレントアウェアネス
No.214 1997.06.20


CA1130

ドイツにおける著作権法改正

電子技術とオンライン網の発達により,学術情報の供給体制は大きく変化している。それに伴って,著作権や複製権の保護のあり方も見直しを迫られている。ドイツでは,1995年に著作権法が改正され,賃貸借権,使用貸借権に関するEUガイドライン,および著作権の保護期間のハーモナイゼーションに関するEUガイドラインがドイツの著作権法に組み込まれた。今回の改正では以下の点が重要である。

1.適用地域

著作権法第120条の規定によってEUと欧州経済領域の人々がドイツ国籍を有する人々と同等に扱われることになった。これで全ての「西ヨーロッパ人」がドイツの著作権法を直接自分に適用して,法律が保障する総体的な権利を主張することができるようになる。

2.頒布権

ドイツの頒布権とは,著作物の原作品又は複製物を公衆に提示し,又は取引に供する権利をいう。これは法律施行地域(つまりドイツ連邦共和国)内での頒布行為が対象である。問題は第17条第2項の再頒布の規定である。旧法ではヨーロッパの内外を問わず,外国で一度頒布されたとしても,それは頒布行為とみなされないので,例えばドイツ人の著作物が最初に外国で取引に供された場合,逆輸入という形でのドイツ国内での再頒布は認められなかった。また逆に,第32条の利用権の空間的制限との絡みで,例えば,外国人の著作物にかかる「ドイツ語の出版権」をドイツ,オーストリア,スイスのみに設定することができた。これはヨーロッパの市場統一という原則に反することになり,新法では,EU域内や欧州経済領域に関する協定の締約国内での頒布行為は,それが譲渡であるなら,その域内での頒布権として認められることになった。

また,第17条第3項では,頒布権の一部として賃貸借権が新設された。第2項によれば,複製物の再頒布は賃貸借を除いて許される。ある賃貸借業者が1995年7月1日以降に入手したCDやビデオフィルムの賃貸借は,著作権者と著作隣接権者の同意がなければ認められないことになった。

第27条第2,3項では,それに対して使用貸借を定義している。図書館のような公共機関による非営利の貸出は,これまでと同様に著作権者,著作隣接権者の同意なしに認められる。著作権法は図書館の教育的役割や情報提供の役割を配慮しているのである。図書館が著作権管理団体を通して著作者に「相応の報酬」を支払うという1972年以来の規則は変わらない。

コンピュータ・プログラムに関しては,第17条と第27条に対応した規則が1993年に第69条で定められた。それに基づいてドイツ図書館協会はソフトウェアの製造業者に対して「納本義務声明」を発表した。これによって図書館は,特定のコンピュータ・プログラム(システム制御装置,テキスト処理,表計算,グラフィック,CAD,経営管理,会計簿記のプログラム)を図書館内でのみ閲覧に供することが認められる。またその他のコンピュータ・プログラムで,権利者の同意を得て譲渡によって取引に供されたものなら,貸出が認められる。図書館が違法複製に対して安全対策を講じていれば,図書館内でのコンピュータ・プログラムの閲覧はこれまでと同様無制限である。

3.報酬請求権

第27,75条では,ビデオやCD等の著作者と実演家の,その著作物に対する報酬請求権が定められている。報酬請求権はあらかじめ著作権管理団体にのみ譲渡されている。報酬請求権の経済的価値がまだ定まっていない間は著作者から報酬請求権を買い取ることができない,ということも保障されている。

4.保護期間

EUでは,著作権と著作隣接権の保護期間の統一を目指している。この流れで,レコード製造業者(第85条),映画制作者(第94条),ラジオ放送業者(第87条)の著作隣接権の保護期間はこれまでの25年に代わって50年となった。

第72条では写真の保護期間が統一された。1985年の著作権法改正以来,時代の記録である写真とその他の写真が区別され,後者には25年の保護期間しか認められていなかった。今回の法改正でその区別がなくなり,全ての写真の保護期間が50年になった。

(展望)

アナログ技術からデジタル技術への転換にともなって,複製技術は飛躍的に進歩した。「送信権」の創設は急がれなくてはならないだろう。例えば,1993年9月27日の衛星放送とケーブルの再頒布に関する審議会のガイドライン93/83/EWGを早急に改正しなければならない。また,データベース・サービスも進展しているが,これは複製されやすいので著作権法第4条を見直すだけでなく,特別立法の必要もある。図書館もこれまで,その社会的機能を顧慮され,様々な特権を受けてきたが,これらの複製技術との関連で今までの特権が後退しないことが望まれる。

渡辺 富久子(わたなべふくこ)

Ref: Dirnaichner, Udo. Neuerungen im Urheberrecht. Bibliotheksform Bayern 24 (2) 206-218 1996
Harberstumpf, Helmut. Handbuch der Urheberrechts. 1996 p. 100-103
斉藤博訳 外国著作権法令集(12)ドイツ編 著作権資料協会 1992