2. 平成15年度 調査報告 2.2. 利用可能性調査

2.2.利用可能性調査

(1)サンプルの抽出

 3つの表としてまとめてみたものの、表のみからサンプル抽出対象を決定することは困難であった。そのため、次の推測および事実も併せて考慮した。

・ 古い資料ほど利用不可となっている可能性が高い。

・ 録音資料・映像資料(CD、DVD、LDなど)のように媒体種と再生に必要な環境が変化しないものと、電子資料のように再生環境が多様で続々と新たな環境(OS、アプリケーション・ソフトウェア、フォーマット・・・)が生まれるものを同様に扱うことは不適切。

・ 録音資料・映像資料のように媒体種と再生に必要な環境が変化しないものについてサンプルを再生し利用可能性を調査することは、媒体の劣化の有無を調べることに等しい。

・ 電子資料のように再生環境が多様で続々と新たな環境が生まれるものについて、サンプルを再生し利用可能性を調査することは、媒体の劣化の有無も関係するが、技術進歩にともなって利用が困難となるものの有無を調べることと等しい。

・ 録音資料・映像資料だけでなく、電子資料も最近のものは殆んど問題なく再生可能であることが予想される。

・ 録音資料・映像資料の大半を音楽CDが占める。

・ 電子資料にはゲーム専用機用ソフトなどが含まれているが、これらも録音資料・映像資料のように媒体種と再生に必要な環境が変化しないものといえる。「再生環境が多様で続々と新たな環境が生まれるもの」とはPCなどで再生される電子資料と捉えるべき。

 

 これらを踏まえ、サンプルは次のように抽出した。

・ 録音資料・映像資料は音楽CDを調査対象とし、受入初年度である昭和57年度から平成3年度まで毎年5点をサンプルとしランダムに選ぶ。(全50点)

・ 電子資料は、主にPCで再生されることを前提に作成されたものを対象とし、平成2年度以前受入のものを29点、平成3年度〜平成10年度受入分から毎年20点、平成11年度受入分から11点をサンプルとし、ランダムに選ぶ。(全200点)

 

(2)調査方法

 調査方法は以下のものとした。

・ 電子資料は媒体内のファイル一覧情報の確認と最新環境(WindowsXP ProfessionalまたはMacOSXv10.3)での起動と簡易な動作確認。

・ 録音資料(音楽CD)は1トラック目の初めの部分、中間トラックのいずれかの最初から最後まで、最終トラックの初めの部分の再生により確認。

 

 しかしこの調査方法は十分な方法であるとは言いがたい。特に音楽CDは媒体に記録されているデータに多少エラーがあったとしても、エラー訂正により問題なく再生される規格である。また、そのエラーが経年変化により生じたものなのか当初より存在していたのか知ることも不可能である。したがって十分な量のサンプルを抽出し、媒体に記録されている情報のエラー率などを測定する、または顕微鏡で記録面を確認するなどの方法により、ようやく経年変化による媒体の劣化が確認できるのだと思われる。したがって、ここで行う音楽CDの再生確認調査は、あくまで参考程度のものでしかない。

 電子資料、特にプログラムを含むものについては特定操作を行った場合にのみ不具合が発生する可能性もある。しかし、その不具合の有無を検証することはメーカーにおけるデバッグ作業と同等のものとなり、膨大な作業を必要とし、実施が不可能な規模の調査となる。そのため、ファイル一覧情報の表示により媒体自体の可読性を確認し、明らかな不都合を簡易な動作確認により調査することとした。

 

(3)調査結果

<録音資料(音楽CD)>

 50点すべての再生が可能であった。

 
表2.2-1 録音資料の受入時期ごとの利用可能性
 
受入年度 調査資料点数 利用可能資料点数 利用可能資料の割合
昭和57年度
(1982.4-1983.3)
5 5 100%
昭和58年度
(1983.4-1984.3)
5 5 100%
昭和59年度
(1984.4-1985.3)
5 5 100%
昭和60年度
(1985.4-1986.3)
5 5 100%
昭和61年度
(1986.4-1987.3)
5 5 100%
昭和62年度
(1987.4-1988.3)
5 5 100%
昭和63年度
(1988.4-1989.3)
5 5 100%
平成元年度
(1989.4-1990.3)
5 5 100%
平成2年度
(1990.4-1991.3)
5 5 100%
平成3年度
(1991.4-1992.3)
5 5 100%
合計 50 50 100%
 

 

<電子資料>

 全体の7割弱の資料の利用に問題があることが判明した。

 予想通り古い資料ほど利用可能性が低く、読み取りできない媒体もあった。5インチFD(以下、「5″FD」)、3.5インチFD(以下、「3.5″FD」)だけでなく、CD-ROMも含まれている。平成6年度以前受入資料の利用可能性の低さが特徴的である。

 
表2.2-2 電子資料の受入時期ごとの利用可能性
 
受入年度 調査資料点数 利用可能資料点数 利用可能資料の割合
平成2年度以前
(-1991.3)
29 1 3%
平成3年度
(1991.4-1992.3)
20 2 10%
平成4年度
(1992.4-1993.3)
20 2 10%
平成5年度
(1993.4-1994.3)
20 3 15%
平成6年度
(1994.4-1995.3)
20 3 15%
平成7年度
(1995.4-1996.3)
20 8 40%
平成8年度
(1996.4-1997.3)
20 8 40%
平成9年度
(1997.4-1998.3)
20 16 80%
平成10年度
(1998.4-1999.3)
20 13 65%
平成11年度
(1999.4-2000.3)
11 6 55%
合計 200 62 31%
 

 

(4)利用不可原因の概略

 利用可能性調査の結果、一定期間を経過した電子情報は最新環境で利用できないケースが多発することを確認した。その原因を以下に記す。

 

・原因:OSなど、PCの基本ソフトウェア
 アプリケーション・ソフトウェアは通常特定のOSの特定のバージョンでのみ動作する。古いOSを前提に開発されたアプリケーション・ソフトウェアは最新のOSで正しく動作するとは限らない。
 最新OSと、電子資料が必要としている旧式の再生用アプリケーション・ソフトウェアの不適合により、さまざまな不具合が発生した。

 

・原因:アプリケーション・ソフトウェア
 電子情報を利用するために、PCに通常インストールされているアプリケーション・ソフトウェア以外に、特定の再生アプリケーション・ソフトウェアを必要とする場合がある。これらの再生アプリケーション・ソフトウェアがない、特定できない等々の理由で、利用できない場合が発生した。
 また、アプリケーション・ソフトウェアに特定のプラグインをインストールしなくてはならないにもかかわらず、そのプラグインと最新のアプリケーション・ソフトウェアの不適合により正しく動作しないというものもあった。

 

・原因:記録媒体
 5″FDであるために対応するFDドライブが入手できず、利用できないものがあった。技術の旧式化にともない、8インチFDや5″FDのように生産および流通が止まり、記録媒体およびその対応ドライブの利用は困難になってしまう。
 また、媒体寿命は20〜30年といわれているが、比較的良好な環境(7)である国立国会図書館の書庫で媒体を保管していたにもかかわらず、読み取りができないものもあった。

 

・その他原因
 インストールやセットアップに必要なFDなどが同梱されていない、再生環境を特定できないなどのために再生できなかったものがあった。

 

(7) 国立国会図書館の書庫は紙媒体の資料の保管に都合の良い温度と湿度に維持されている。しかし、電子媒体の保存環境としては、これより低い温度と湿度が推奨されている。
(MEMORY OF THE WORLD. Safeguarding the Documentary Heritage. A guide to Standards, Recommended Practices and Reference Literature Related to the Preservation of Documents of All Kinds / UNESCO (http://www.unesco.org/webworld/mdm/administ/en/guide/guidetoc.htm)など。)