CA1038 – 図書館員の国際交流 / 見形宗子

CA1038

図書館員の国際交流

21世紀の図書館員像を考えたとき,「国際化」というキーワードは避けて通れない問題の一つである。既に文献複写や図書館資料の交換など,国際的な図書館資料の相互協力は活発に行われている。一方,そのような物的な側面だけではなく,図書館員の国際交流といった人的な国際化も学術図書館などで行われるようになってきている。しかしながら,このことに関する研究報告はほとんどなされていないのが現状である。そこで,今回は数少ない研究報告の中からキッド(Tony Kidd)らの研究を紹介し,図書館員の国際交流の現状とこれからについて考えてみたい。

キッドらの調査対象はイギリス・アイルランド・アメリカ・カナダの学術図書館229機関である。これらの機関の館長と,そこに所属する国際交流の経験を持つ図書館員の二者に対してアンケートを送った。そして,館長から120通,経験者からは40通の回答を得た。結果の概要は次の通りである。

  • 国際交流は英語圏同士がほとんどである。
  • 交流期間はイギリス・アイルランドは半年から1年と,北米の3〜6ヶ月より長い。
  • 派遣される図書館員は30代の中堅職員が中心で,専門知識を持った人の派遣が多い。
  • 国際交流は個人的なコンタクトから始まる。6ヶ月の交渉で始まるものもあるが,多くは実現までに1年以上かかる。
  • 受け入れ先での仕事は通常以前から担当している専門業務だが,6か月以下の短期交流の場合には,専門外の短期プロジェクトを任されたり,非英語圏の図書館との交流であった場合はコンサルタントやオブザーバーとして働くこともある。

調査結果を国際交流の経験者と館長それぞれの立場から考えてみたい。

まず,経験者の回答を見てみよう。国際交流により自分にプラスになったこととして,専門性が発揮できた,とか,新しいアイデアを吸収することができた,個人的なことでは,視野が広がった,行動的になったなどが挙げられている。反面,習慣の違いにとまどったり,コミュニケーションの難しさや家族の問題,果ては留守中,自分の仕事が同僚の負担になっているのではないか,ということを心配する声があった。

受け入れ先での仕事については,短期間の交流では自分が相手の機関に対して何か貢献しているか疑問である,という声が多かった。また,相手の国の習慣や考え方の基となっている背景などを理解するには1年はかかる,という。短期間の交流では複雑な受け入れ先の仕事を学ぶというよりも,なにか特別な情報など,「何か」を見つけることで十分だ,という声もある。

次に,国際交流の利益を館長の立場から見ると,イギリスとアイルランドでは図書館員のキャリアの向上という面からの評価をしている。アメリカ・カナダの館長達は海外の機関とのより親密なつながりを強調している。また,国際交流で派遣されてくるスタッフについても帰ってくるスタッフについても,概して評価は高く,他の図書館員に良い影響を与えてくれることが期待されている。しかしながら,国際交流に伴う仕事量の増加や派遣されなかった職員の感情,財政など図書館経営上の問題が多く挙げられ,これらは国際交流をしていない,と回答してきた機関の理由と一致していた。

以上,国際交流の現状を示す報告を見てきた。国際交流の実現には様々な人々の大変な努力を必要としている。しかし,結果として派遣された図書館員だけではなく周囲のスタッフもよい刺激を受けている。今後,このような国際交流はさらに活発に行われ,多くの図書館員がより積極的な図書館活動を推し進めるであろう。

しかしながら,残念なことに,国際交流を行っていない機関の回答で一般的だったのは「うちの職員は国際交流に関心がない」というものだった。本当にそうなのだろうか?「仲間に国際交流に興味のある人がいるのならば,私たちはその実現を喜んで手伝います。」報告の中でこの様な図書館員のコメントが紹介されていた。以上から,われわれは館長と図書館員との間にかなりの意識のギャップがあることを認識できる。

今後さらに国際交流を活発にし,有意義なものにするためには,経験者たちがイニシアチブをとって周囲に働き続け,そして図書館員それぞれが関心を持ち続けること,それが大切であると考えられる。

見形宗子(みかたひろこ)

Ref: Kidd, Tony et al. International staff exchanges for academic libraries. J Acad Librariansh 20 (5/6) 295-299, 1994
Peters, Klaus et al. The Cologne-Cleveland librarian exchange. Coll Res Libr News 53 (6), 1992