CA1029 – 英国図書館,コピーサービスに関し著作権管理団体との間で新協定 / 岡村美保子

カレントアウェアネス
No.194 1995.10.20


CA1029

英国図書館,コピーサービスに関し著作権管理団体との間で新協定

コピーサービスが図書館サービスの中心的地位を占めるようになって以来,著作権問題が,図書館にとって重要な問題となっている。わが国においては,著作権法第31条という著作権を制限する規定を根拠として,図書館は著作権者の許諾を得ることなく図書館資料の複製物を利用者に提供している。しかし,図書館のコピーサービスは,質量共に,著作権者の権利を脅かすものとなっているという懸念を抱かせるまでに増大しているため,上記31条の様な制限規定の存在そのものに対する疑義も出されるようになっている。図書館側としても,今後サービスの拡大を考えるならば,この問題を避けて通るわけにはいかない状況にある。

1988年に全面改正されたイギリスの現行著作権法(CA658参照)にも,わが国の著作権法同様,個人の調査研究のための図書館資料の複製を,無許諾で行うことを図書館に認める規定が置かれているが,詳細に定められたこの規定を厳密に解釈すれば,適用を受けるコピーサービスは極めて限られたものとなる。大規模な文献供給センター(BLDSC)を有する英国図書館(BL)は,著作権法の制限規定を受けて著作権者に無許諾でコピーサービスを行う一方,1991年からは,イギリス国内の著作者と出版者による権利の集中管理団体であるコピーライト・ライセンシング・エージェンシー(CLA)との間に協定を結び,著作権料を徴収する新規のコピーサービスを開始した(CA723CA799参照)。以後これまでは,この新規のサービスは,一律の料金を著作権料としてBLが利用者から徴収し,これをCLAを通して著作権者に分配するという内容のものだったが,今年の4月に締結された新協定により,BLが提供するサービスの内容がさらに変更されることになるようである。

まず,CLAを通して支払われる著作権料の額は,権利者である出版者や著作者が個別に設定することとした。ただし,当面,個別に設定された著作権料の平均値を料金として設定することで,利用者に対しては,一律の料金を課すこととなる。将来的には徴収も個別設定料金に対応したかたちになる予定であり,また,この方式を導入することにより,課題となっている資料のデジタル化の権利処理にも道を開くことになるとのことである。

この他,BLは,1995年10月1日より国外からの依頼については,著作権法の規定に基づいて行う著作権料の支払いを伴わないサービスを一部停止することになった。欧州連合の外の利用者に対する,著作権料の支払いを伴わないファックス送信サービスはすべて停止し,営利機関については,複写サービスも著作権料なしのものは行わない。欧州連合内についても,ベルギー,フランス,ギリシャ,イタリア,ルクセンブルグ,ポルトガルの6カ国の営利機関に対する著作権料なしの複写およびファックス送信サービスは行わない。アメリカ合衆国の利用者に対しては,著作権料の支払いを伴うサービスのみを提供する。

利用者のニーズに応えるサービスを行うためには,もはや非常に限定された著作権制限規定の枠内に留まり続けることは不可能であり,一方では,著作権料を支払っても必要な情報を入手したいという要求も強くなっているとすれば,こうした流れは自然な方向であるともいえよう。ただし,イギリスの場合,CLAへの権利の委託率は非常に高く,コピーされる著作物の90数パーセントをカバーしているとのことであり,また,アメリカのコピーライト・クリアランス・センター(CCC)を始めとする海外の権利の集中管理機関との提携により,CLAを通して海外の著作物の権利処理も行うことができるため,このような協定が可能であったものと思われる。わが国の場合,まだ,実効性のある権利の集中処理の制度が整っておらず,そこに到るまでにも,課題が山積している状態である。

岡村美保子(おかむらみほこ)

Ref: New copyright agreement. Doc Supply News (46) 1995, 6