CA799 – BLDSCの著作権処理コピーサービス / 坂本博

カレントアウェアネス
No.152 1992.04.20

 

CA799

BLDSCの著作権処理コピーサービス

あなたを安心させるサービス あなたは著作権法が悩みの種であることを御存知でしょう。告訴されるかも知れない恐れは,文献に収められた情報へのあなたのアクセスと利用の大きな足枷になりかねません。有難いことに,この問題は解決しました。BLDSCの著作権処理サービスがその答えです」BLDSC(英国図書館文献送付センター)の同サービス広報パンフの書き出しである。この「あなた」が著作権者を指すのではないことは明白だが,このサービスによりBLDSCは,公共にサービスする図書館に著作権法によって認められた著作権料支払不要のコピーサービスの枠を越えたサービスを開始したことになる(CA723参照)。このサービスを利用すると,今までイギリス法上違法でできなかった

  • 署名した宣誓書なしにコピーを発注すること
  • 同一文献のコピーを2部以上発注すること
  • 1冊の逐次刊行物から2論文以上のコピーを発注すること,および1冊の図書から2章以上のコピーを発注すること(ただしBLDSCが,顧客は購入の代わりにコピーを求めているのではないと納得した場合)
  • 感熱紙にされたコピーを保存のためにコピーし直すこと(他の目的の再コピーは違法になる恐れがある)
  • コピーを図書館の蔵書に加えたり,組織内の情報サービスとして回覧したりすること
  • 図書館員が署名した宣誓書の保管義務を免がれること

が可能になるという。

この著作権処理に対する料金は,文献の長さ,出版物の種類,依頼図書館の種別にかかわらず単一料金である。現行のBLDSCの著作権料の支払いを伴わないサービスは,1枚で10ページまでのコピーを発注できるクーポン20枚と申し込み用紙20枚のセットを96ポンド(21,907円)で購入して行なう。1件の申し込みにつき1枚の用紙が必要である。これに対して著作権処理サービスの方は,同じセットが120ポンド(27,384円)となる。クーポンの購入は,小切手,銀行振込,のほかアクセス,ビザ,ユーロカード,マスターカード,アメックスのクレジットカードが使える。著作権処理料は1件1.2ポンド(274円)になるわけだが,BLDSCはイギリスの著作権処理機構(CLA)に1件につき1.1ポンドを払うことになっているから,手数料も取っていることになる。この処理をしたコピーにはその旨を示す次の様なマークが表示される。

複写業務に,コピー枚数に関わりなく手間賃として基本料を請求するという発想は,文献送付が公共サービスからビジネスに変化しつつあることを示している。これは単にイギリスだから起きた現象ではなく,米の輸入自由化の影になって目立たないが,ガットのウルグァイ・ラウンドで著作権保護の強化を敢然と主張しているのはアメリカである。輸入禁止や損害賠償などの危険もさることながら,現物貸出・コピー併せて年間約330万件の依頼を処理し正職員換算で790人を擁する組織が,著作権法の免責条項の範囲内で活動して行くことがそもそも無理になったのであろう。

このことは国立国会図書館(NDL)の関西館構想が目指す,NDLDSCにも参考になると思われる。NDLのコピーサービスはしばしばBLDSCと比べて批判されている。NDLのコピーはB4判1枚(普通の図書なら2ページ)35円で1枚の申込用紙に何件も書けるが,BLDSCは著作権処理無しでクーポンをフルに使っても1ページ110円で申込用紙1枚に1件である。著作権法31条の範囲内で行なっている限り,絶版の図書であろうと全ページ複写は利用者自らが著作権処理をしない限りNDLではできない。その上で200ページの図書をまるごとコピーするとNDLは3,500円,BLDSCの著作権処理サービスを利用すると27,384円である。みんなが豊かになって,高くても便利なサービスの方を求めているのだろうか。またこの方式でも,イギリスのCLAに権利行使を委ねていない外国の著作物については疑問が残る。

ときどき投書があるが,NDLのコピーがコンビニ・ストアに比べて高いとか融通がきかないというのは論外で,わが国で文化庁の努力にもかかわらずいかに著作権思想が普及していないかを証明するものである。BLDSCも建前としては,本物を買うよりは安いからコピーするというのは認めていないのである。著作権法の範囲内であることの確認や,複写による資料の破損防止・修復に要する費用はかなりなものである。憲法が保証した国民の財産権を,別の国民が喜ぶという理由で国の機関であるNDLが侵すわけにはいかないのである。それでも今のままの料金でNDLDSCが国際市場に参入したら「またもやコストを無視した日本のダンピング」と外国から批判を受けるかもしれない。

坂本 博(さかもとひろし)

※文中のポンドの円換算レートは1月31日の対顧客電信売り相場による。