カレントアウェアネス
No.190 1995.06.20
CA1008
電子キオスクと公共図書館
クリントン政権の全米情報基盤(NII)構築アジェンダでは,NIIを利用して連邦・州政府・地方自治体の市民に対する情報公開を推進することが謳われている。知る権利は平等であることは言うまでもないにせよ,情報を「持てる者」と「持たざる者」の格差を生み出さないためには,行政情報へのアクセスポイントは誰でも利用でき,かつ公共スペースにあることが望ましいであろう。この条件を満たすことができるのが電子キオスクである。
合衆国郵政公社が電子キオスクのパイロット計画を合衆国全土で試行すると発表したのは,1994年10月のことである。キオスク計画は,市民に行政サービスを提供し,市民の行政参加を促すものとしてブッシュ前政権期に構想されたものだった。しかし,実現に向かったのは,クリントン政権の実施した全米業績評価において,行政の効率化・経費削減には情報基盤の強化が必要であることが明らかになり,情報基盤をあらゆるレベルで行政機関と接続することが求められて以降のことである。連邦政府諸機関と州政府・地方自治体の代表によって組織された郵政公社主催の専門委員会では,キオスクが行政情報への関門であるとの位置付けがなされた。
当初,図書館はキオスクの設置場所に含められていなかった。アメリカ図書館協会(ALA)はキオスクの性格が図書館の任務に相応しいものであるとして計画の見直しを求めた。これに対し,公社は1995年1月に新たな計画案を提示し,ワシントンでALAと会合を開いた。
この案では,パイロットテストはワシントン特別区で行われ,キオスクによって行政サービスと郵便サービスを提供すること,双方向ソフト・ハードの信頼性,キオスクの操作性,各サービスの利用率を調査することのほか,利用料金徴収に関する利用者の意向調査を行うこと,計画に参加する政府機関ばかりでなく,図書館,食料品店,ショッピングモールのような目につきやすい場所にキオスクを設置すること,が明らかにされている。
行政サービスの内容は,行政情報はもちろん,求人案内,車両登録の更新,出産や健康問題などの生活相談にまで及んでいる。このサービスの提供とキオスクのシステムの維持に必要な費用は,キオスクの利用が進むことによって節約された予算で賄うことができる見込みである。
キオスクの装置は,光ディスクを使用した独立型と,使用目的によって異なるレベルでネットワークに接続される型とが予定されている。機能面でも,タッチスクリーンを使用した基礎的な用途のものと,キーボードやスキャナを備え,個人情報を保護しつつ所得税の納付手続きまでも可能にする高度なものとがある。図書館に設置が計画されているのは後者である。
郵政公社は初年度で6千台のキオスクを,次年度に同数のキオスクを設置する意向である。4万台あれば全人口の95%にサービスを提供できるという。電子キオスクの利用は,行政サービスの窓口業務を減らし,手続きを簡素化・効率化し,かつ経費削減に寄与するばかりではない。サービスが従来の地理的・時間的制約を超えて提供されるようになり,その質の向上にもつながるであろう。
図書館がキオスクの設置場所に新たに加えられた理由は,私権の優先する合衆国社会において公共図書館が,公共スペースとしての意義をとりわけ強く持っている,という社会的背景を郵政公社が認識したということかもしれない。図書館サービスと電子キオスクの利用の調和という観点から考えれば,電子キオスクが,すべての市民が正確な行政情報を知り,分析し,自発的で合理性のある意思決定を行い得る機会を提供することこそ重要であろう。パソコンのような情報ツールを所有していない情報弱者でも,市民である以上,公共スペースに設置される電子キオスクを使用する機会が与えられるので,行政情報から疎外されることがなくなるからである。
電子キオスクは,市民に情報を等しく入手する機会を与えるメディアであるということから,市民に対して様々な知見と情報を知る権利を保障する図書館サービスに適うものであると言えよう。図書館職員にとっての当面の課題は,キオスクを本来業務といかに統合するかということになるだろう。
樋山千冬(ひやまちふゆ)
Ref: Williams, F. et al., eds. The People's Right to Know: Media, Democracy, and the Information Highway. Hillsdale, Lawrence Erlbaum Associates, 1994. 258p
Am Libr 25 (11) 974, 1994
Libr J 120 (5) 29, 1995