CA1009 - アメリカの図書館における多文化サービスの実態調査から / 保坂さゆり

カレントアウェアネス
No.190 1995.06.20


CA1009

アメリカの図書館における多文化サービスの実態調査から

1980年代,ラテンアメリカ,アジア,ヨーロッパ各国からの移民の波によって,米国では英語をセカンドランゲージとする多文化人口の規模は急速に拡大し,全体の3分の1を上回るまでになっている。このことが,結果として図書館サービスや利用者の需要の見直しを促した。そこで,1989年には多文化人口委員会が公共図書館協会(PLA)のMetropolitan Libraries Sectionのユニットとして設立され,PLAの助成金による公共図書館の多文化サービスに関する調査が行われた。この調査の報告を以下に紹介する。

調査票は,サービス対象地域に人口10万人以上を抱える公共図書館のほぼ全館と,人口5万から10万人の図書館からランダムに選んだ50館を対象に送られた。これは,アメリカの全人口の58%に対応する図書館をカバーすることになる。このうち,10万人以上の図書館の47%(207館)5万から10万人の図書館の42%(21館)から回答があった。調査項目は,管轄地域の住民一人当たりの図書館予算,サービスの対象としている言語,明文化した多文化サービスのガイドラインやマニュアルの有無,多文化サービスの専従職員の有無および担当職員の研修など多岐に亘っている。

回答は,現状に多くの問題があることを示している。まず,どの図書館にとっても多文化人口へのサービスを困難にしているのは資金の不足である。住民一人当たりの図書館予算が多くなるほど多文化サービスは広く行われる傾向があるが,多様なコミュニティの状況に追い付いている図書館は少ない。また,多くの図書館はまだ多文化サービスというものの捉え方を模索中である。多文化サービスのためにフルタイムで専門の職員を置いている機関は希であるが,そのポジションが明確に置かれていなくても,事実上は多文化サービスに従事している職員がいる場合もある。職員のために何らかの研修の機会を設けている図書館が39%を占めており,特に利用者サービス担当の職員に多いようである。内容としては,文化の多様性の認識と理解,資料の収集に関する知識などが挙げられる。他に,多くの試みの中で有用とされているのは,少数派のコミュニティと接触を持ち,コミュニティの組織に参加していくことである。逆に評価が高くないものとして,特殊なワークショップの開催や人口統計データの活用,コミュニティ向けの新聞やテレビプログラムを読んだり見たりすることが挙げられる。専門家向けの雑誌については評価が分かれているが,多文化資料のレビュー誌の増加を待つ声もある。

現在比較的多くの図書館が取り組んでいるのは識字あるいはESL(English as Second Language:英語のクラス)プログラムである。ESLのクラスは大変人気があり,ますます需要を増している。もともと母国語でも読み書きができないというケースも少なくないので,英語力の乏しい人にも生活上の情報,教育,レクリエーションなどを提供する機関として,図書館に求められている役割は非常に大きいようである。

この調査から,以下の2点が指摘される。1)対象地域の人口が5万人以上の図書館では多文化サービスが定着している。2)英語以外の言語の人口が殆ど見られないような地域においても,文化や言語の多様化という現象がアメリカ国内の多くの地域で起きている,という認識を与えるという役割も多文化サービスの一つの在り方だと考えられ始めている。人口調査局によると,アメリカ合衆国のヒスパニック,アジア系,アフリカ系アメリカ人の全体に占める割合は,2000年までに消費者ベースで25%にも達する予想だという。報告者はこう結んでいる。今や図書館は,この避けられない問題に取り組んでいくのか,ある限られた人々に対してのサービスという古い体制を続けていくのかという選択を余儀なくされていると。

日本においては,1986年のIFLA東京大会で多文化サービスの遅れが指摘され,サービス展開の一つの契機になった。1988年当時の日本の「多文化サービス実態調査」の報告では,日本独自の課題も指摘されており,アメリカの現状はすでに我々自身のものとなっている。例えば東京の「図書館と在住外国人をむすぶ会(略称:むすびめの会)」では在日韓国朝鮮人の問題,留学生の問題などを取り上げ,また,在日韓国朝鮮人の多くが在住する関西地区でも,大阪市立生野図書館が猪飼野朝鮮図書資料室と交流しながら韓国・朝鮮関連図書の収集に努力しているという例もある。しかしまだ公立の機関は少数派であり,多文化サービスは民間団体や個人の運営に負うところが多く公的な援助や活動の待たれるところである。また,今後の多文化サービスのためには各図書館の協力体制が一層重要になるだろう。

保坂さゆり(ほさかさゆり)

Ref: Belvin, Robert. Survey on services to multicultural populations. Public Libr 33 (4) 197-324, 1994
深井耀子,寒川登 在日外国人・留学生のための図書館サービス 図書館界 41(3)106-110,1989
小林卓「図書館と在住外国人をむすぶ会(略称:むすびめの会)」の活動から みんなの図書館(190)9-16,1993
日本図書館協会障害者サービス委員会 図書館の多文化サービス 現代の図書館 27(4) 254-258,1989