(調査の目的)
近年、「電子書籍」の量的拡大、コンテンツの多様化、ネットワーク配信が進んでいる。統計によると市場規模は年々拡大しており、とりわけ携帯電話による電子書籍配信事業が拡大の一途をたどっている。そのようなコンテンツの1つ、「ケータイ小説」は若年層に広く受容されており、ネット上でのアクセス数の多い「ケータイ小説」が単行本として出版され、2007年にはベストセラーの上位層を占めるに至った。
このような状況を踏まえ、2008年現在の国内における電子書籍の流通・利用・保存の現況について、図書館とのかかわりを視野に入れつつ調査を実施した。
(方法)
質問紙調査によって、電子書籍の流通・利用・保存に関する実態・意識調査を、出版社を対象に実施した。さらに電子書籍関連事業者を対象にインタビュー調査を実施した。また利用者調査の代替として、国立国会図書館職員を対象に、電子書籍の利用実態および意識に関する質問紙調査を実施した。
(結果)
各種統計や歴史的経緯の分析から、電子書籍の厳密な定義は困難である。そこで産業的実態から電子書籍を定義し、流通・利用・保存の現状分析を試みた。
電子書籍の流通形態は、CD-ROMに代表されるパッケージ系電子出版物から、オンライン系電子出版物へと移行している様子が窺える。また2006年度には携帯電話向け市場が、それまでの主力であったパソコン向けの市場規模を上回るに至った。この動きに呼応して、携帯電話通信事業者と提携し、携帯電話にコンテンツを有償で提供するベンダ数も、増加の一途をたどっている。このような携帯電話向け電子書籍ビジネスの特徴として、携帯電話通信事業者によるコンテンツメニューの登録、課金、集金の管理が挙げられるが、通信事業者と提携せずにコンテンツを提供するベンダの登場や、多機能モバイル情報端末の登場により、この体制に変化が生じつつある。
ハードウェア面では、読書専用端末の不成功、携帯電話やゲーム機に代表される携帯型汎用端末による読書の受容といった現象が特徴的である。紙や書籍の代替としての電子書籍は現在のところ、社会的に広汎には受け入れられておらず、携帯電話などによる電子書籍利用も電子書籍への全面移行を意味するものではないことを示唆するものと考えられる。
電子書籍の利用に関して、個人利用に関する悉皆的なデータは、現時点で存在しない。また図書館における電子書籍の機関利用には、自館所蔵資料の電子化と公開、外部提供の電子書籍の導入と提供の2種類に分けることができる。
電子書籍の保存に関しては、出版社やコンテンツプロバイダは、データの滅失や毀損に対しての安全性確保としての保存(バックアップ)が中心であり、そういった保存をも行っていない例もあるという結果が得られた。すなわち、電子書籍の長期的な保存に対する意識は、現在のところ薄いと考えられる。