1.6.1 アメリカの見地からの図書館アドヴォカシー

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Barbara J. Ford
Director, C.Walter and Gerda B. mortenson Center for International Library Programs and Mortenson Distinguished Professor,
Member of IFLA Governing Board,
Past President of the American Library Association

(イリノイ大学モーテンソン・センター長、国際図書館連盟理事、アメリカ図書館協会元会長  バーバラ・フォード)

(1) 図書館のアドヴォカシー(advocacy)とは何か?

 図書館のアドヴォカシーとは、図書館に対するサポートを声に出して表明し、また他の人々にも同じように行ってもらうようにする行為である。図書館が地域コミュニティの形成にいかに貢献しているかを他の人々が知っているとは限らない。図書館のアドヴォカシー活動者(advocates)は、図書館からのメッセージを聴く必要のある人々に届けるため、声をあげ、そして協同している。聴く必要のある人々とは、図書館に資金を提供する政治家、図書館の話を伝える助けとなれるメディア、コミュニティやキャンパス、学校関係者など図書館のサービスに対するサポートをコントロールし、世論を作る助けとなれる人々である。

 図書館のアドヴォカシーにおけるメッセージは様々であるが、米国において我々が焦点を当てているのは、情報社会における図書館と司書の重要性をコミュニティに認識してもらうことである。また民主社会において、情報に対する無料で公平なアクセスの重要性について語ることもよくある。

(2) なぜ図書館のアドヴォカシーを行うのか?

 技術の発展は、図書館のサービスとプログラムを大きく向上させてきたが、同時に図書館の価値と役割に疑問を生じさせるようにもなった。図書館のアドヴォカシー活動者の中には、これらの新技術を導入してサービスを拡大したり、インターネットやその他の電子情報源に関連した問題を解決するために、図書館の資金を増加させることを求める者もいる。また、変化する利用者のニーズに応えたり、リテラシーや教育プログラムを拡張したりするために、新しい建物や既存の建物の改築を目指して運動をする者もいる。

 図書館のアドヴォカシー活動者は、人々が効率的に、教育や経済発展、またコミュニティの生活の質の向上のために、情報を画定し、見つけ、分析し、利用できるような情報リテラシーが高い国家の発展のために、図書館と司書の果たす役割の重要性を認識している。

 我々がみな情報の波に襲われているような世界の中では、メッセージの効果的なやり取りや、我々が行っている重要な仕事をサポートする協力体制の構築が効率的に行えるよう、図書館と司書が学ぶことが重要なのである。効果的なアドヴォカシーがなければ、図書館はその必要不可欠な機能を果たすためのリソースを得るために必要なサポートと注目を得られないであろう。

(3) 図書館のアドヴォカシーを行うのは誰か?

 図書館のアドヴォカシー活動者は、学校、近隣社会、大学、立法機関を含むコミュニティ全般において必要とされている。だれでもアドヴォカシー活動者になれる。図書館長たちや図書館協会などは様々なグループに明確な役割を与え、現在進行中のアドヴォカシー活動を、さらに推進し、コーディネートする必要がある。

 米国の大学図書館や、公共図書館、学校図書館の図書館友の会(Friends of Libraries groups)は、図書館の声、目、耳として重要な役割を果たすことが出来る。図書館友の会を立ち上げ、サポートするために時間を費やすことは、図書館のスタッフにとってよい時間の使い方である。政治家やその他の資金助成機関は、しばしば図書館友の会の影響を受ける。全米図書館友の会(Friends of Libraries U.S.A.)(http://www.folusa.org/)は、図書館友の会や図書館委員会のためのサービスやネットワークを提供している。アドヴォカシー活動やファンドレイジングに関する出版物を作成したり、アドヴォカシー活動を行う図書館を助けるためのトレーニングやコンサルティングを提供したりしているのである。

 公共図書館の図書館委員会の委員は、選出されたものであれ、任命されたものであれ、一般に政治的つながりやコミュニティにおける人のつながりをもっており、それは図書館にとって大きな利益となり得るし、図書館とそのコミュニティの一番の利益を代表する公人として影響を与えることができる。大学や学校における図書館の諮問委員会も同様の役割を果たすことができ、またあらゆるアドヴォカシー活動に参加すべきである。

 図書館の利用者もアドヴォカシー活動の鍵である。利用者の中には、ビジネスマン、学生、大学教員、保護者といった人もいる。図書館がいかに個々人やグループの助けとなっているかを語る証言や物語は、とても有益なものとなり得るし、図書館の運営決定権者からの注目を集めることもできよう。利用者を知りニーズを理解することは、良いアドヴォカシー活動を行う上で不可欠のものである。

 機関やコミュニティのリーダー、例えば学校長や大学長、組合の指導者、ビジネスリーダー、選出された公務員もアドヴォカシー活動の中に取り込むべきである。これらの指導者は、コミュニティの最も上のレベルにまでメッセージを届けることが出来る。

 司書と図書館スタッフは、職場の内外で図書館利用者を助けることで、重要なアドヴォカシー活動者となりえる。図書館のリーダーたちは、スタッフがアドヴォカシー活動における各々の役割を理解している、と確信を持って言えるようでなければならず、また彼らが強力なアドヴォカシー活動者となるために必要なトレーニングや支援を提供しなければならない。

 図書館と共に仕事をするベンダーや業者もアドヴォカシー・プログラムにおける実物資産である。彼らは図書館が何ができるか知っており、図書館にとって真に利益となりえるビジネスやコミュニティにおけるコネクションを持っている可能性がある。また大規模なアドヴォカシー・キャンペーンの資金集めの助けとなったり、図書館がアドヴォカシーに使えるようなツールを作る助けとなることもある。

 潜在的なアドヴォカシー活動者の多くは、図書館のサポートに声を上げてくれと依頼されるのをただ待っている人である。こういった人々は家族やビジネスのために図書館を利用したことがあったり、あるいは、単に図書館は強固なコミュニティや頑健な民主主義社会のために重要であると考えていたりする。こうした人々に図書館のために声を上げてもらうよう、ためらわずに依頼すること。誰でも効果的な図書館のアドヴォカシー活動者になりえるのだから!

(4) アメリカ図書館協会におけるアドヴォカシー

 アドヴォカシーはアメリカ図書館協会(ALA)における優先事項である。そのビジョンとは、ALAは、図書館と司書が人々をあらゆる形式の記録された知識と結びつけ、また人々の権利を無料で開かれた情報社会と結びつける価値ある存在であることをアドヴォカシーする先導者である、というものである。ALAとその会員が、図書館と図書館専門職の先導的アドヴォカシー活動者となるための戦略目標として、次のようなものがある。

1. 図書館の価値と影響力に関する証拠を提供するための研究と評価に、さらなる支援を提供する。

2. あらゆる種類の図書館の価値と影響力に対する人々の認識を高める。

3. 司書と図書館スタッフの価値と影響力に対する人々の認識を高める。

4. 地域、州、連邦レベルで図書館と図書館の資金集めのための草の根レベルでのアドヴォカシー活動を動員し、サポートし、維持していく。

5. 図書館にとって望ましい法制を確保していくための協力関係を増やしていく。

6. 民主主義における知的自由とプライバシー、図書館の役割の重要性について人々の認識を高める

http://www.ala.org/ala/ourassociation/governingdocs/aheadto2010/adoptedstrategicplan.htm, (accessed 2007-09-04). より。)

 人々の意識を高め、草の根レベルでのアドヴォカシー活動を推進し、図書館にとって望ましい法制度を確保することに焦点を当て、ALAではこれらの戦略目標をサポートする数々のプログラムを展開してきた。

 いくつかのALAのプログラムは、図書館にとって望ましい法制度を確保するために活動している。ALAのワシントンオフィスには政治家とともに仕事をすることを専門とし、図書館の問題にも精通しているスタッフがいる。彼らはALAのメンバーや他の図書館協会と協力して草の根レベルのアドヴォカシー活動を展開している。ワシントンD.C.における‘全国図書館立法の日’(National Library Legislative Day)は2日間にわたるイベントで、図書館に関心を寄せる人々がアドヴォカシー活動や問題についてのトレーニングセッションに参加し、連邦議会の内部の人々と交流し、議員の事務所を訪問して連邦議会で図書館を支援する法律を通過させるように依頼するのである。

 図書館とその支援者たちが、全米の連邦レベルでの図書館アドヴォカシー活動者として活動する他の方法もいろいろある。この中には、電子的な立法活動センター(Legislative Action Center)や、情報を州レベルにまで届けるのに役立つ連邦図書館立法・アドヴォカシーネットワーク(Federal Library Legislative and Advocacy Network)、産業界のリーダーに図書館の成長を持続、強化する助けとなってもらうための図書館・ビジネス同盟(Library Business Alliance)などがある。さらなる情報については次のサイトを参照のこと(http://www.ala.org/ala/washoff/gettinginvolved/gettinginvolved.htm(accessed 2007-09-04))。

 “Library Advocacy Now!”トレーニングプログラムとアドヴォカシー研究所が、ALAと他の図書館との会合で行われている。このプログラムでは、参加者が図書館のアドヴォカシーに使うためのメッセージや、また参加者たちの活動を支援してくれるような人々との協力関係を築くためのメッセージを作成する手助けをしている。これらのプロジェクトは、しばしばヤングアダルト図書館サービス部会(YALSA)や公共図書館部会(PLA)といったALAの部門や、各州の支部によって共催されている。キャンペーンのスポンサーにはフォード財団やビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団、全米図書館友の会、アメリカ出版者協会(Association of American Publishers)、3M、そしてH.W.ウィルソン財団といった組織がある(http://www.ala.org/ala/issues/issuesadvocacy.htm(accessed 2007-09-04))。

 “@ your library”プロジェクトのようなALAによる全国レベルのキャンペーンは図書館に対する注目を高めた。ALA傘下の部会で、各館種の図書館にとって役に立つツールを開発した。

 公共図書館部会(PLA)では、図書館カードを財布の中で最も価値があって頻繁に使われるカードにするという目標をサポートするスローガンのもと、キャンペーンを展開した。「最もスマートなカード。手に入れて、使ってください。あなたの図書館で(The Smartest Card. Get it. Use it. @ your library)」。多くの公共図書館が、「最もスマートなカード」の絵、ポスターやツールを利用して、「図書館カード登録月間」(Library Card Sign-up Month)の間、キャンペーンに参加した。PLAはまた、これまでに示された影響、研究、逸話に基づいて、公共図書館の価値を示すための新しいツールキットを開発している(http://www.ala.org/ala/pla/plaissues/issuesadvocacy.htm(accessed 2007-09-04))。

 大学研究図書館部会(ACRL)では大学図書館をサポートするための多くのプロジェクトを展開している。その中には、@ your Library Toolkit for Academic and Research Librariesや、大学・研究図書館のための戦略的マーケティングに関するマニュアルの作成などが含まれている。“@your library”を用いた大学・研究図書館のマーケティングにおけるベストプラクティスを表彰する賞によって、優れた業績を認め、促進している(http://www.ala.org/ala/acrl/acrlissues/issuesadvocacy.htm(accessed 2007-09-04))。

 アドヴォカシー活動に関する情報やサクセスストーリーを取り上げた電子版ニューズレターがALAにより作成されている。アイデアの共有や、ALAのプロモーション活動、“@ your library”、ALAのニュースリリース、重要な立法に関する情報、そして図書館アドヴォカシーに関する最新情報を含む多くのメーリングリストは、アイデアを共有し、図書館のアドヴォカシーにおいて何が起こっているかについての情報を得続ける機会を提供している。

 様々なツールが地域でのマーケティングとアドヴォカシー活動を補完し、高めるために作られており、ポスター、ダウンロードできる絵、プレス発表のためのひな型、広告のサンプル、メッセージシート、その他のリソース等が開発されてきた(http://www.ala.org/ala/issues/issuesadvocacy.htm(accessed 2007-09-04))。

 オンラインで入手できるThe Library Advocate’s Handbookには、公に主張する方法、メディアとの付き合い方、議員たちとの付き合い方などに関するセクションが含まれている(http://www.ala.org/ala/advocacybucket/libraryadvocateshandbook.pdf(accessed 2007-09-04))。

 Libraries and the Internet Toolkitはインターネットを使いこなす方法を一般市民に教育するにあたって、司書をサポートするべく作成されたものである(http://www.ala.org/ala/oif/iftoolkits/litoolkit/Default2338.htm(accessed 2007-09-04))。

 Quotable Facts About American Librariesのような出版物は、メディアからの要請があったり、意思決定者に示すために引用が必要になったりした際に良い情報を提供してくれるものである(http://www.ala.org/ala/issues/toolsandpub/quotablefacts/quotablefacts.htm(accessed 2007-09-04))。

(5) 米国における図書館アドヴォカシーの業績と成功例

 図書館とアメリカ図書館協会におけるアドヴォカシー活動は、図書館の中で働く人、また図書館と共に働く多くの人が、より効果的な図書館アドヴォカシー活動者となる準備を整えてきた。効果的なアドヴォカシー活動者となることの重要性を学び、自分の役割のために必要なスキルとリソースについて教育を受け、こうしたアドヴォカシー活動において協力できる他者と協力関係を築くべく手を伸ばすにつれて、伝統的な司書のイメージは変わりつつある。ALAのウェブサイトでは図書館に関する新聞報道や、様々な館種の図書館のサクセスストーリーを紹介している。今後数年の間にアドヴォカシー活動をより拡大することを計画しており、成功例を追い続けることは重要なのである。

(6) 国際図書館連盟における擁護活動

 国際図書館連盟(IFLA)にとって、アドヴォカシー活動は重要な課題となってきた。

世界図書館振興キャンペーン(Campaign for the World’s Libraries)はIFLA、ALA、そして世界中の図書館協会が共催する教育キャンペーンで、21世紀における図書館と司書の価値について声高く、明確にメッセージを伝えようとするものである。3つの中心的メッセージは、図書館は変化しつつあるダイナミックな場所であり、図書館は機会にあふれた場所であり、図書館は世界をつなぐというものである。世界中から多くの国レベルの図書館協会がこのキャンペーンに参加している(http://www.ifla.org/@yourlibrary/index.htm(accessed 2007-09-04))。

 2005年に開催された世界情報社会サミット(WSIS)はIFLAにおけるさらなるアドヴォカシー活動に弾みをつけるものであった。現在進行中のプロジェクトに“IFLA Success Stories Database”があり、世界中の図書館からのサクセスストーリーが含まれている。こうしたタイプの事例は図書館の運営決定権者と話をするにあたって大変便利であり、世界各地の図書館が実例を提供するよう求められている(http://www.ifla.org/III/wsis.html(accessed 2007-09-04))。

 2006-2009年の新しいIFLA 戦略計画にはアドヴォカシー活動が含まれており、IFLA運営理事会はアドヴォカシー活動を最も優先されるべきレベルに置いた。その目標は、IFLA本部(headquarters)においてアドヴォカシー能力を育て、次のようなテーマに関するアドヴォカシー・キャンペーンを行うことである。情報に対する自由なアクセス、表現の自由、そして図書館・情報サービスを通じてのそれらの実施。著作権の分野における公正。富める国と貧しい国との間での情報の流れ。知的財産。情報社会における情報アクセスの分野での包含。そして情報・知識社会の構築である(http://www.ifla.org/V/cdoc/IFLA-StrategicPlan.htm(accessed 2007-09-04))。

 このイニシアチブの一環として、IFLAはIFLA本部におけるアドヴォカシー活動を強化させた。その焦点は、自由、そしてWSISの成功に基づく公正、包含と構築、情報へのアクセスの自由と表現の自由、著作権やその他の法的事項に関する作業に当てられている。IFLA本部のアドヴォカシー・スタッフのため、財団から資金が調達される。

 図書館のアドヴォカシーはあらゆるレベルで行われる必要がある。地域で、国で、そして世界で。世界中の図書館の強力なネットワークと、その成功やアプローチの共有はより強くなり、図書館のために声を上げていこうとしている支援者たちのネットワークと、コミュニティに対し司書が提供している極めて重要なサービスの両者により、司書はさらに効果的な図書館のアドヴォカシー活動者となっていくであろう。