E2250 – 研究データの公開・利用条件指定ガイドラインの策定

カレントアウェアネス-E

No.389 2020.04.23

 

 E2250

研究データの公開・利用条件指定ガイドラインの策定

国立情報学研究所・南山泰之(みなみやまやすゆき)

 

   研究データの流通・利活用の促進に当たっては,データに明確な利用条件が付与されることが不可欠である。著者が委員長を務める研究データ利活用協議会(RDUF)研究データライセンス小委員会(以下「ライセンス小委員会」)では,研究データの利用条件を分かりやすく表示・確認することを目的とした「研究データの公開・利用条件指定ガイドライン」を2019年12月に策定し,2020年2月に公開した。本ガイドラインの想定読者は,データを公開または再利用する研究者(大学・企業等)や技術者のみならず,データ公開を支援する機関(学術機関,図書館,学協会,学術出版社等)の担当者をも含む。以下では,策定までの背景や経緯及び構成の概要について紹介する。

●背景と経緯

  「研究データの法的相互運用性:指針と実施のガイドライン」(E1871参照)では,公的資金による研究データは公共財であるという理解のもと,アクセスと再利用に原則として制限を設けない方針を打ち出している。一方で,分野によっては公的資金によらないデータも広く研究で用いられており,より裾野の広いデータ公開を実現するためには,データ保持者からの多様な要求に配慮していく必要がある。また,研究データへの利用条件付与の方法として,著作物に用いられるクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(以下「CCライセンス」)が流用されることも多い。しかしながら,データに適用される可能性がある法律はより多岐にわたり,利用条件の実態を反映しきれていない。さらに,数値データなど日本の著作権法上では保護対象とならないデータにもCCライセンスが付与されるケースが見受けられ,再利用に混乱をきたしている。

   このような現状認識のもと,ライセンス小委員会では2017年10月より活動を開始し,研究データに付与する利用条件の整理を行った。具体的には,データリポジトリ管理者等へのインタビュー調査,及びライセンスに関する実態や認識を明らかにするためのアンケート調査を通じて,データ公開に伴う法的・慣習的な制約の洗い出しを行うとともに,データ保持者からの要求を分析した。さらに,分析結果をもとにして,研究データの公開に当たり一般的に留意が必要となる情報や事例を,その判断プロセスとともに整理し,ガイドラインとしてまとめた。

●ガイドラインの構成

   ガイドラインは「研究データの公開と利用条件指定に関する5 の質問」で構成されている。以下に挙げる5つの「質問」に沿って進むことで,データ公開を希望する読者が求める利用条件と公開先を設定した公開が可能になる。また,ガイドライン内では免責事項を含む標準的な利用規約(約款)をフォーマットとして提示している。これにより,著作権法の保護が受けられないデータに対しても,個別の契約をベースにデータの公開,再利用が可能になる。

  1. 公開対象とするデータの特定
       ここでは,研究に用いた様々なデータの中から,キュレーションされ公開対象とすることが可能なものを特定する。「研究データ」が指し示す範囲は専門分野ごとに異なるが,本ガイドラインでは,電磁的な方法により管理が可能なデータのうち,研究成果として公開するデータを対象とし,サンプル(試料,標本)や記録媒体(紙,ディスクなど)といった現物は含まないこととしている。また,研究資金の助成を受けている場合,助成機関から具体的なデータの指定があることが考えられるため,この時点で確認するよう注意喚起を行っている。

  2. データ公開の制約条件の確認
       ここでは,前ステップで特定したデータにつき,データに含まれる内容(機密性,プライバシーなど)が法的・慣習的な制約に該当するかどうかを検討する。本ガイドラインでは,制約の主体別に,(1) 分野・コミュニティの慣習など(条約等を含む),(2) 個人情報,(3) 国家安全保障,国際関係など,(4) 共同研究契約や個別の契約による公開制限,(5) 所属機関(部署),助成機関などによるポリシー,の5カテゴリに分けて具体的な確認事項を挙げている。

  3. 公開制約条件の解除
       ここでは,前ステップで確認された制約の解除要件を設定する。ガイドラインでは,上述した5カテゴリ別に制約を解除するために確認すべき情報源や事例を挙げており,読者は専門家との相談も視野に入れつつ具体的な解除手続きを行う。必要に応じて,解除要件は利用条件として後述する利用規約に書き込まれることになる。

       ステップ2とあえて質問を分けた理由として,著作権法が及ばないデータは同法に見られるような保護期間の消失が存在しないため,特に断りがない限り設定した利用条件が永続してしまうことが挙げられる。社会へのデータ還元を念頭に置くとき,不必要な制限を誘導してしまわないか留意が必要と考え,制限解除については特にステップを設けて判断できるようにしている。また,検討時点ではデータ公開の判断が不可能なケースも想定し,後の判断を可能にするためのメタデータ作成とデータ保存を推奨している。

  4. 公開先の選択肢
       ここでは,データを公開するリポジトリを選択する。既にデータ公開の手法が確立された分野のリポジトリがある場合はあまり問題にならないものの,一般に国外のリポジトリである場合はステップ2で検討した法的・慣習的制約との接続が不明瞭である。データの再利用には引用情報やDOIの提供を行う専用のインフラが必要となることも踏まえ,ここではRDUFのジャパン・データリポジトリ・ネットワーク(JDARN)小委員会協力のもと,国内のデータリポジトリをリスト化して提示した。さらに,データの公開制限解除に伴う不適切利用への懸念に応えるため,日本法において適用が可能な法的措置の一覧を作成,明示することでその払しょくに努めている。

  5. 利用条件の指定
       ここでは,データ保持者による利用条件の設定を行う。データが著作物である場合は,既存のライセンスツールが用意する推奨条件を参考にできるものの,ある研究データに著作権が発生するかどうか,その境目判断は意外に難しい。また,著作物でない研究データの利用条件は多様化しており,データ利用者の解釈コストが増え再利用の委縮を招く恐れがある。この問題への対策として,本ステップではCCライセンスが定める4つの条件(表示,継承,非営利,改変禁止)を準用し,推奨要件として提示している。推奨要件は契約によって保護され,利用者はデータ保持者による著作物性の認識のずれに影響されることなく,常に同じ条件で利用することが可能になる。データ保持者は第三者に求める利用条件を推奨要件から選択し,または別途利用者へ求めたい要件を検討し,利用規約へ記載する。

   本ガイドラインが,データの公開や再利用の推進を企図する関係者の一助となることを期待する。

Ref:
研究データ利活用協議会 研究データライセンス小委員会. “研究データの公開・利用条件指定ガイドライン”. 2019-12-25.
https://doi.org/10.11502/rduf_license_guideline
RDA-CODATA Legal Interoperability Interest Group. “Legal Interoperability of Research Data: Principles and Implementation Guidelines”. 2016-10-20.
https://doi.org/10.5281/zenodo.162241
“クリエイティブ・コモンズ・ジャパン”.
https://creativecommons.jp
“Open Data Commons”.
http://opendatacommons.org
研究データ利活用協議会(RDUF)研究データのライセンス検討プロジェクト小委員会. “研究データ利活用協議会小委員会(研究データのライセンス検討プロジェクト)報告書”. 2019-03-29.
https://japanlinkcenter.org/rduf/doc/rduf_license_report.pdf
研究データ利活用協議会. “小委員会”.
https://japanlinkcenter.org/rduf/about/index.html#s004_0
小野寺夏生. 講座 情報社会の知的所有権第2回 ファクトデータベースの著作権. 情報管理. 1997, 40(5), p. 414-424.
https://doi.org/10.1241/johokanri.40.414
池内有為. 研究データの法的相互運用性:指針と実施のガイドライン. カレントアウェアネス-E. 2016, (317), E1871.
https://current.ndl.go.jp/e1871
池内有為; 野村紀匡; 能勢正仁. 「データ引用原則の共同宣言」:データ引用を学術界の慣習に. カレントアウェアネス-E. 2020, (386), E2234.
https://current.ndl.go.jp/e2234

 

 

クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0

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