カレントアウェアネス-E
No.317 2016.12.22
E1871
研究データの法的相互運用性:指針と実施のガイドライン
研究データのオープン化が進み,分野や地域を超えたデータの再利用によって新しい知見を生み出すことが期待されている。しかし,複数のデータセットの利用条件が異なる場合は,どのように再利用すればよいのだろうか。また,研究データには著作権が認められない場合が多いが,作成者の権利をどのように示せばよいのだろうか。こうした疑問に答えるガイドライン(Legal Interoperability of Research Data: Principles and Implementation Guidelines)を,研究データ同盟(RDA)と科学技術データ委員会(CODATA)が共同設置する法的相互運用性分科会(RDA-CODATA Legal Interoperability Interest Group)が公開した。
ガイドラインは公的助成を受けた研究によるあらゆるタイプのデータを対象としており,データにかかわる研究コミュニティ―すなわち資金提供者,データセンター,図書館員,アーキビスト,出版者,政策立案者,大学の管理者,研究者,法律顧問―にとって有益な示唆が含まれている。本文は(1)6つの指針と細目の要約,(2)実施のためのガイドライン,(3)用語集に分かれているが,本稿は6つの指針に主要な細目とガイドラインの重要な点を補いながら紹介する。
◯指針1:研究データへの合法的なアクセスと再利用を容易にすること
公的資金による研究データは公的なものであり,世界的な公共財であるとも考えられる。研究データへのアクセスと再利用はオープンで制限を設けないことを基本として,可能な限り制限を少なくするべきである。政府,学術機関,研究者は,研究データの再利用を制限しないよう,政府間合意やクリエイティブ・コモンズのCC0ライセンスを活用するといった方法でパブリックドメインとすることができる。CC0やPDDL(オープンデータコモンズのパブリックドメインライセンス)による権利放棄は,研究データの法的相互運用性を高めるためには望ましい手段であるが,データを広く普及させようとする場合にはCC BY 4.0(表示)とすることもできる。利用条件を課す場合は,経済的に不利な人々を含めたすべての利用者がデータを公平に利用できるようにしなければならない。
◯指針2:データに対する権利と責任を決定すること
研究データの公開者は,誰がデータに関して権利を持っているのかを公開前に規定する必要がある。一方,研究データの利用者は,データの収集や利用の際の条件を遵守しなければならない。また,利用にあたっては最も制限が厳しい条件に準拠するが,制限のない他のデータとは分離することも可能である。関連機関は研究データの権利と責任に関する研究者向けの教育プログラムを開発し,実施するべきである。
◯指針3:法的な利益のバランスをとること
一般に,国家安全保障,個人情報,機密事項,絶滅危惧種,保護すべき文化資源などに関するデータは公開の対象外となる。それ以外の公的に資金提供された研究データは知的財産権をできる限り放棄するべきであり,もし政府や公的研究機関が追加の制限を課す場合は,そのことを正当化する必要がある。また,政策立案者が公的資金による研究データへのアクセスや利用の規則を策定する際には,公共の利益を考慮に入れるべきである。公的な研究助成機関と公的な研究データの権利保持者は,彼ら自身が研究に利用するためのエンバーゴ期間を必要最小限に抑えるべきである。
◯指針4:権利を透明かつ明確に示すこと
広範な利用者が理解できるように,また機械処理できるように,研究データに法的な権利がある場合は標準化された電子的なステートメントを利用する。また,利用に関する特別な契約条件がある場合は,利用者に知らせるべきである。
◯指針5:研究データの権利の調和をはかること
分野や地域によって異なる研究データに関する権利を調和させるために,トップダウンとボトムアップ,あるいは両方を組み合わせた方法が可能である。政府による活動がない場合,クリエイティブ・コモンズのようなボトムアップの活動は有効なアプローチとなりうるが,細分化されており調和が取れていない。トップダウンの調和,たとえば多国間条約や行政協定,国内法制や機関による規則といった「強制力のある(hard)」法は,広範な調和のための手法として役立つ。
◯指針6:研究データに適切な帰属とクレジットをつけること
公開された研究データを利用する際には,データの作成者を謝辞や引用で明示する。また,こうした研究データの帰属の明示は法による要求ではなく,論文の引用のような学術界の慣習であることが望ましい。ただし,データの引用は検討が重ねられ,FORCE11(研究データの流通や活用を推進する国際イニシアティブ)による共同声明などが公開されているものの,充分に普及していない。
本ガイドラインは法的拘束力こそないものの,政策立案者,研究機関の管理者,研究者,図書館員,データセンターの職員といった多様な参加者の合議によって作成されている(CA1875参照)ため,データ公開や再利用,規則策定の際に参照する価値が高いと考えられる。特に指針4の権利の明示は,公開者と利用者双方の懸念を解消し,データの広範な利用を推進するために重要であるといえよう。国立情報学研究所(NII)が策定した,研究データに適用されるjunii2のメタデータフォーマット(ver. 3.1),ジャパンリンクセンター(JaLC)の研究データの登録メタデータ仕様(ver. 2.0),DataCiteのメタデータスキーマ(ver. 4.0)のいずれにおいても「権利(rights)」の入力は必須ではないが,利用者がひと目で分かるライセンスの明示を期待したい。
筑波大学大学院図書館情報メディア研究科・池内有為
Ref:
https://doi.org/10.5281/zenodo.162241
https://creativecommons.jp
http://opendatacommons.org
https://www.force11.org/group/joint-declaration-data-citation-principles-final
https://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/pdf/junii2_elements_guide_ver3.1.pdf
https://japanlinkcenter.org/top/doc/JaLC_tech_meta_lab_data.pdf
https://schema.datacite.org/meta/kernel-4.0/doc/DataCite-MetadataKernel_v4.0.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/59/4/59_241/_article/-char/ja/
CA1875