E991 – Googleブックス訴訟の和解案,修正により対象範囲が縮小される

カレントアウェアネス-E

No.161 2009.11.18

 

 E991

Googleブックス訴訟の和解案,修正により対象範囲が縮小される

 

 米国司法省の意見書等を受けて修正が協議されていた,Googleブックスをめぐる訴訟の新たな和解案が,2009年11月13日に,著作者団体やGoogle社らの訴訟当事者から,ニューヨーク連邦地方裁判所に提出された。

 最も注目される変更点は,和解案の対象となる書籍の範囲が縮小されたことである。修正和解案で対象となるのは, 2009年1月5日以前に米国著作権局に登録された作品か,同日以前にカナダ,英国,オーストラリアの3か国で出版された作品に限定される。これにより,ほとんどの日本の作品と著作権者は,この和解案の対象からは外れることになった。対象範囲の縮小は,フランス政府やドイツ政府からの意見書を含む国際的な批判(E973参照)を受けてのものであり,これらの3か国に限定されたのは,法的伝統や書籍産業慣行の共通性が高いためとされている。ただし,Google社は,この和解案の対象外となった国の作品についても,オンライン提供実現への取組みを継続するとしている。

 権利者不明の「孤児作品」(orphan works)を含む,権利者が名乗り出ない作品(unclaimed works)に関しては,それらの作品から得られる収益の扱いについて修正がなされた。当初の和解案では,それらの収益が,管理機関として設立される「版権レジストリ」の運営費用や他の権利者への支払いに用いられることに批判があった。修正案では,収益資金は受託人が管理し,請求が5年間なかった場合には版権レジストリによる権利者探しの費用に用いられることや,10年間なかった場合には手続きを経て識字関係の非営利組織等に提供できることが規定された。

 Google社が競争上優位であるという点については,他の書籍小売業者も和解案の対象の絶版書籍をオンライン販売できるようにすることや,版権レジストリとの関係においてGoogle社には他社と同等以上の条件が適用されるという「最恵国待遇」条項の削除等の修正が行われた。

 その他にも,将来に追加できる事業モデルを「プリント・オン・デマンド」「ダウンロード」「一般消費者の購読契約」の3種類に限定すること,クリエイティブコモンズ等のライセンス形態を可能にすること等の変更が行われた。図書館関連では,各公共図書館に1台ずつとされていた無料アクセス端末の台数の増加が可能となったが,米国図書館協会等の図書館関連団体から懸念が示されていた,Google社が独占的地位を持つことによる機関購読料金高騰の可能性(E918参照)についての対応は示されなかった。

 今後のスケジュールは,2009年12月から修正和解案についての告知が開始され,和解からの離脱表明,異議申立て・意見書の提出,司法省の見解発表等を経て,2010年2月に和解案の成否を決める公聴会が開催される予定となっている。Googleブックス問題に詳しいニューヨーク法科大学院のグリメルマン(James Grimmelmann)准教授は,修正和解案では,Google社の独占的地位について司法省の要請の全ては反映されていないとの見解を示しており,新たな和解案に対する司法省の判断が注目される。

Ref:
http://www.googlebooksettlement.com/Supplemental-Notice.pdf
https://sites.google.com/a/pressatgoogle.com/googlebookssettlement/revised-settlement/SettlementModificationsOverview.pdf
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0911/16/news020.html
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20091116_329316.html
http://www.nytimes.com/2009/11/14/technology/internet/14books.html
http://www.libraryjournal.com/article/CA6707181.html
http://laboratorium.net/archive/2009/11/14/gbs_midnight_madness
http://laboratorium.net/archive/2009/11/14/gbs_the_schedule_proposed
E857
E906
E918
E973