E915 – 2008年の英国「国民読書年」の報告書が公表される

カレントアウェアネス-E

No.148 2009.04.22

 

 E915

2008年の英国「国民読書年」の報告書が公表される

 

 2008年に実施された英国の「国民読書年」(National Year of Reading: NYR)についての報告書『読書:その未来』(Reading: the future)が公表された。1998~1999年の第1回(CA1241CA1354参照)以来,約10年ぶりの開催となった今回は,読書イベントの開催からインターネット上の読書支援情報共有サイト「Wikireadia」の開設といったものまで,様々な活動が展開された。予算規模は約259万ポンドで, 児童・学校・家庭省から委託を受けたNational Literacy TrustやReading Agency等が,関係諸機関と連携しながら実施した。

 今回のNYRの目的は,家庭やその他の場所での読書を促進し,「読む人の国」(nation of readers)作りの一助となることであった。特に活動の対象とされたのは,読書を困難に感じている人々が多いとされる,低所得者層や移民等であった。

 報告書では読書年は成功であったとし,それを例証する数値として,約6,000件の読書イベントがNYRのウェブサイトに登録されたこと,230万人の図書館の新規登録者があったこと,Wikireadiaに1,250件以上の情報が掲載されたこと,等をあげている。活動の評価は,次の5つの観点からまとめられている。その概要を紹介する。

  1. 読書とは何か(What is reading?)
     本に限らず多様な媒体のものを読書の対象とするという考えに基づいたうえで,「読む人」に焦点を当て,その人の能力や興味に応じて支援活動を行った。読む能力を向上させることで,人生における機会を広げることができるという点を重視している。
  2. 誰のための読書か(Who is reading for?)
     読書はすべての人の人生を豊かにするものであるので,NYRのような活動は,すべての人々を対象にすることが重要である。読書の定義を広くすることで,自分は読書とは関係がないと思っている人々をも活動の対象とすることができる。
  3. 読書を推進するためには(How can reading be promoted?)
     図書館利用や意識変革等についての活動指標が設定され,それを達成するために,様々なキャンペーンやプロジェクトが実施された。活動の成功は,各地の地元レベルで活動した,図書館,地方自治体,学校,メディア,出版社等との連携によるものである。
  4. より良い読書のためには(How can reading be improved?)
     読書の重要性や利点を感じていない人々を主たる対象として,読書の価値を広めることが必要である。活動では,「強いアイデンティティ」「洞察に富むメッセージ」「効果的なパートナーシップ」「(活動の基となる)しっかりした根拠」「上手な広報」が重要である。
  5. 今後への勧告(Our recommendations)
     読書文化(reading culture)の変革を目指し,NYRの成果を今後に活かしていくための枠組み作りとして,読書についての研究活動,政府や地方自治体の取組み,優良事例やデータの共有,等についての勧告を行っている。

Ref:
http://www.readingforlife.org.uk/fileadmin/rfl/user/21522_NYR_Guide_AW_v3.pdf
http://www.literacytrust.org.uk/literacynews/othernews.html#rtff
http://www.readingforlife.org.uk/
http://www.yearofreading.org.uk/wikireadia/
CA1241
CA1354