CA1354 – 英国読書年をふりかえって / 高橋美保子

カレントアウェアネス
No.256 2000.12.20


CA1354

英国読書年をふりかえって

日本では2000年の今年が子ども読書年であったが,英国では一足早い1998年9月から1999年8月までがNational Year of Reading(NYR)であった(CA1241参照)。

NYRは読み書き能力の向上を主な目的として政府によって立案され,大きな予算がついた。実際の活動は,教育雇用省の委託を受けたNational Literacy Trustを中心とした「ナショナルチーム」によって行われた。ナショナルチームは自ら活動を主催するのではなく,公共図書館等による地域活動を援助する役割を担った。ここでいう援助とは,ニュースレター,活動情報に関するデータベースやWebサイトといった資源の提供,出版物の配布や月々のテーマの提案などである。

2か月にわたるテレビコマーシャル,有名人を起用したプロモーションイベント,700件以上の雑誌等の記事と約200回の放送番組という派手な宣伝活動が行われた。この結果,NYRは地方でも広く認識され,賛同する企業から多くの寄付金や協力が寄せられた。例えばプリマスで開催されたイベントに18,000人を超える子どもと大人が参加するなど,NYRは幅広い多くの人々の参加を得ることに成功した。

このたびNYRの報告がまとめられた。文献調査,アンケート調査,インタビュー等をもとに評価が行われた。そのうちのアンケート調査(1999年3月実施,回答114件,回答率77%)の結果について紹介してみよう。

NYRでは,図書館によって創意に富む活動が多数行われた。それらの活動において図書館がターゲットとした対象は,就学前の子ども(79%)がトップで,成人(68%),親子(68%),小学校(68%),放課後の子ども(66%),中学校(49%)などが続く。しかし,これらはもともと公共図書館の強みである対象であり,少数民族(23%),障害児(18%)などはほとんど対象とされていなかった。

また,NYRを利用して多くのサービス機関が新たに他機関との協力関係を築いたり,既存の関係を強化したりした。「最も効果的だった他機関との協力」としては,地元の学校(18%),他地方の行政庁(15%),地元の教育局(14%)などが上位であったが,書店(6%)やスポーツクラブ(4%)なども挙げられた。

以上の結果からは,NYRが読書に対する創意に富む活動を生み出した画期的な計画であったと評価できよう。NYRは多くの人々の参加を得て,多くの人々の読書への扉を開いた。

また,NYRは海外からも注目を集めた。特に政府主導で行われたことが各国の関心を引き付けたようだ。日本を含む多くの国から問い合わせがあり,同様の取り組みがハンガリーやスペイン等の国々で計画され,実施に向けて動き始めている。

一方でNYRは読書運動の始動装置に過ぎないともいえる。NYRが築いた土台をどのように発展させていくかが今後の課題であろう。

NYRはすでに終了しているが,期間中に開始された運動は,次の段階であるRead On Campaign(ROC)に引き継がれている。ROCの活動としては,子どもの読書のモデルとなるように親などを読書運動に参加させるための支援,少数民族や障害児といった対象への働きかけ,読者を育てる図書館の役割向上への取り組みなどがある。すでにウエストミンスター市内で読み書き能力と読書の支援のための協力組織が設立されつつあるなどの実例がある。

日本の子ども読書年は2000年いっぱいで終わる。子ども読書年は読者や地域,図書館などのサービス機関に影響を与え,今後,継続的な運動への発展につながるものとなるのだろうか。期待を持って見守りたい。

高橋 美保子(たかはしみほこ)

Ref: Streatfield, David. What we learnt from the National Year of Reading. Pub Libr J 15(1) 12-13, 2000
National Year of Reading 1998-1999. [http://www.literacytrust.org.uk/campaign/readon.html] (last access 2000.10.20)