CA1241 – National Year of Reading−英国のリテラシー向上への取組み / 嶋田真智恵

カレントアウェアネス
No.235 1999.03.20


CA1241

National Year of Reading
−英国のリテラシー向上への取組み

リテラシー(読み書き理解する力)が不十分なまま学校を出た生徒達は社会の周辺に押しやられてしまう。最近の調査で英国は,リテラシーに関して,先進8カ国の下から3番目に位置するという。

英国は保守党政権時代から教育水準の低下に危機を感じていた。1988年の教育改革では「全国共通カリキュラム(National Curriculum)」を導入し,教育水準の向上を図ってきた。またカリキュラムの定着をみるため,1991年から7歳,11歳,14歳を対象に「学力到達度試験」を行っている。

ところがこれらの学力到達度試験の結果,一昨年は11歳の生徒の40%が国語(英語)の目標レベルに届かなかった。そしてとりわけ男子生徒のリテラシーの低下が問題とされている。一例を挙げると,1997年GCSEテスト(一般中等教育修了試験)の結果,女子生徒は65%がCレベル(大体平均程度)に到達しているが,男子生徒は43%しか達していないという。

男女の学力差の原因はいろいろ考察されているが,読書は女々しいという先入観があること,フィクション中心の図書館の蔵書が男子生徒の好みに合っていないこと,家庭内で読書をする父親のモデル像が必要といったような研究が報告されている。これらの研究をもとにバーミンガムの図書館では,男子生徒の好みそうなスポーツの雑誌やノンフィクションの図書をそろえ,父親に家庭で子どもと読書をするよう働きかけている。一方政府は,教材にシャーロック・ホームズ等の推理小説を推奨して生徒の関心を引こうとしている。

このような背景をもとに,英国では1998年9月から1999年8月までの1年間National Year of Reading(NYR)が設けられている。この運動は読書をリテラシー育成の基本と位置づけ,国民の読書活動を活発にすることを主目的とする。生涯学習の見地から英国に住むあらゆる人々を対象としているが,特にマイノリティや読書離れの進む若者層をターゲットとする。

おもな活動内容としては,

  • 子ども達に読書を奨める立場の図書館員,教師,両親,ボランティアに対して,NYRの活動やイベント情報を提供する。また,彼らが何かNYRにちなんだ活動を企画するときのために,その手法やヒントなどを盛り込んだアドヴァイスシートを作っている。
  • 月ごとに特定の分野をクローズアップし,イベントの企画などに役立ててもらう。例えば12月は演劇の本,3月はスポーツに関する本,6月は旅行の本といった具合。スポーツ関係の本を特集し,各図書館で父と息子に読書をアピールするなどの企画も考えられる。
  • NYRのロゴを作って読書年をアピールする。ショートブレッドで有名な製菓会社のWalkers'はパッケージにロゴを印刷し,郵便局はNYRの消印キャンペーンを行うという。
  • 有名人や若者のアイドルを起用して,あまり本にふれない人々を対象にマスメディアを使って読書の重要性や楽しさを伝える。
  • web上で優秀なイベントや活動についての意見を交換できるようにする。

NYRの主催はNational Literacy Trust(NLT)というチャリティ団体である。この団体は英国のリテラシーの向上を目的として,1993年に創立された。

NLTは,人々のリテラシー能力向上を図る教育者などに情報提供・支援を行っているほか,“Reading Is Fundamental, UK (RIF)”という活動をしている。これは子ども達に無償で本を与える活動で,30年前アメリカで始まった。英国では1996年に開始され,昨年は5万冊の本が子ども達に渡されている。

労働党政権は基本的に保守党の教育改革を受け継ぎ,リテラシーの向上に力を入れている。NYRの後押しとして,5,000万ポンド以上の支援を公約した。うち2,400万ポンドはイングランド全土の学校に配られ,各学校は1,000ポンドで蔵書の再構築を図る。また1月には2,300万ポンドが蔵書購入の目的で追加される予定である。

一方180万ポンドが子ども達に読書を奨めるテレビキャンペーンの宣伝費に費やされる。既に父親が子どもに本を読んできかせるCMが,サッカーの試合の合間に流された。またBBCの協力により,人気ドラマBrooksideに,登場人物がリテラシーの問題で困難に巻き込まれるストーリーが組み入れられることになった。

NYRの新聞等での受け止められ方は好意的であり,滑り出しは順調といえよう。しかし,保守主義者の中には人気ドラマを利用することに批判的な者もいる。視聴者はドラマを真面目に受け取らないし,スポンサーは顔をしかめるだろうというのが理由だ。だが教育雇用相のブランケット(Blunkett)氏の言によれば,政府がリテラシー問題に焦点を当て始めてから,既に本の売り上げは伸びているとのことだ。

リテラシー向上は英国では長年の課題である。一朝一夕に解決する問題ではないだろう。しかしマスメディアを使った大がかりなNYRのような運動は日本では考えられない。こうした活動が人々を読書体験に向かわせるきっかけになるなら,大きな効果があるといえるのではないだろうか。

嶋田 真智恵(しまだまちえ)

Ref: Berkeley, Virginia. The National Year of Reading: an idea whose time has come? Sch Libr 46 (2) 60-61, 1998
Attenborough, Liz. Project Director of the National Year of Reading, counts down to the beginning of the Year. Libr Assoc Rec 100 (7) 344, 1998
Dunne, John et al. The crisis in boy's reading Libr Assoc Rec 100 (8) 408-410, 1998
篠原康正 諸外国の教育改革:イギリス(1)1990年代のイギリス教育改革の動向 教育と情報(483)40-45,1998
佐々木毅 教育改革と教育の水準:イギリスの場合 教育と情報(470)34-37 1997
The Independent 1998.9.17
The Guardian 1998.9.17
朝日新聞 1998.2.10
National Year of Reading-Connect!-FAQs and their answers. [http://www.yearofreading.org.uk/connect/index.html] (last access 1999.1.7)
About the National Literacy Trust. [http://www.literacytrust.org.uk/About/index.html] (last access 1999.1.7)