E877 – IFLA,記録文書が含む個人情報へのアクセスに関する声明を公表

カレントアウェアネス-E

No.142 2009.01.21

 

 E877

IFLA,記録文書が含む個人情報へのアクセスに関する声明を公表

 

 国際図書館連盟(IFLA)運営理事会は2008年12月3日の運営理事会で,記録文書に含まれる個人情報へのアクセスに関する声明“Statement on Access to Personally Identifiable Information in Historical Records”を発表した。

 声明では冒頭で,情報への自由なアクセスと表現の自由は,現在のことがらに限らず,個人的かつ私的な歴史的記録の原資料に対しても適用されるのが原則であると表明している。その上で,歴史的原資料は,短期的には公開や論争から保護を得るものの,長期的には人類共通の遺産の一部分として,保存され利用可能とされなければならない,としている。その上でIFLAは,図書館員がなすべきことを,以下の4項目にまとめている。

  • 伝記や系譜,その他の調査研究や出版目的で,個人情報を必要とする研究者に対して,図書館員は記録入手のサポートをおこなうとともに,個人情報を含む情報が破壊,あるいは不適切な期間にわたり非公開にされようとしている時には,立法者に対してロビー活動を行うべきである。
  • 政府が歴史的な記録を隠蔽することを可能にする記録の廃棄に対して,図書館員は反対すべきである。またこれら記録の保存とアクセスのための規則を,公文書館や公文書館専門職員の団体とともに構築すべきである。
  • 生存している個人に対し損害を与える可能性が消滅した記録について,図書館員は過去に非公開とされた部分を,速やかに再公開できるようにロビー活動を行うべきである。
  • 図書館員は,データ記録の機密性に関する立法状況を監視するとともに,政府機関が図書館の利用を監視するといった乱用から利用者を守るために,プライバシー法の必要性を支持すべきである。

 さらにIFLAは声明の背景を,声明と同時に公表している。そこでは,個人情報に対する,電子環境がもたらした相反する2つの動向,及び研究目的での個人情報の重要性,さらにこれら個人情報を含んだ記録の置かれている現状について解説をおこない,この問題に対するIFLAの方針について3点にわたり言及している。

 すなわち,人口統計,生没の記録,結婚証明,軍歴,年金記録,遺言,学校の記録など,主に政府が収集・編纂した,氏名とその人物の詳細が結びついているデータ類は,文書館や多くの図書館で所蔵されており,これらの記録に対するアクセスを利用者に提供することが可能となっている。またこれらの記録から個人情報を取り除き,統計的に処理して利用することが,とりわけ今日の電子環境下においては,可能である。

 一方で電子環境の進展は,複数の情報源からデータを収集,再編集することを容易にしており,個人のプライバシー侵害を引き起こす,新たなデータ形成の可能性をももたらしている。だが個人情報を含むデータは,歴史学,社会学や系図学などの研究や,過去・現在・未来にわたる政府活動の説明責任の研究に,必要となり得るものであることも,指摘している。

 また個人情報を含む記録の置かれている現状を,個人情報の窃盗やテロ対策,プライバシー保護法の制定により,政府や公文書記録所が,個人が識別できる情報を含む記録へのアクセスを制限したり,記録そのものの廃棄を行ったりする傾向にある状況だと解説する。

 このような現状認識を踏まえIFLAは,生存中の個人のプライバシーの保護,あるいはより上位の公共善に反しない有効な目的である限りにおける営業機密,政府の情報保護の必要性を受け入れながらも,必要なことを受け入れる,しかし「永久的な非公開措置や記録そのものの破壊は,それがプライバシー保護の名目を掲げていても,検閲の悪質な一形態にすぎない」としている。

Ref:
http://www.ifla.org/faife/policy/personal-historical-records.htm