E825 – 斬新なデザインのチェコ国立図書館新館建設,暗礁に?

カレントアウェアネス-E

No.134 2008.08.27

 

 E825

斬新なデザインのチェコ国立図書館新館建設,暗礁に?

 

 チェコ国立図書館は,増え続ける蔵書への対応と利用者のニーズに応じた現代的なサービスの提供を目的として,2004年から新館建築の必要性を提起してきた。そして政府の文化省と,同館が所在するプラハ市の承認のもと,2006年から国際建築設計競技(コンペ)を開始した。そして2007年,355点の応募作品の中から,チェコ生まれで現在はロンドンで活躍している71歳の建築家・カプリスキー(Jan Kaplicky)氏の作品が,最優秀賞に選定された。これは,新聞が「タコ(octopus)」や「染み(blob)」と形容しているようにユニークな形状をしたもので,外装は黄緑色で随所に丸い穴(窓)があり,内装は紫色,という未来的なデザインである。

 ところが,このあまりにも斬新なデザインに対し,チェコ大統領,プラハ市長,国立美術館長らから批判の声が上がった。世界文化遺産にも指定されているプラハの歴史的建造物群に近いエリアには,あまりにも不釣合いな建物だと言うのである。また,コンペの際の規定では,地下書庫は認められていなかったにもかかわらず,正当な手続きを経ることなく地下書庫が認められ,地下書庫を採用しているこのデザインが選出されたとして,チェコ政府の反トラスト局に対し,コンペの無効を訴える申し出もなされている。反トラスト局は欧州委員会(EC)の見解も参考に,対応を検討しているという。

 このような批判の一方で,このデザインを支持する声も多く上がっている。テレビ番組での視聴者投票では70%が支持するという結果が出たほか,プラハ市内にこのデザインを模したケーキを焼くパン屋も現れたという。海外の図書館員等による署名の提出や,支持するミュージシャン等によるコンサートも開催された。

 こうした賛否両論が渦巻く中,文化大臣が2008年7月24日,チェコ国立図書館新館建設のための費用を予算に計上しなかった旨を発表した。ここでは,財政難を理由に,旧館のリニューアルまたは現在プラハ市内に別置されている書庫の活用が代案として提案されている。これに対し,チェコ国立図書館側は,収蔵能力の限界,利用者への資料の迅速な提供の必要性,旧館は川沿いにあり洪水の被害に遭う恐れがあること(S001参照),予定どおり着工しなかった場合には違約金を支払わなければならないことなどを理由に,予定どおり建設することが唯一の解決策だと主張している。また反トラスト局に対しては,司法の場で争う構えを見せている。

 新館建設プロジェクトはコンペ終了直後から大きな物議を醸してきたが,事態は政治・司法の場に発展してきており,今後の見通しは不透明である。

Ref:
http://www.nkp.cz/novabudova/
http://www.nkp.cz/competition_library/ENinfo.htm
http://www.nkp.cz/_en/files/ar2006.pdf
http://www.nkp.cz/_en/files/ar2007.pdf
http://www.bdonline.co.uk/story.asp?sectioncode=426&storycode=3098360  
http://www.bdonline.co.uk/story.asp?sectioncode=449&storycode=3108875
http://d.hatena.ne.jp/rybicka/20071013
http://d.hatena.ne.jp/rybicka/20080218
http://www.ceskenoviny.cz/news/index_view.php?id=324520  
http://www.ceskenoviny.cz/news/index_view.php?id=324746
S001