E739 – 「読む」ことの減少が招く危機−米国の報告書から

カレントアウェアネス-E

No.121 2008.01.23

 

 E739

「読む」ことの減少が招く危機−米国の報告書から

 

 米国芸術基金(NEA)は2007年11月,政府機関や大学が実施した40を超える統計調査の結果をもとに,米国における「読む」習慣の現状について包括的な分析を行い,その結果を報告書「読むべきか,読まざるべきか:国の行く末への疑問(To Read or Not To Read: A Question of National Consequence)」として公表した。関係者によると,信頼できる,国家を代表するデータを一堂に集めて分析する試みはこれが初めてであるという。NEAは2004年に,18歳以上を対象とし文学作品の読書傾向に的を絞った研究を行ったが(E224参照),今回は年齢や読書の対象を広げ,本,雑誌,新聞,オンラインで読むこと等も含めた「読む」ことの現状をあらゆる世代において分析している。

 今回の分析から,

  • 米国人が「読む」ことに費やす時間は減少している。
  • 米国人の読解力は徐々に低下している
  • こういった減退は,市民生活,社会,文化,経済にとって深 刻な結果をもたらす。

 という3つの結論が導き出された。1点目を例証するものとして,ヤングアダルト世代の読書率が減少していること,ティーンエージャーにとって「読む」ことが日常的な活動ではなくなってきていること,大学卒業という学歴が「積極的に読む習慣」を示しているわけではないこと,などが挙げられている。2点目を説明する根拠としては,17歳の読解テストの平均点が1992年から下がり続けていること,読解力の熟達度が,性別で見ると,女性で横ばい,男性で減少となっていること,学歴で見た場合,全ての学歴において減少していることなどがある。3点目の根拠としては,読み書き能力の不足を雇用の際の最大の欠点だとする雇用者が最も多いこと,読解力の高い人は,一般的により高収入な仕事に就いていること,読解力が低い人ほど出世の機会が限られていること,よく「読む」人ほど,ボランティアへ積極的に参加するなど,「よき市民」であること,などが挙げられている。

 今回の分析結果は,米国人があまり読まなくなっているということが,結果的に米国社会全体の減退にも繋がりかねないことを明らかにしている。NEAのジェイコブズ(Vance Jacobs)会長は前書きで,米国にとってネガティブな結果を示したこの報告書が,読むことが人生や社会をよりよいものに変えるきっかけになるということを,教師,親,図書館員,作家,出版社,政治家,エコノミストなどあらゆる人々に気付かせ,現状を打破するための国家的な取り組みにつながるような真剣な議論の起爆剤となってほしいとし,今後への期待を表明している。

Ref:
http://www.nea.gov/news/news07/TRNR.html
http://www.nea.gov/research/ToRead.pdf
E224