E731 – 機関リポジトリの構築指南書<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.119 2007.12.12

 

 E731

機関リポジトリの構築指南書<文献紹介>

 

Jones, Catherine. Institutional Repositories: Content and Culture in an Open Access Environment. Chandos Publishing, 2007, 204p.

 本書はその副題にあるように,機関リポジトリ構築におけるコンテンツと文化的側面に関連したトピックを中心に書かれたもので,技術的側面についてはほとんど触れられていないのが特徴的である。

 本書の構成は,大きく分けて3部,全8章からなる。最初の1,2章では,リポジトリと学術情報流通の概説を行っている。そもそもリポジトリとは何か,機関という名称がつくことの意味は何かを問うことからはじまり,変化しつつある情報環境においてまず利害関係者(エンドユーザ,情報提供者,情報仲介者,メタ情報利用者)は誰であるかを特定し,その中でも情報提供者が持つニーズを把握することの必要性を説いている。3〜5章では,リポジトリ構築の各段階においてなすべきことを説明し,次にコンテンツについて,メタデータや登録候補となる学術情報の性質をリポジトリへの登録と関連させながら紹介している。6章では事例紹介として,英国研究会議中央研究所会議・クランフィールド大学・オタゴ大学における機関リポジトリの運営・構築の実務事例が紹介されており,リポジトリ成功のための手法なども挙げられている。残りの7,8章では今後の展望を述べている。

 著者が述べているように,当然ながら本書に書かれていることが唯一の正解ではない。機関リポジトリを立ち上げようとする機関,最大の情報提供者である教員それぞれが異なる組織形態や規範,すなわち本書でいう「文化」を持ち合わせている。構築側がまず自らの「文化」を理解することが,リポジトリ構築に欠かせない。その意味で本書は,すでに構築が進んでいる機関向けというよりは,計画段階にある機関にとってより有用かもしれない。また,国立情報学研究所編『学術機関リポジトリ構築ソフトウェア実装実験プロジェクト報告書』の第2部(E323参照),倉田敬子編・著『電子メディアは研究を変えるのか』および『学術情報流通とオープンアクセス』等の概説を読むことで,本書のさらに理解が深まると思われる。

(慶応義塾大学非常勤講師:三根慎二)

Ref:
http://www.e-science.stfc.ac.uk/organisation/staff/catherine_jones/
http://www.nii.ac.jp/metadata/irp/NII-IRPreport.pdf
E323